歩んだ先に 5
金髪碧眼イケメンのてるてる坊主の魔法士マルスからアッシャルダ側の狂暴化した魔物の話を、自虐混じりに聞くことが出来た。
イズリールではマッシュカウだけだったが、アッシャルダはそれだけでなく、蛇型の魔物ブラックパイソンや先程のオークも狂暴化しているようで、すぐに冒険者ギルドが討伐に乗り出して収まったようだった。
「なら、収まったはずなのに、何故貴方が調査に来ているんですか?」
「最終確認だ。深い理由はない。」
そんな念の入れように、私はなるほど、とだけ返した。
「ちなみに原因は何だったんですか?」
「──────わからない。」
若干の間のあと、マルスはそれだけ答えた。私はふぅん、と言って別の話題を話そうとした時だ。
「嘘だ。」
今まで黙っていたノインが、語気を強めに発した。
その言葉にバッと振り返ったマルスに、ノインは目を細目ながらも続ける。
「アネモネ、こいつ知ってる。」
「ちょ、ちょっと、ノイン。」
「原因を、知ってる。」
マルスとノインの二人に殺気が立ち込め始め、それに触発されるように、ライガも唸り出した。
いきなりの展開に、私は慌てて二人の間に入る。
「ちょっと、二人とも、落ち着い、」
「何故そう思うんだ?」
私を無視して、マルスはノインに話しかける。
「似てるからだ。」
ノインも負けじと真顔のまま答える。
「邪法を使ったヤツと、似てるからだ。」
「ッ!!」
思いがけない言葉にマルスだけでなく、私まで驚いてノインに話しかける。
「似てるって、どういう意味?」
「言葉のまま。」
「───似てるだけで疑われるのは心外だな。」
マルスはひきつった顔でノインを睨み付けた。
「俺が邪法を使ったヤツに、そんなに似てるのか?」
ノインは真顔のまま、あっさりと言い放つ。
「ああ。」
「ッ!────なるほど、わかった。」
マルスは殺意に満ちた顔で、私達に杖を向けた。
「どうやら死にたいようだ、手伝ってやる。」
「待ってよ!!」
思わず私はマルスの杖を掴んで下に押し倒す。少し力を込めたからか、マルスは振りほどこうにも無理だと察するだろう。
「何故貴方が原因を知ってるの?」
「離せッ!」
「お願い!知ってるなら答えて!」
マルスは何度も振りほどこうとするが、掴んだ杖はガッチリと私に捕まれてほどけない。
闘争の加護は伊達じゃないな、ヤバすぎィ!
「話しても何も変わらない!」
「言ってみなきゃわからないでしょ!?」
「変わらない!変わるわけがない!」
必死になるマルスの顔がみるみる悲しみと苦しみに満ちて歪む。
「"あいつ"がいる限りッ!」
「─────あいつ?」
私の言葉に一気に頭が冷えたのか、あっと静かになるマルス。
「彼の兄弟だ。」
黙りこんだマルスに代わってノインが答える。その顔つきは険しく怒気をまとっている。
「邪法を使ったヤツだ。」
あまりにも怒濤な展開に、マルスだけでなく私がパンクしかけたので、とりあえず落ち着こうと提案し、私は一度、ノインから受け取った水筒の飲み物を口にする。
マルスは口走った言葉がショックすぎて、その場で崩れるように座って黙りこんだ。
調査すると言って、街道からやや外れた森の中にいるので、他の人たちがいなかったのが幸いだった。
「ノイン、わかることを教えて。」
私は水筒を返しながら、ノインに話しかける。
「邪法を使った人と、マルスは兄弟なの?」
「うん。」
「なるほど、だから原因を知ってるのね。何者か分かるの?」
私の言葉に答えようとしたノインを制するように、マルスは声をかけた。
「アンタ達、何者なんだ?」
答えづらい内容に、私は頬をかいてノインを見る。この気持ちを察してくれてないのか、ノインはあっさりとした言い方で答える。
「旅の冒険者だ。」
「白々しい嘘だな。」
「概ね事実なんだよね。」
思わず私が突っ込むと、落ち込んだままのマルスは深いため息をはく。
「まぁ、もう喋ったから白状するしかないか。」
マルスは再度、落ち込みながらも私達を見る。
「絶対、悪いようにはしないから。」
「────信じるからな。」
私達に念を押した後、静かに息をはいたマルス。やがて、ゆっくりと吐き出すように話し始めた。
「あいつは、アッシャルダの王子だ。」
「──────は?」
今度は私がフリーズする番となった。マルスははぁ、とため息をこぼして続ける。
「この魔帝都市を治める、現アッシャルダ魔帝王の息子なんだよ。」
私はハッと我に返った後に、震える声でマルスに問いかける。
「ま、まさか、マルスも?」
「ああ、一応な。ただ、俺だけが側室の子になるから、扱いは違う。」
金髪碧眼の自虐的な魔法士がまさかの王子様。
とんでも設定な人物を目の前に、頭の整理が追い付かなくてヤバい。
「えっと。今さらだから普通に話すけどいいのかな?」
「ああ、こんな無様な俺に敬意なんて無駄だぞ。」
この自虐がなかったら、見た目も地位も完璧なまでの王子様なんだけどな。
「あ、そう。で、話を戻すと、邪法を使って魔物たちを狂暴化させてるのは、貴方の兄弟でアッシャルダの王子様な訳ね?」
「ああ、俺は騒ぎになる前に狂暴化した魔物を片付けてこい、と言われたんだ。」
マルスは嫌なことを思い出したかのように、息をはいた。この調子だと邪法を使う兄弟が相当嫌いのようだ。
「なるほどね。ノイン、魔物はもういないと思う?」
「うん、さっきのオークが最後だ。」
先程の険しい顔から普通の顔に戻ったノインは、私の質問に周囲を見回した後に答えた。
「───何故、分かるんだ?」
マルスはギロッとノインを睨み付けた。慌てて私がフォローしようと間に入る。
「ま、魔力感知が得意なんだよ。」
「それで、俺を誤魔化せると?」
「思ってないけど、こちらも事情があってうまく説明できない。だから、そういうことにしてほしい。互いのために。」
私の言葉にマルスは、しばらく私を睨み付けた後にはぁ、とため息をこぼした。
「そうだな。」
「ごめんなさい。この事がマルスに対して悪いことにならないから、そこは安心してほしい。」
「アンタ達と深く関わって厄介なことになるのはごめんだ。」
その言葉が実現されないことを切に願うよ。




