歩んだ先に 2
リアル事情が忙しくて書けなくなってました。
ちょびちょび書いていこうと思います。
市場を抜けて少し歩いた先には、この街のどの建物よりも高い時計塔が空へと聳え立っていた。
首を傾けて見上げた時計塔の文字盤には、数字も位置も地球と同じだった。
「時間も一緒なんだね。」
「うん、わかりやすいから。」
確かにわかりやすいし、時間感覚が一緒なのは助かる。
私はもう一度時計塔を見上げて、ふと他にも日本と同じものがあるのか気になって聞いてみた。
「ある、近いのは学校。」
ノインが指差したのは、時計塔から少し離れた大きな建物。ガラスのない窓から子供達の姿がチラッと見えた。
「5歳から13歳まで、誰でも無料で通える。文字や数字から、希望すれば魔法や経済学、政治学を学べる。」
「え、なおさら私、早く文字を覚えなきゃいけない?」
その話を聞いて、私は文字の勉強を早急にやらなきゃいけないのか、と頭を抱えたが、ノインは首を横にふって否定した。
「学校自体が都や大規模な街にしかない。だから、気にしなくていい。」
「ぬ、でもギルドや店で困るし。」
迷ってる場合じゃないな。
よし、気合いをいれた後、私はノインに両手を合わせて謝る。
「ごめん、この後勉強したいから宿に戻っていい?」
「うん、でもその前に─────。」
ノインが時計塔を見上げた直後に、昼を告げる鐘の音が鳴り響いた。
「あ、もう昼だったんだ。なら、食べてから戻ろうか。」
私がそういうと、ノインは早速キラキラした目で周囲を見回した。
あ、やっぱり何か食べたかったんだ。なんかいつもキリッとした真面目な顔のイケメンが、キラキラした目で食べ物に夢中になるとか卑怯だな。
心のカメラの残量、足りなくなるわぁ。でも撮ります、ありがとうございます。
「こっち。」
ノインはスタスタと歩き始めたので、慌てて後についていく。
足元にいるライガは楽しげに周囲を見たり、私の顔を見たりと止まってもすぐについてきてる。
普通の飼い猫ならこうはいかないから、きちんとついてきてるライガは賢い。
従魔契約してから日に日に、ライガは体も心も成長してるのを実感することが出来る。
先程のステータスアップポーションも、その内すごいことを巻き起こしそうで怖いわ。
「着いた。」
ノインがとある店の前で立ち止まった。店の看板にはオシャレな文字で店名が書かれてるのだが、やっぱり読めない。
私がそれを気にする前に、ノインは店のドアを開けて入っていくので、すぐに後についていく。
中は古めかしい内装だが、調度品や照明は高級品に感じた。すぐ目の前のカウンターには男性が立っていて、私達を見るなりすぐに笑みを浮かべて近づいてきた。
「いらっしゃいませ。」
「個室を。」
「かしこまりました。こちらへどうぞ。」
男性の案内で、私達はカウンターの横の廊下を奥へと進み、一つの部屋に入った。
この部屋の中も、古めかしいが高級そうな調度品や照明が飾られていた。
部屋の中央のテーブルや椅子も高級品らしく見えるためにびくびくしながらも座る。
メニューを手渡され、中身を見るもやっぱり所々しか読めず、チラッとノインにヘルプする。
するとノインがいくつかのメニューを代わりに注文してくれた。
男性が去ったあとに深いため息をこぼす私に、心配そうに見つめるノイン。
「はぁ、やっぱり読めないのは致命的だね。」
「違うのが良かった?ごめん。」
「いや、それは大丈夫。むしろこっちこそごめんね。やっぱり午後は真面目に勉強するよ。」
頭を抱えた私をノインは謝ったが、読み書きの大切さを身をもって実感した。
ファレンジアに来る前に覚えてから来るべきだった。
「よし、ここで美味しいランチを食べて、勉強頑張るぞぉ。」
「なら、ジャム作りしてる。」
ノインは少し楽しげに笑って午後の予定を告げる。
「市場でフルーツを買ってたのは、それをするためだったの?」
「うん。ジャムは必要。」
と何やら旅の掟があるらしく、ノインは私に力説した。
確かに旅をすると栄養が偏りやすく、特にビタミンや糖分のあるものは保存が効くもので持ち歩くのが良い、とウィリアからもらった百科事典にもあったな。
ノインの話が終わる頃にちょうどよく、昼食が運ばれてきた。
「あっ。」
私のところにはカルボナーラがおかれた。この世界にもあったんだ、と見つめていると、ノインのいただきますが聞こえた。
「いただきます。」
私は早速、このファレンジアでのカルボナーラを口にする。
「────やっぱり勝てないか。」
確かに美味しいんだけど、何かが違う。母さんのカルボナーラは本当に特別なんだな、となんか若干落ち込みながらも黙々と食べる。
「アネモネ。」
「ん?」
ノインは真剣な顔つきで、私を見つめてしっかりとした口調で言った。
「頑張るから。」
母さんのカルボナーラを再現するつもりなんだろう、と気づくのに時間かかった私はきょとんとしたあとに、苦笑してしまった。
「気にしなくていいのに。」
でもそれがなんだか嬉しくて、ありがとうと感謝の気持ちを伝えた。
豪華なランチを済ませて、月猫亭に戻ると全員で私の部屋に入る。
ライガは早速ベッドに潜り込んでお昼寝に入り、ノインは私のために紅茶の用意してくれていた。
私はカチューシャを外して、髪を編み込みにし、シュリアからもらったバレッタを留めた。
よし、と気合いを入れて窓辺のテーブルにつくと、紅茶の用意を終えたノインが待っていた。
「じゃ、アネモネ。頑張って。」
「あ、待ってノイン。ひらがなの練習帳あるかな?」
ノインは少し考えた後、どこからともなく懐かしい練習帳を渡してくれた。
小学校時代にお世話になった練習帳に、懐かしさのあまりにふふっと笑いつつも受け取る。
「ノインもジャム作り、頑張ってね。」
「うん、いってくる。」
ノインはふっと姿を消した。行き先はユーリンのキッチンと言ってたかな?
それを見送ってから早速、辞書を開いて練習帳で文字の勉強を始めた。
辞書の中には、ひらがなとこちらの文字を並べた表があり、それを見ながら書き写してひたすら書いて覚えていくやり方にした。
母音はわかりやすかったし、他の文字もすぐ覚えるだろうと、さくさくと進めていく。
昨夜の手紙はこの辞書の例文を使って書いたけど、改めて文字や単語を見直すと酷い有り様だったと気づいた。
思わず顔を両手でおおう。
「はずぅ。」
次の手紙ではそうならないようにしよう、と気合いを入れて文字の勉強に集中する。
あっという間に時間はすぎて、窓辺のテーブルに射し込む光が夕陽になりかけた頃、文字と単語を一通りチェックして練習帳を閉じた。
「終わった?」
ふっとノインが姿を現したので、そちらに向くと瓶をいくつか持っているのに気づく。
「うん、大体。そっちは終わったんだね。」
私の言葉にとても満足げに瓶を差し出した。受け取った瓶は赤いジャムでラベルにはイチゴ、と書かれているのが読めた。
蓋を開けてみると、甘い匂いがして小腹が空きそうだった。
「美味しそうだね。次食べるのが楽しみだね。」
「うん。」
瓶をノインに返すと、匂いにつられた起きたライガが近づいてきたが、ノインがどこかにしまってしまうのを見て寂しげに鳴いた。
「はいはい、また今度ね。」
ライガを抱き上げ、両手で挟むように顔を撫でると猫エンジン全開で喉をならす。
そのまま抱いたまま、私達は月猫亭をでた。
ギルドに向かう途中、中央広場を通った際にあのイケオジを探したが、クレープ屋台すら見当たらなかった。
「いない、か。」
明日にはイズリールを発つつもりだったから、最後に挨拶したかったな、と思いつつギルドの扉を開けた。
ギルドのカウンターにはミリアだけが待っていたかのように立っていた。
「こんに───あ、ノインさん、アネモネさん。お待ちしてました。」
「ミリアさん、どうも。」
「結果もわかりましたので、上の階へ。」
とミリアはカウンターから、階段へ私達を案内する。
上る階段のきしむ音が、この後のことを悪い想像をさせて聞こえた。




