歩んだ先に 6
マルスが探していた狂暴化した魔物がいなくなったのと、私達の目的も重なって、私達は森の中から街道に戻ってアッシャルダへ向かうことにした。
あの後、マルスとは互いに何者かを問わない、代わりに何かあれば協力していくことで合意した。
マルスが魔帝王の息子であること自体、身内以外宰相や大臣等の一部の人しか知らない。
それ以外で知ってるのは私達のみ、だからこちらの懐を探らない代わりに、黙っていることにしたのだ。
まぁ、私達は異世界人と属神です。と言ったところで信じるわけがないし、面倒くさいからそうさせてもらった。
街道を歩きながら、アッシャルダについて聞いてみるとマルスは少し考えた後に答えてくれた。
「そうだな、"陽風屋"にいけ。」
「ん?宿屋の名前?」
「ああ、元王家メイドが始めた宿だ────知り合いだ。」
マルスが口ごもった理由を察した私は、なるほどねと相づちを打った。
「行ってみるわ。教えてくれてありがとう。」
私が笑って礼を言うと、マルスはフードを目深にかぶってしまった。そのまま正面を向き直って街道の先に見てる。
「俺は魔法士ギルドの寮にいる。何かあれば、魔法士ギルドに聞いてくれ。」
「うん、わかったわ。」
山の端を迂回する街道からようやく見えたアッシャルダの街は、イズリールよりも数倍の広い都市だった。
建物の数は勿論、もうすぐ夕暮れになるので街灯も多く付いてるのが見えた。
「大きな街だね。」
「まぁ、一応小国の王都だからな。」
「そうなんだ。」
私の言葉に眉をひそめるが、何かを察して黙りこんだ。
街の入り口に近づくと、賑やかな音楽や声が聞こえてくる。
「ん?何かあるの?」
「明後日から建国記念の祭りだ。」
「お、祭りは初めて!」
祭りと聞いて私がテンションを上げている中、マルスはやや落ち込みながら項垂れている。
「ん?どうしたの、マルス。」
「明後日のことを思い出した。」
何かあるのか、と問いかけるとマルスははぁ、とため息をこぼして答える。
「魔帝王が代々強い魔法士がなるのを知ってるか?」
「あー、そういやノインがそんなこと言ってたね。」
「それを建国記念の祭りでやるんだ。」
私はへぇ、と答えた。何だが魔法が飛び交うショーみたいが見れるのかな?と勘ぐっていると、ノインが予想外な言葉を口にする。
「アネモネ、出る?」
「─────へっ?」
「勝ち続ければ王様になれる。」
ノインがそんなことを言うと、マルスが余りのことにパニックを起こした。
「ば、バカか?!勝てるわけないだろ!?」
「アネモネなら可能性がある。」
断言したノインに、本当なのかとマルスはこちらを見た。
「あー、まぁ、ノインが言うならそうかもね。」
「出場者はともかく、最後には魔帝王と対決するんだぞ!今の魔帝王は魔法の属神の加護を持ってるんだぞ!」
「そうなんだ。」
同じ属神から加護(極)をもらってる私があっさりと軽く返答すると、余計に心配するマルス。
「魔帝王は属性を二つ持っていて、しかも両方相性の良い光と水だぞ!」
「へぇー、凄いなー。」
純粋にすごいといってるつもりなのだが、マルスの心配は続く。
「今の魔帝王になって、もう20年近くになるんだ。その間も毎年祭りは開かれ、毎年凄腕の魔法士が挑んだが、全て負けているんだぞ!」
「すごっ!20年も防衛してるんだ。」
私は勝手にボクシングのチャンピオンの防衛を連想した。
日本人の最高記録が13勝だったよね?
そんなことを考えているのを、マルスは私を見つめているのに気づいた。
「その、聞いていいのかわからないが、俺を助けた時に使ったのは魔法なのか?」
マルスが呟いて聞いてきた言葉にあ、と私は声をあげた。
おそらく、右手の銃のことだろう。
しかし、どう説明すればいいんだろう。
「あれは────。」
ノインをチラ見すると、私の視線に気づいたノインが少し考えてから頷いてみせた。
改めて、マルスに向き直って答える。
「───これ。」
右手にハンドガンを出現させて、マルスに見せた。マルスはかなり驚いた顔になったが、すぐに興味津々に銃を見ている。
「銃、か。珍しい武器を使うんだな。」
「うん。私達の友人の特別製なの。」
「なるほど。それは君らの正体に関わるものなのか?」
マルスの問いに私は頷いた。それを見てマルスはわかった、とそれ以上追及はなかった。
「なら、アネモネは風属性なんだな。風なら戦えなくもないが。いや、その武器があったとしても無茶だ。」
「まぁ、まぁ祭りに参加する軽い気分でやるなら、最後までいかないでしょ。」
ニコッと笑って誤魔化した私に、ノインが何か言いたげだったが目配せして黙ってもらった。
アッシャルダの街道は終わりを見せ、街ので入り口にたどり着いた。
驚いたのはイズリールには街を囲むように高い塀があったが、アッシャルダには要所に変わった形の街灯らしき棒が立ってるだけで、塀すらなかったのだ。
すぐに街並みが見えるし、賑やかな声が丸聞こえだった。
「あれ?アッシャルダには高い防壁はないの?」
「ふっ、防壁はあるぞ。あの街灯がいざというときに魔力壁を形成するんだ。」
マルスが指差した街灯を再度見てから、へぇー、と私が感心すると、マルスは少し嬉しげに笑った。
「これは魔帝王が技術構築したものだ。今では世界各国の主要都市に使われてる。」
「凄いなー!魔帝王様。見てみたいなー。あ、祭りで会えたりする?」
「ああ、魔帝王との対決は参加者も見学可能だ。」
そんな話をしている間に、検問所にたどり着いた。検問所の小屋の近くに兵士らしき姿を見かけたが、兵士自身もこちらを見て慌てた様子で近づいてきた。
「マルスぼっちゃま!」
「ベナルドか。」
マルスの知り合いらしく、ベナルドと呼ばれた初老の兵士が心配そうに話しかける。
「ご無事で良かった、調査は終わりましたか?」
「ああ。もう狂暴化した魔物はいないようだ。」
「そうでしたか。」
ふとベナルドが私達を見て、ヘルムを外して頭を下げた。
「失礼しました。マルスぼっちゃまのご友人ですか?」
「────ああ、意気投合してな。」
互いのために、が付きますが。
「初めまして。アネモネと申します。これ、手続きを。」
私が軽く頭を下げてから、ギルドカードを差し出すと、ベナルドは恭しく受け取ってくれた。それを見て、ノインもすぐにカードを出した。
「確認してきます。マルスぼっちゃまも、一応出していただけますか?」
「ああ。」
マルスもローブの中に手を入れて、私達とは色の違うギルドカードを出してベナルドに渡す。
ベナルドが小屋へ向かい、小窓から確認してるのを見ながら、こそっとマルスに話しかける。
「もしかして、王宮の人?」
「元、な。騎兵隊長で俺の剣の師匠だ。」
「え?マルス、剣も使えるの?」
意外な言葉を聞いた私が問うと、マルスはまぁな、と片手を握りしめた。
「腕を痛めてからは、杖に持ち変えたがな。」
「そうなの。まだ、痛むの?」
「日常は問題ないさ。戦えなくもないが、剣士と名乗るほどじゃないだけだ。」
マルスが片手を下ろすと、ちょうどベナルドが戻ってきてそれぞれにカードは返却された。
「アッシャルダへようこそ。明後日から建国記念の祭りがありますので、ぜひご参加くだされ。」
「ありがとうございます。」
「ベナルド、また王宮で。」
マルスの言葉に、ベナルドは優しく微笑んで頭を下げた。




