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暗闇は足音なく 1

なかなか話が浮かばず、遅くなってすみません。

美味しかったカレー店からドアを開けて出ると、夜風が吹いて気持ち良かった。


夜は更けて街灯に照らされた大通りには、賑やかな騒ぎがそこかしこで聞こえている。


「じゃ、帰ろうか。」


後ろにいる支払いを済ませたノインに話しかけるが、当の本人は夜空を見上げている。

やがて、睨むようにアッシャルダ城を見つめた。


こういうときは、嫌なことが起きるパターンだ。背筋がゾワゾワしつつ、ノインに問いかける。


「どうしたの?」


「──────邪法が使われた。」


やっぱりですかいぃっ!と心の中で叫びつつも私は頭を抑える。その間にノインが何かを察知して話を続ける。


「マルスと後一人に使われた。」


「えっ!マルスが!?」


マルスの名前を聞いて、イケメンのピンチ!と心の中で思ったら、もう足はアッシャルダ城を目指して走り出していた。


ノインが並走しながらこっち、と誘導してくれたおかげですぐにアッシャルダ城近くまで来れた。


止まって、とノインに言われて立ち止まると、近くの建物の影からマルスの姿を見つけた。


フラフラな足取りで幽霊のような佇まいに、私は迷うことなく近づく。


「マルスッ!」


声をかけて正面に回り込む。すると、ゆっくりとした動作でフードが揺れて項垂れていた顔が持ち上がる。まさに幽霊と変わらぬ表情と虚ろな瞳のマルスに、私はそのマルスの両肩を掴む。


「マルスッ!しっかりして!何が───」


声をかけるとマルスの瞳が一瞬だけ光を帯びたかと思ったら、糸が切れたかのようにマルスは私に倒れ込んだ。


慌てて抱えると、マルスの身体が軽く感じてビックリするも、すぐに加護のおかげと察した。


「ど、どうしよ、ノイン。」


「大丈夫、気を失っただけ。」


マルスを抱いたまま、すぐ近くにいるノインに話しかける。体格的に頭が私の肩を通り越してもたれ掛かってる為に身動きがとれない。


「とりあえずどこかに寝かせな────」


「誰か来る。」


私が話しかけたその時にノインが制する。視線の先を追うと、道の向こうから慌ててこちらに近づくローブを着た男性の姿が見えた。


「マルスッ!」


近くに来た男性は、マルスと同じ金髪だが長くハーフアップにした髪型で、まるで兄弟のように似ていたせいか、私は邪法を使っている王子かと少し警戒する。


「君たちは?」


「私はマルスの友人です。用事があって探していたら、急に倒れてしまって。」


私がそう話すと、男性は少しホッとした顔になり警戒を解いた様子だ。


「そうか、マルスにも友人がいたのか。」


「失礼ですが、貴方は?」


「あ、ああ、すまない。私は彼の身内だ。助けてくれて感謝する。後日、礼に伺わせよう。」


と男性はマルスを引き取ろうと近づく。私はノインをチラ見すると、ノインは私を見て頷いた。

それを見て、私は男性におんぶしたほうがいい、と助言してから、男性の背中にマルスを乗せた。


「私達は彼に用事があるので、ご一緒します。」


と男性の正面に回り込んで話すが、男性は視線をそらしてから苦笑いする。


「後日ではダメかな?」


「────彼に邪法が掛けられたのを確認しています。見過ごせません。」


「なんだってッ!?」


男性は肩ごしにマルスを見た。すぐに苦い顔をした後、私達についてきてくれ、と言って走り出す。


言われた通りについて走ると、なるべく人がいない道を選んでるのが分かった。

幸い、夜更けということで人も少なく、私達は静かな住宅地を駆け抜けていった。











やがて、たどり着いたのは魔法士ギルドの裏側で小さな裏口の門はわずかに開いていた。


「開けてくれるかい?」


男性にいわれ、私は先頭に立って開いて男性とノインたちを中へいれて門を閉めた。


すぐ目の前のドアはノインが開けたらしく、私は周囲を見渡してから一緒に中へ入る。


中にはベッドや家具がチラホラあり、男性はすぐベッドにマルスを寝かせる。私も手伝いながら、布団をかぶせると、私達は同時に一息ついた。


「助かったよ、ありがとう。えっと、」


「アネモネです。こちらは仲間のノイン、私の従魔のライガです。」


「ああ、こちらも名乗ってなかったな。私はアレックス。こいつの叔父、母親の弟になる。」


身内だ、と言ってたがまさかそこまで近い身内だったとは。

アレックスは苦笑いを浮かべながらも改めて礼を言う。


「君たちはマルスの友人と言ったね。邪法についてはマルスから聞いたのかい?」


「いえ、私たちは邪法を根絶する為に旅をしていまして、独自の方法でたどり着いたので。マルスとはその際に知り合いました。」


「なるほど、邪法の根絶か。途方もないが達成されたら偉業だな!何かあれば援助しよう!」


アレックスは尊敬の眼差しを私に向けた。


あれ?なんか思ったよりも凄いことっぽいな。最初はノインの一言から言い訳のように使ってたけど、ここまで期待されてることなら、世界変革の一つとして、目的に加えてもいいかもね。


「その時にはよろしくお願いします。」


「ああ。そうか、邪法の根絶か。君たちなら邪法をどうにかできるのかい?」


アレックスの言葉に私は頷いた。


「ええ、方法は教えられませんが。」


「ふむ。それは気になるが、邪法をどうにかしてくれるなら出来る限り協力しよう。」


アレックスは私達を信用してくれたらしく、先程の警戒する気配はなくなったようだ。


「だが、話す内容は内密に頼みたい。その、込み入った事情があってな。」


言葉を濁すアレックス。恐らくマルスのことや邪法を使ってるのが王子だと言うことが含まれてるからだろう。


「マルスが王子であることや、邪法の使い手が彼の兄弟であることは承知しています。」


「ん、マルスからある程度は聞いているのかな。」


「まぁ、そんなところです。」


ちょっと強引な方法で無理矢理話させた、が正解な状態だが黙っておこう。

アレックスが話に入ろうとしたその時、入ってきたドアとは別のドアからノックをした。


アレックスがドアを開けると、廊下らしき向こう側に男性がたっていた。アレックスを見てから私達をみるが構わずに小声で用件を話している。


用件を聞き終わったアレックスは、私達を見て困った様子で話す。


「すまない、呼ばれてしまった。マルスを看ていてくれないか?」


「わかりました。」


私の返事を聞いて、アレックスはにこっと笑ってから部屋を出ていった。


足音が去っていくのを確認してから、私はベッドの近くに椅子を寄せてから座り直す。


「ノイン、マルスの容態は?」


「今は大丈夫。」


ノインがマルスを見下ろしながら答える。私はそう、と呟いて内心ホッとした。


「邪法の影響は?」


「ない。自力で打ち破った。」


「えっ?マルスが?」


思わずマルスの顔を見るが、静かな寝息をするイケメンの寝顔があるだけだ。


「そうなんだ、すごいね。」


感心していた私にノインはサラッと聞き捨てられない発言をする。


「邪法に慣れていたから。」


「────え、ちょっと、それって。」


「多分、かなりの回数。」


私は立て続けのノイン爆弾に思わず頭を抱える。同じ状況が私に向けられたらと考えると、身震いが止まらない。


「あはは、邪法使いさんは早急に何とかしないといけないなぁ。」


「うん。」


ノインも嫌そうに頷いている。私はマルスを見つめてそっと頭を撫でた。


「そりゃ、自虐的にもなるよね。」


マルスは時々、呻くものの眠りが深いようだ。触っていても起きる気配がない。


「これ、起きるかな?」


「大丈夫、そろそろ。」


とノインがいいかけた所で、マルスはうっすら瞼をあけたので私は顔を覗きこむ。


「マルス、目が覚めた?」


「────は、はうえ?」


まだ寝ぼけているようで、うっすら目から涙もこぼすマルスに、私はその顔を見ながら苦笑する。


「ごめん、私で。」


「ッ、アネモネか。」


マルスが涙を拭いながら、上半身を起こそうとするので咄嗟に手を出して支える。


「大丈夫?」


「あ、ああ。ありがとう。」


私はマルスを見ながら笑みを浮かべるが、マルスは真っ赤な顔をしてフードを目深にかぶり直した。


「マルス、何があったの?」


「調査の報告をあいつにしたら、祭りの話になって。」


本人もおぼろげなのか、思い出すように絞り出すマルス。やがて、真っ青になっていくマルスの顔は邪法が関わってるのは明白だった。


「あいつに、祭りの有力者を、辞退させろ、と言われて、断ったら、邪法を。」


「えっ?」


マルスに邪法をかけた理由を聞いて、私は首をかしげた。


「なんでそんなこと。」


続きを聞こうとしたその時に、くぅとお腹の虫が主張する音が聞こえた。

私達は先程食べたから、この音がマルスから聞こえたのがすぐにわかった。

当の本人は真っ赤な顔をして布団をかぶった。


「あはは、お腹すいた?」


私は以前、イズリールで買ったフルーツとナイフを腕輪から取り出す。


「こんなものしかないけど、食べる?」


「────いいのか?」


マルスは布団からチラッと私を見る。あまりにも可愛いその反応に、私はクスッと笑う。


「大丈夫、まだたくさんあるから。ノイン、お皿とフォークちょうだい。」

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