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歩んだ先に 8

ノインの決めていたと言う店は、なんとカレー屋だった。


「スパイスの匂いがしてた。」


同じ道を通っていたはずの私には全く分からなかったし、今も店の前に来てようやく感じる程度。


恐ろしい、ノインの食い意地。

いや、なんかそれとはまた違うような?


「入ろう。」


待ちきれないのか、さっさと入ってしまうノインに慌てて後を追って中に入る。


ふわっとスパイスの匂いを感じて、再びお腹が鳴りそうなのを押さえる。


店の中は満員に近く、かなり奥のスペースまでテーブルは埋まっていた。


「うわ、満員かな?」


とノインに聞こうとしたら、視線の先にはもう姿はなく、慌てて探したらとあるテーブルに移動していた。


慌てて近づく私は、テーブルにいる人物に驚愕して声をあげる。


「ゆ、ユーリンさん!?」


「ぉ?ははっ、見覚えがあると思ったら!」


あの料理の属神ユーリンが、テーブルいっぱいに皿を並べて食事していたのだ。


「ユーリン、相席。」


「ああ、構わないぜ。おっちゃん!いいだろ?」


そのテーブルから厨房はすぐ見える範囲で、ユーリンの声に男性があいよー!と片手をあげた。


「じゃあ、お邪魔します。」


空いている長椅子の方に座ると、私の膝にピョンとライガが乗った。それを見たユーリンがおお、と頭を撫で始める。


「フォレストキャットだな?アネモネ、従魔を連れてるのか?」


「うん、ちょっと縁があってね。」


私がそう言うと、ライガは一鳴きして愛想を振り撒いた。ユーリンは満足したのか、ライガから手を離す。


「早速、会えちまったな。」


「うん、ビックリしましたよ。まさかノイン、知ってたでしょ?」


とからかい半分でそう言うと、ノインはメニューに顔を埋めて誤魔化した。


「あっはっは!俺のお気に入りの店に来てみたら、本人がいたから焦ったろ?」


「違う、知ってた。」


「お前、頭にブーメラン刺さってるぞ?」


ユーリンの言葉で私は思い出した。

───私への接触は程々に、とユーリンに言ってた気が。

まさかノイン、食べたいからいいか、って判断したとか言わないよね?


心の問いがノインに届いていたのか、誤魔化すように私にメニューを押し付けた。


「アネモネ、注文。」


「ぶっ、くく。わかった、わかった。」


ノインのそんな反応が笑えたが、お腹が空いてるので早く食べたいのでメニューを開く。


なんとか読めるのとユーリンのアドバイスを聞いて、バターチキンカレーとナン、ラッシーを注文。

ライガには店のご厚意でスパイス抜きの肉と野菜のご飯を用意してもらえた。


「ありがとうございます。」


厨房から半身だけで挨拶にきた店主の男性は、笑みを浮かべて照れていた。


「いやいや、まさかこいつにこんな美人が知り合いにいたとは。ユーリン、ずりぃぞ。」


「あっはっは!彼女はダメだぞ!めちゃくちゃつよぉーい護衛がいるからな!」


とユーリンは私の隣で黙々と食べるノインをチラ見する。男性はなるほどな、と察したようにあきらめて厨房に去っていった。


「はいよ、お待ち!」


男性の奥さんらしき褐色肌の女性が運んできた注文品がテーブルに並ぶ。

私の知ってる見た目通りでホッとしつつ、いただきますをする。


ナンをちぎって、バターチキンカレーにつけて食べる。

口の中にスパイスが広がり、程よい辛さが食欲をさらに刺激する。


「んっ、美味しい。」


「だろ?あっちと変わらないだろ?」


ユーリンはにかっと笑って私に言った。頷きながらもさらに一口。

うまぁ、こっちに来てもカレーが食べられるのは幸せ!


「ユーリン。こっちのお嬢ちゃんはイーシアー出身かい?」


先ほど運んでくれた女性が声をかけてきた。聞いたことのない地名だが、ユーリンは笑って手をふっている。


「いや、彼女の故郷にもあるんだよ、カレー。ただ、もう少しとろみのあるルーだがな。」


さすがユーリン、日本のカレーも知ってるんだ。


前にネットで知ったけど、本場と日本のカレーの差はとろみ、があるかないからしい。何でも小麦粉が入るとこうなるらしい。


そういう話をユーリンが分かりやすく女性に話していた。


日本、とは言わずに故郷、と言って誤魔化していたが特にそれを問われることはなかった。


「なるほどねぇ。お嬢ちゃん達は旅の冒険者だったんだねぇ。なら、明後日の祭りには参加するのかい?」


「はい。」


「おお、楽しみだね。もうかれこれ20年も今の魔帝王様のままだからね。」


そんな話をしてたが、女性は別の客の注文に呼ばれて私達から離れていった。


「アネモネ、祭りに出るのか?」


ユーリンは驚いた顔で私を見ていた。


「戦うのは、慣れたのか?」


そして、心配な表情に変わったのを見て、私はふと疑問になった。


「あれ?てっきり知ってるとばかり。」


「アネモネ、あれはエレルドにいたから。」


ノインは食べ終わって口元をハンカチで拭いながら、私の疑問に答えた。


「エレルドではすべてを共有。ファレンジアにでは別。」


「────やっぱり、共有してたのね?」


ジロッとノインを睨むと、慌てたノインがごめん、と小さく謝った。


「あっはっは!ノインがこんな顔するのを見たのは初めてだな!」


「ユーリン、謝る。」


「あっはっは!悪かった、アネモネ。俺らにとっちゃそれが当たり前だったから、プライバシーも何もなかったな。いや、本当に悪かった!」


ノインとユーリンが揃って頭を下げてくれたので、ごほんと咳払いをして許す私。


「まぁ、今は共有されてないならいいよ。」


「ああ。共有してたら、ノインがこの店にアネモネをつれてこないだろ?」


「あ、確かに。なら、ファレンジアに下りてからの話をしますね。」












「なるほどな。魔物の狂暴化は確かに噂があったな。」


ユーリンには下りてからイズリールにいたこと、マッシュカウの調査をしたあと、ここにきた位で話を止めた。


マルスのことを話してもいいけど、ユーリンには関係なさそうだから省略した。


「原因は分かってるのか?」


「うん。」


「その関係で私は祭りに参加する予定なんです。」


ノインと私が理由を説明すると、納得できたのかユーリンは頷いた。


「そうか。アネモネ、無理はするなよ?」


「はい、頑張ってみます。」


「ははっ、俺は明日には別の街に行かねぇと。見れなくて残念だ。」


ユーリンは頭をかいて苦笑いした。気になったので次の予定を聞いてみる。


「次はどこへいかれるんですか?」


「ああ、魔の森にな。」


以前チラ見した地図にあった、この大陸の中央にある大きな森林地帯だ。


「気をつけて行って下さいね。」


「おぅ!じゃ、俺は宿に帰るわ。」


ユーリンは立ち上がると、先程の女性に話しかけてから店を出ていった。

手をふって見送った後、ノインは引き続き何かを頼むつもりらしく、メニューをみていた。


「ラッシー、追加で。」


「甘くて美味しいよね。」

おのれ!おのれ!飯テロ!

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