歩んだ先に 3
イズリールの冒険者ギルド二階には、個室が並んでいるようで、長い廊下の左右にはドアが等間隔で並んでいた。
一つのドアを開けて、ミリアがどうぞ、と中へ誘う。
私が中を覗くと、先に人がソファに座っていた。
「やぁ、待ってたよ。」
その人は気さくな笑みで私達を手招きする。ノインをチラ見してから、私は中へ入る。
出入口に立っていると、ミリアが中に入ってから後ろ手でドアを閉めた。
「初めまして、だね。」
ソファから立ち上がったその人は、私達に握手を求めながら自己紹介する。
「私はエルヴィ、このイズリールの冒険者ギルドのマスターだ。」
エルヴィ、と名乗った人は、中性的な見た目だが服装とイケボから、男性だとわかった。
気さくな笑みで対応する彼の手を掴み、私は頭を下げる。
「アネモネです。彼がノインです。」
「どうも。」
「ああ、聞いてるよ。可愛らしいお嬢さんと空間魔法使いくんだね。さぁ、座ってくれ。」
エルヴィの手招きに、私はノインと共にソファに座る。彼がミリアにお茶を頼むと、彼女は部屋の片隅にある簡易キッチンにて、紅茶セットを取り出す。
視線をエルヴィに戻すと、彼は気さくな笑みのまま話し始めた。
「君たちが受けてくれた依頼の調査結果なんだけど。」
エルヴィは近くの机に手を伸ばして書類を手に取り、私達に差し出す。
私が受け取って中身を見ると、挿し絵を含む長い文章があった。所々読めるようになってるのに、心の中でガッツポーズをしながら読み進める。
頑張って読んだ内容は持ち帰ったマッシュカウには、精神異常が発生していて、明らかに魔法による干渉だと結論が出た、とかかれていた。
「読み通り、魔法による干渉があった。」
エルヴィは呟くように話す。それを聞きながら隣にいるノインに書類を見せるが、ノインは首を横にふった為、その書類を目の前の机に置いた。
「そうでしたか。」
「異常行動を起こしたマッシュカウは全滅したようだから、もう大丈夫と思いたいけども。」
思ったよりも事態はエルヴィは頭を抱えてみせた。
「しかし、一体この魔法による干渉が何故起きたんだのかはまだわからないんだ。」
「アッシャルダからは、何か聞けましたか?」
「あぁ、あっちのギルドも調査してるらしいが、本腰をあげてる様子がなくてね。」
困った笑みを浮かべているエルヴィに、ミリアが紅茶を差し出した。同じ紅茶が私達にも差し出され、ライガには水の入った器が出されている。
「とりあえず、異常行動したマッシュカウはいなくなったから、報酬を出しておくよ。ミリア、用意してくれ。」
ミリアは頭を下げてから部屋を出ていった。ドアが完全に閉まったあと、エルヴィがキリッと真剣な顔つきに変わった。
「で、二人にお願いがあるんだけど。」
「はい。」
「───この事を口外しないでくれ。」
やはり、と私は思った。
魔物が魔法による干渉、つまり邪法で異常行動したこの事件を口外するのは他の住人の余計な不安になる。
そう判断したなら、私は素直に従うことにする。
「わかりました。」
「助かるよ。今後はどうする予定だい?」
「元々、旅の途中でイズリールに来たので、明日にはアッシャルダに向かうつもりです。」
エルヴィは残念そうな顔をした。
「そうか、旅人だったのか。残ってもらえたらありがたかったが、引き止める訳にもいかないからね。道中、気をつけて。」
私達はエルヴィに見送られて部屋を出る。そのままギルドのカウンターにいき、ミリアから報酬を受け取った。
「明日にはもう出られるんですか?」
ミリアには事前に旅をしている、と伝えていたせいか、その話題になった。
「はい。」
「次はどちらの予定なんですか?」
「アッシャルダに。その次はまだ、ですね。」
とても残念そうな顔をするミリアに、私は苦笑いで答えた。
「お気をつけて。旅の無事をお祈りしますね。」
最後にミリアやこの場にいないがエルヴィに頭を下げて冒険者ギルドを出る。
最初に訪れた冒険者ギルドとして、外に出た後振り返って改めて眺めて目に焼き付けた。
特に何事もなく次の日の朝、私は部屋をすべてチェックして回る。
服装はイズリールにきた時と同じ格好にした。髪型はポニーテールにして、キリッと気持ちを引き締めた。
ライガを出入口で待機させ、見終わる頃にノインがノックをして中に入ってきた。
「終わった?」
「うん。忘れ物はなさそう。」
三人で鍵をもって月猫亭のカウンターへ向かうと、ローレンスやシェフの皆さんが待機していた。
「アネモネ様、ノイン様。本当にありがとうございました。」
一斉に礼を言われ、私は素直に笑みを返した。
「こちらこそ。美味しい夕食と素敵なお部屋をありがとうございました!」
「どうぞ、道中お気をつけて。」
ローレンスとにこやかに握手を交わし、ノインにはシェフ一同に頭を下げられ、私達は月猫亭のドアを開けて、外へ出た。
イズリールの朝焼けが射す景色は美しかった。
アッシャルダに向かう街道へ足を進める。
「そういえば、昨日露店で買ったアイテムはどうしたの?」
ふと中央広場を通る際に思い出したので、ノインに聞いてみると本人は今思い出したようでハッとしていた。
「忘れてた。」
そう言って取り出したのは、小さなスカーフで水色の布に小さな鳥の羽がついた可愛らしいデザインだった。
ノインはそれをライガにつけると、嬉しそうに一鳴きした。ライガの灰色虎柄によく映えた。
「ライガ用のアクセサリーだったんだね。」
「うん。」
良かったね、とライガを抱き上げて撫でる。そのライガが昨日よりも少し重く大きくなった気がして、あれ?と首をかしげた。
「ライガ、おっきくなった?」
「昨日のポーションが効いた。」
ノインの言葉に私はそうか、と納得しかけて止まる。
「効くにしても早くない?」
「うん、早い。」
断言するノインに、私はライガを見る。足元でライガが嬉しそうに跳びはねながら歩いている。
ノイン曰く、従魔契約をした魔物は基本的に成長が早く、同じ魔物よりも多くの経験を経ているため、比べ物にならない位に強くなるらしい。
また、ライガは私を主人としていることやノインがあげたポーションやアイテム、武具も与えられていることから、かなりのスピードで成長しているらしい。
「なるほど。めちゃくちゃ強いフォレストキャットなんだね、ライガは。」
「うん。」
楽しげに先を歩いているライガを見て、私は実感があまり沸かなくて苦笑いで誤魔化した。
やがてイズリールの門の近くで、警備にあたる兵士にアッシャルダへ向かうと伝えて門を潜った。
街を出るとすぐに川になり、大きな橋を渡ってアッシャルダの街への道を歩くことになる。




