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心は素直に 5

ギルドの隣は食堂と酒場だったのでスルーして、広場には露店がいくつか出ていた。


「おっ、可愛らしいお嬢ちゃん。クレープはどうだい?」


露店といったけど、屋根付きの大きいカートで外装を可愛らしくされているのだが、


「銅貨一枚からだよ、味は看板から選んでくれ。」


話しかけてきてくれた人が、耳元までの黒髪に毛先が金色というおしゃれな髪型で、キリッとした金色の瞳は優しげに細めている。


ここまではいいんだよ。


「フォレストキャットにはこっちだな。」


とライガにフルーツを差し出す器も可愛らしい。


うん、ここまでいうと、イケメンか男口調の美女を想像するでしょ?


───実際はマッチョなイケオジなんだよ。


クレープ屋なのに、頭にタオルをバンダナ風に巻いてタンクトップに短パンというガテンスタイルなんだよ。


くっっっっっそ!!こんなイケオジがクレープ屋とか、マジでギャップパネェよぉー!!!!


と一人心の中で魂の叫びを上げたところで、ガテンイケオジが心配そうに見つめる。


「お嬢ちゃん、冒険者ギルドから出てきたろ?疲れてるなら甘いものがオオスメだぞ?」


その心遣い、今の私の心には染み入ります。やめてください。


「お、オオスメください。」


看板の文字が見えなかったのもあるし、心の動揺が計り知れないので、たどたどしく注文する。


あいよ!っといい返事を頂き、ライガには追加でフルーツをあげながらも、ガテンイケオジはクレープをささっと作っていく。


出来上がったのはチョコイチゴカスタード、らしきものだが、クレープにはクッキーやジャムがついている。


「ほい、オジサン特製マシマシセットだ。代金ちょっと変わって銅貨三枚だけど、あるかい?」


「はい、大丈夫です。」


銀貨を渡すと同時にクレープを受け取った。直ぐ様、お釣りを用意して、私に手渡してくれた。


「良かったらそこの椅子とテーブル、使ってやってくれ。」


とクレープ屋の横にあった休憩スペースを勧められたので、ありがたく座った。


一口食べて、知ってる味だとわかれば後は安心して食べ進めていく。


「お嬢ちゃん、冒険者に成り立てかい?」


「えっ。あー、まぁ、そう見えます?」


ガテンイケオジに言われて、誤魔化しながら笑って濁す私。


「だろうなぁ!ギルドから出たとこから見ていたが、まるで"街に来たのが初めてで新鮮"ってツラだったからな!」


────街、どころかこの世界すら初めてで新鮮です。ハイ。


「確かに大きな街は、初めてです。」


と誤魔化したのを納得したようで、そうかそうかと笑うガテンイケオジ。


「楽しんでいけよ?こんなに平和なことはすくねぇからな。」


「───平和、か。」


食べ終わった口元を拭き取りながら、私は周囲を見渡す。確かに賑わいは楽しそうだが、どこか儚くも感じた。


束の間の幸せを満喫するような不安定感だ。


「この街も危ないんですか?」


「街、というか、国がだな。」


ガテンイケオジのその言葉に、私はん?と反応する。


「国って。お兄さん、何かご存知なんですか?」


「いや、大げさだったか。最近の噂じゃ、どこに居ようが戦争でいざこざばかりだ。」


遠い目をしながら、ガテンイケオジは空を見上げた。


「平和なのは一瞬でな。みんな、それをわかってるのさ。」


諦めた顔でため息をこぼし、視線を落とすガテンイケオジ。私はなるほど、と心の中で思った。


─────世界が緩やかな滅びに向かう理由の一つがこれなのか。


戦争に疲れ切って、いつまでも続く争いに立ち向かうのすらやめた、からなのか。


「お兄さんは、変えたいんですか?」


ガテンイケオジにそう聞いてみると、彼はキョトンとした顔で私を見る。


「こんな戦争だらけの世界、変えたいんですか?」


「───お嬢ちゃん。大人をからかうのは良くないぜ?」


やがて、ガテンイケオジは優しげだが諦めの顔に戻る。


「いくらオジサンが頑張ったところで、救える人はこの腕の距離までさ。この距離すら怪しいもんだ。」


その手を空に伸ばしたが、やがてガクッと項垂れた。


「お嬢ちゃんはどうなんだ?変えたいのか?」


「"変えたい"んじゃないですよ?」


椅子から降りて、ガテンイケオジの前に立った。そして、煽るような意地悪な笑みを向けて言ってやった。


「"変える"んです。」


「ッ!────言うね、お嬢ちゃん。」


ガテンイケオジは驚いた後に、同じ意地悪な顔に変わった。


「お嬢ちゃん、名前は?」


「先に、お兄さんの名前が聞きたいな。」


と意地悪して返すと、ガテンイケオジは豪快に笑った。


「そうだな、レディに失礼だったな。俺の名はソルド、っつーんだ。」


「私はアネモネです。」


ガテンイケオジ────ソルドは名前を聞いてそうか、と呟いた。


「名前通りになるなよ?」


ソルドは花言葉を知ってるようで、ニヤニヤしながら私にそう言った。教養があるようで、エレノアとは真逆だけど同じ反応だね。


────ならば、言わねばならない。


「ソルドさんは、白いアネモネの花言葉を知らないんですねぇ。」


「あぁん?花言葉に色は関係ないだろ?」


「残念、実はちゃーんとあります。」


私は両手を腰に当て、胸を張って言ってやった。


「白いアネモネには"真実"、"期待"────そして、"希望"の意味があるんです。」


「ッ!」


ソルドは目を見開いてこっちを見た。


「名前と意味、覚えておいて下さいね?」


全力でいいスマイルをして、私はソルドに頭を下げた。


「クレープ、美味しかったです。じゃ、また。」


そう言ってライガを呼んで立ち去った。振り返ることなく、ただ広場を離れた。





────────────────────────



「っ、すげぇ子だな。」


俺は呆気にとられた後、ニヤニヤしながらあの子が去った場所を見つめる。


「アネモネ、か。」


花言葉を知ってたが、まさか色ごとに違うのは習わなかったな。

そういや、よくセンセーが口酸っぱく言ってたな。


"物事を一つからではなく、別の方向からも見ろ。"


だったか?

今さら思い出すとは、俺も歳かね。


「ホントに、あの子が世界、変えちまったりしてな。」


俺はあの子を、またあの子にあったら、ちーっとは応援してやるか。


「ま、結局どこかで朽ち果てるのが関の山か。」


俺は再びクレープのカートに戻ると、客が来てたらしく立ち尽くした人影に気づく。


「おっと、すまねぇ。気づかなくて。」


「いや、ここに白い髪でフォレストキャットを連れた少女が来たか?」


人影は銀髪の美少年で鎧を身に付けてるところから、冒険者だとわかる。

ただ─────漂わせてる神秘的なオーラは隠しきれていない。


こいつぁ、驚いたな。神に仕える聖騎士様、って言われても納得だな。


「あぁ、あのお嬢ちゃんか?さっき、あっちの大通りにいったぞ?」


「ありがとう。」


少年はすっと頭を下げて歩き出したが、すぐに止まってこちらを振り返った。


「彼女が何を言ったかわからないが。」


少年はすっと俺を見つめて、無表情をやや崩して言った。


「信じていい。彼女は世界を変える。」


「ッ!!」


少年は再び無表情になり、頭を下げてから立ち去った。


「────こいつぁ、驚いた。」


思わず口にして、頭を押さえた。


「あいつら、なんなんだ?」


俺は腹の底から沸きだす今の感情を抑えきれずに笑った。


「まだまだ捨てたもんじゃねぇってか?」


笑いながらクレープ屋のカートを押しながら、俺は胸の中に燻ってた想いが滾ってくるのを感じた。


「楽しみだなぁ、期待してるぞ?アネモネ!」

ガテンイケオジのソルドさんの再登場はあるのか?


なかったら、まじですまん。

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