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歩んだ先に 4

アッシャルダへ向かう街道は、何故か晴れているのに空気が重たかった。


「ん、なんだろ。この空気。」


私が呟く横で、ノインが真剣な面持ちに変わった。


「嫌な気配がする。」


「うん、そうだね。」


私は胸元だけの防具から、両腕の防具も装着する。いつでも剣と銃を構えられるように両手を握って開いた。


ライガもキリッとした顔をして、周囲警戒を始めた。


街道を少し警戒しながら歩くために、いつもよりも遅めなスピードだ。


「この辺は問題ない。」


「なら、街道の先ね。」


ノインが先頭に、ライガを後ろに控えさせて、私はこの嫌な気配が何なのかを考えながら進む。


遠くの方で遠吠えが聞こえ、私はある結論にたどり着く。


「あの時と、一緒なんだ。」


フォレストキャットのねぐらから出た所の斜面で、たくさんの動物や魔物の死体が散らばっていた、あの時の嫌な空気と。


「狂暴化した魔物が、まだこの近くにもいるのかな?」


「可能性はある。」


ノインはどこまでも遠くを見通すような目で、街道の先を見つめている。


「どちらにせよ、向かう方向だね。」


「うん。」


私達は警戒を解かずに、街道を歩き続ける。


晴れた陽気は気持ち良いが、やはり感じる空気が重たく感じて、複雑な気持ちだ。


時より、遠吠えや鳥が慌てて羽ばたく音に驚きながらも草原が続く街道は不気味だった。


やがて、太陽が真上にきた頃には、あの斜面が遠くに見える位置までアッシャルダには近づいていた。


「軽く昼食を取ろう。」


私の提案に、やや警戒したままのノインは無言で支度を始めた。


簡易テーブルに椅子を並べ、ノインが用意してくれたカツサンドとフルーツジャムのパンを口にする。


美味しくて心が弾みそうだが、今はそれを楽しむ雰囲気ではなく、ライガもノインも食事を口にするが、楽しむ様子はない。


無言の昼食は、あっさりといつもよりも早く終わり、テーブルと椅子を片付けたらさっさと歩き始める。


空気の重たさが増してきた頃、嫌な気配が接近してくるのを感じて、私達は立ち止まった。


「来る!」


ノインが剣を抜き、ライガも後ろを警戒して唸り始める。私はスコープつきのスナイパーライフルを右手に呼び出して、構えながら周囲を見渡す。


やはり、向かう街道の先に、何やら交戦している土煙が見えた。


「ノイン、誰か戦ってる!」


「どうする?」


「決まってる!行こう!」


私の言葉にノインは頷き、先頭を走り出した。私はそのすぐ近くでスコープをのぞきながら、時々足元を確認しながら走り出す。












土煙がかなり近くに見えたその場所は、森の端を街道が通っていた。


そこには色褪せた白色の全身ローブを羽織った杖を構える人物が、森に向かって魔法らしきものを放っている。


「───ッ!」


詠唱のようなものを叫び、一条の光の矢が森へ飛んで行き、激しい衝突音の後、土煙をあげた。


「数は3、全部森の中にいる。」


「ノイン、森の方に何がいるの?!」


私がスコープをのぞきながらノインに問うが、答えを聞く前にそれを見てしまった。


二足歩行でドシドシと大きな体躯を揺らしながら、手に持った槍や剣を振り回し、血走った目で街道の人物に向かっていく、動物らしき顔を持つ魔物。


「オークだ!」


ノインが目にも止まらぬスピードで駆け出していくのをスコープ越しに確認した後、街道にいた人物が何かにつまづいて尻餅をついた。


杖を手放したのを視界の端に見て、私は慌ててその人物をスコープで確認する。


フードを被っていたが、尻餅をついた段階で外れたようで、金髪が風に揺れて見えた。


「男性、かな。」


端正で白い肌の男性の横顔は、森を見つめて絶望的な表情に歪んでいる。


その先をスコープで見れば、よだれを撒き散らしながらオークが男性を襲わんと、剣を振り上げているのを捉えた。


「ッ!間に合えッ!」


私はスナイパーライフルに魔力を通し、引き金をひく。サプレッサーの軽い音とは対称的に発射された弾丸は、銃口から風をまとったボールのような姿になり、真っ直ぐとオークに向かう。


剣が男性の頭をとられるギリギリで、弾丸はオークに着弾し、まとった風は弾けてその大きな体躯を吹き飛ばした。


パァンッ!と遅れて聞こえた音に、森にいたオークはようやく私達に気づくも、時はすでに遅くノインの剣にて首は胴体から切り離されそうになっていた。


その切られる瞬間を見ることなく、スナイパーライフルを指輪に変えながら、私は急いで男性の元へ走る。


男性はノインの戦いを見ているのか、恐怖で固まっているのか、ただ尻餅をついたまま呆然としていた。


私とライガがようやく触れれる位置までたどり着いた頃、男性は我に返ったようで杖を探して掴んだところだった。


「大丈夫ですか!?」


私が声をかけると、男性は肩を震わせて私を見た。


真っ正面から見るその男性は、少年と青年の間の若さで、何といっても美形だった。

遠くからスコープで見たよりも、輝く美貌が眩しさすら感じた。


私を見つめるその翡翠色の瞳がようやく私を認識したかのように揺れると、男性は震える声で答えた。


「あっ、ああ。」


「森のオークは私の仲間が倒しました。もう大丈夫です。」


男性を見上げる形になり、ニコッと笑って見せるとようやく息を思い出したかのように、彼は息をはいた。


「怪我はありませんか?」


「あ、な、ない。大丈夫だ。」


気持ちが落ち着いた男性は思い出したかのように、慌てた様子でフードを目深にかぶってしまった。


───あ、金髪碧眼のイケメンもったいない。


そのタイミングでノインが森から姿を現した。


「終わった。」


「ありがとう、ノイン。怪我はない?」


「ない。」


ノインと簡単なやり取りのあと、私は改めて男性に向き直った。


男性は杖をローブの中にしまってから、すっと頭を下げた。


「助かった、礼を言う。」


「いえ、大事にならなくて良かったです。」


男性はフードを押さえながら、そっぽを向く。気になって首をかしげる私をチラチラ見ながらも、彼は顔を合わそうとしなかった。


「一体、何があったんですか?」


「────狂暴化した魔物の調査で探索中に襲われてしまったんだ。」


若干の間を置いた後に男性は答えた。


「そうでしたか。まだこちらには狂暴化した魔物が残っていたんですね。」


「こちら、とは?」


私の言葉が気になったのか、男性が問いかけてくる。私は笑みを崩さぬまま、その質問に答える。


「私達、イズリールから来まして。イズリール側でも狂暴化した魔物がいたんです。」


「───それは、マッシュカウの群れ、か?」


男性の言葉に、ん?と気になったが質問されているのでまずは答えることにした。


「はい、もう討伐されたようですよ。」


「そうか───イズリールには被害はなかったのか?」


「農作物と住人が被害にあったそうですが、幸い今は大丈夫みたいです。」


男性は私の言葉に心の底からホッとした様子だった。


「そうか。」


「失礼ですが、貴方は?」


「───アッシャルダの魔法士ギルドの者だ。」


最初は言おうかと迷った素振りだったが、所属は明かしてくれた。ただ、名前は名乗る気がないようで、若干不信感が募る。


「私は旅の冒険者、名前はアネモネです。よかったら、お名前を聞かせてください。」


「────こんな無様な魔法士の俺の名を聞いてどうするんだ?」


そこまで罵ったわけでも、非難したつもりもなかったが、自虐的な発言に唖然とする私。


「えっ、あ、いや。特に深い理由はなかったんですが。」


「なら、すぐに忘れるから聞くだけ無駄だ。」


男性はフードを押さえながら自虐的な発言を続ける。


────何なんだ、この人。


「貴方みたいなキレイな方を忘れるなんて、もっ、いや、あり得ないですよ。」


「キレイなもんか。他のやつらとは、違いすぎる。」


自虐極まると、こうも面倒なのか。昔の私もこんなにもウザがられてたのか、わかった瞬間に悲しくなってきた。


「そんなこと、」


と私は言ったものの、何をいっても気持ちをすぐには切り替えられないことを知ってる私は、話題をそらすしかなかった。


「調査中でしたね。」


「ああ。」


「私もイズリールで同じ調査をしました。手伝います。」


男性は私を見て唖然としたが、すぐにギィっと睨み付けた後に背を向けた。


「結構だ。一人で十分だ。」


「先程無様な魔法士と言ったばかりでは、説得力がなさすぎです。」


ぐっとうめき声を出す男性に、私は負けじと男性の正面に回り込んで、フードの中の顔を見上げる。


「調査に加わりたいのです。お願いします。」


断らせない、と気合いをこめて笑みで押しきると、男性は揺れる翡翠の瞳をふっと閉じてから私を言った。


「わかった、邪魔はしないでくれ。」


「助かります。で、お名前は?」


視線を反らし、逃げるように移動しようとする男性に改めて名前を問いかける。


「───────マルスだ。」


自虐の魔法士、マルスは私をチラ見してから、絞り出すように名乗った。

ジャンル:自虐的な魔法士。顔はイケメン。


乙女ゲーだな!

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