心は素直に 4
戦闘の開始は静かなスタートとなった。
何せスナイパーライフルだが、サプレッサー付きの形状にしたため、パスッと軽い音の後、狙ったマッシュカウの頭がぱぁんと音をたてて弾けた。
ぐっ、キモッ!と心の中で呟きつつ、動揺したマッシュカウを狙って再び一呼吸した後に引き金をひいた。
次はやや左に逸れたが胴体に着弾、貫通して後ろにいたマッシュカウにも当たる。一瞬の悲鳴を聞いた他のマッシュカウが私を探している。
直ぐ様息を吸って、狙いやすいマッシュカウから狙っていく。先程、貫通したマッシュカウにトドメをさし、その後ろにいたマッシュカウを狙う。
「ッ!」
パキン。
「ぶもぉぉぉぉぉっ!!」
スコープ越しに目があって、私は心臓が跳ね上がり、足元の枝を踏んでしまった。その音で私の位置に気付いた別のマッシュカウが、鳴き声をあげて走り出した。
私は見つかった動揺を心の中で叱責しながら、スナイパーライフルからサブマシンガンの形状に切り替えて、立ち上がった。
生き残ったマッシュカウが3匹、こちらに向かってきている中で、視界の端でライガが私が仕留め損ねたマッシュカウの喉元を爪でえぐっていた。
ナイス、ライガ!と礼をいいながら、右側へ走り出すと同時に、ノインがマッシュカウに斬りかかった。
「はっ!」
キレイな弧を描いて一閃した剣は、マッシュカウの胴体を両断した。
横からの奇襲に動揺したマッシュカウに私はノインやライガが射程に入らないところを意識して、サブマシンガンの引き金を引く。
豪快な発射音と共に弾となって発射された魔力は、真っ直ぐとやや動きの遅れたマッシュカウに銃弾の雨を浴びせた。
断末魔をあげて倒れる仲間を気にせず、マッシュカウが真っ直ぐ私に走ってくる。
私はノインをチラ見したが、間に合わないと踏んで右手を銃から剣に持ち変えた。
グッと柄を握り、迫ってくるマッシュカウを睨む。
「ぶもぉぉぉぉ!!!」
私は突っ込んでくるマッシュカウを、ギリギリで避けながら、縦に力を込めて一閃。多少の手応えの後、マッシュカウの頭と胴体はスパッと別れた。
どしゃ、と木に突っ込んだ頭は潰れ、胴体は地面を滑って止まった。
「─────は、はぁ、はぁ。」
戦闘が終わったのを自覚し息することを思い出した私は、剣をだらんと下げたまま立ち尽くした。そんな私の剣に付いた血を代わりに拭き取りながら、ノインは私に近づいてきた。
「あ、はぁあ、ちゃ、ちゃんと出来た、かな?」
「うん、すごい。ビックリした。」
ノインに引き続き、ライガが駆け寄ってにゃあぁ、と鳴いて誉めてくれた。
「ありがとう、二人とも。や、やっと、戦うってことを実感したよ。」
訓練で心構えをしたつもりが、やはりこうも本番に焦ってしまうとは情けなかった。
「すごいよ、アネモネ。一人で3体も倒した。」
「今回は運が良かっただけだよ。」
ノインが水筒を差し出すと、私は受け取って口にする。その間にノインがマッシュカウを見て回っていく。
「うん、どれも魔法の干渉がある。変えよう。」
ノインはさっきねぐらで持ったマッシュカウと、今倒した胴体を両断されたマッシュカウに変え、他のマッシュカウも彼がすべて、手をかざして回収し、残ったねぐらのマッシュカウはその場で白い炎で弔った。
「この辺りはこれが最後みたい。」
ノインが周辺を見回して、私に近づいてきた。水筒を返して、私はそうね、と同意をする。
「なら、イズリールに戻ろう。報告して、今日はおしまいだね。」
タオルを腕輪から出して、ライガの足に付いた血を拭きながら、ノインにそう言った。
「ああ、アネモネさん!」
冒険者ギルドに入るなり、私に話しかけてきたのは昨日依頼を受理するときに世話になった女性───ミリアだ。
「ご無事で良かったです!アッシャルダへ向かう街道で、マッシュカウだけでなく他の魔物も狂暴化して襲ってきた、と報告を聞いたので心配しました!」
ミリアはホッと胸をなでおろして、私達を見た。
「心配してくれてありがとうございます。私達も報告しますね。」
神山の端付近でのこと、アッシャルダ側で神官に会ったこと、そして、イズリールの森での戦闘のことを話した。
「で、マッシュカウを調べてもらいたいと思って持ってきたんですが、どちらに置けば?」
「え?外にですか?」
ミリアは私達が何も持ってないのを見て、外にあるのだと勘違いした。
するとノインが私とミリアの間に入り、小声でミリアに何かを話した。すると、ミリアは何事もなかったかのように、こちらへとカウンターから階段の後ろにあるドアへと案内する。
大人しくついていくと、廊下を通って大きな倉庫にたどりついた。
「アレストさん、このテーブル使っていいですか?」
ミリアがアレストと呼んだタンクトップのガテン系のマッチョが、おう、と返事のみをした。
「こちらへ。」
ノインはテーブルの上にあのマッシュカウを出してみせると、ミリアはまぁ、と驚いた。
「ノインさんが空間魔法を使えるなんて。道理でお二人とも冒険者の割には身軽だな、なんて思ってました。」
ノインの場合は属神だから、とは言えない。
「他にもありますか?」
「あるけど、一部は今すぐ解体して持っていきたいんだけど。」
「なるほど、わかりました。ご自分でやりますか?有料になりますが、アレストにお任せもできますが?」
私はノインを見るとやる、と言ってくれたのでミリアはこちらへ、と案内する。
「ノイン、時間がかかるなら、私はライガと邪魔にならないように時間潰してくるけど。」
「───わかった。」
一瞬の間の後、ノインは答えた。そのあとすぐに足元にいたライガの頭を撫でて、頼んだよと告げる。にゃあぁ、と鳴いてライガは返事をする。
「行ってくるね。」
ライガと共に倉庫から出て、廊下を通ってギルドから出ると、夕方に差し掛かった頃で夕日が見えた。
街中の賑わいが、今は特別なものに見えてしまうくらい、興奮してるのがわかる。
だって、異世界初の一人での出歩きだもん。
しかもノインのいないこの状況、なんか恥ずかしいやら楽しいやらどうしていいかわからないくらいテンパってる。
ライガが足元ですり寄ってるので抱き上げつつ、近くのお店から順に見ていくことにした。




