心は素直に 3
火葬が終わり、私達は通路を下っていく。山の中の洞窟を下るのに若干怖さがあるが、ライガを抱っこしたままなので、なんとか我慢できた。
ライガ、マジ癒し。めっちゃ喉鳴ってて毛並みもふもふでカワイイヤッター。
と誤魔化していく内に、外の光を見つけて開けた場所に出た。
そこにも草原や木々が広がる斜面だったが、違いはすぐわかった。
草むらは荒らされ、死臭と共に風に舞う。木々も一部折れたりしていた。そして、何よりも動物や魔物らしき死体に混じる、マッシュカウの死体。
「ここでもか。」
あまりの荒れ具合に私は顔をしかめた。
「うん、かなり数があるね。」
見渡すだけでも10以上の死体が見える。多種多様な動物、死体は腐食してるのか虫が集っている。
「これは────埋葬なり火葬なりするには時間がかかりそうだね。」
「大丈夫。」
ノインが呟いて指差した辺りに、人影が多数見えた。斜面を登りながら、死体は処理してる模様だった。
「アッシャルダの神官だ。」
見るからに嫌そうにノインが顔をしかめた。
彼らが身に付けていた足元までの丈のコートのようなローブに、何か腕章をつけ、杖を構えた男女6人が私達に気づいているようで警戒しているようだったので、友好的に手を振ってみる。
すると二人の男性がこちらに近づいてきたので、私はライガを降ろして、対応する。
「失礼、冒険者の方ですか?」
「はい。イズリールの冒険者ギルドから、マッシュカウの異常行動の調査を引き受けたものです。」
すっとギルドカードをチラ見せし、ノインとライガを仲間と紹介する。
相手は信用してくれたのか、すっと頭を下げた。
「我々はアッシャルダの神官で、マッシュカウがこの地域で動物や魔物を食い荒らした、と聞いて処理に来ました。」
どんな死体も放置しておくとアンデッドになってしまうので、こういった作業は主に神官や司祭かメインで行うらしい。
「そうでしたか。あの、こうなっちゃったのは、いつ頃なのかは分かりますか?」
「ええ、発見されたのは3日ほど前です。この周辺ではマッシュカウだけではなく、他の魔物も狂暴化し、冒険者ギルドにお願いして対処していただいてます。」
3日前、か。やっぱり、先にこっちから発生してたんだね。
「イズリールで聞いた情報では、2日前にあちらの街道から農作物や住人を襲っています。私達も実際に昨日遭遇しました。」
「そう、でしたか。」
神官はふむ、と考えこむ。もう一人の神官が私達に、やや警戒気味に話しかけてきた。
「イズリールから来たといってたな?そちら側で何があったわけではないのか?」
「いえ、特には。むしろ日数的にはそちらが何があったんでは?」
私は敢えて天然を装って不思議そうに返してやると、神官はうっと詰まったようだ。
「こちらはまだ調査中です。なるほど、そちらからではないのか。」
先程話しかけた神官がさらっと返した。
────なんか、トゲがあるな。
「イズリールとの街道上で、狂暴化したマッシュカウを含めた魔物の目撃が多く、被害が多発しておりまして、もしやと思いまして。」
神官が失礼しました、と頭を下げた。私ははぁ、と答えた。どうやら、イズリール側を疑っていたようだ。
「そちらの街道でも?私達は神山の端のふもとから、山の中の洞窟を抜けてここに着いたばかりでした。」
「そんな道があったのですか?」
「この子のおかげです。」
神官達の前にライガを抱き上げてみせると、なるほど、とわかってもらえた。
「フォレストキャットですね。この魔物なら山の中の道を知っていてもおかしくないですね。」
「この子の群れがいたねぐらも、狂暴化したマッシュカウに襲われ、群れは壊滅しました。この子のためにも、私は原因を調べています。そちらで何か分かっていることを教えてほしいんです。」
私はライガを降ろして、神官達に情報提供を求めた。こちらの真剣な態度に彼らは警戒を解いてくれた。
「なるほど。我々教会でもあまり情報はありません。アッシャルダの冒険者ギルドならもう少し情報がわかるかもしれません。お役に立てずに申し訳ない。」
神官たちは頭を下げた。やはり、死体処理に来ただけであまり情報は持ってなかったか。
「いえ、大変な作業の邪魔をしてすみません。後程、アッシャルダの冒険者ギルドに聞いてみます。」
私はノインに目配せし、神官達に別れを告げて立ち去った。別の場所へ向かいながら彼らは斜面を下り、再び作業に入ったのをチラ見して、ノインに話しかける。
「なんか、トゲがあるというか。嫌な感じだね。」
「いつもそう。気にしないで。」
ノインも嫌そうに顔をしかめた。それを心の中でクスッとしつつ、本題を話す。
「何か知ってそうだった?」
「ううん。むしろ逆、何も知らないから聞き出そうとしてた。」
ノインの言葉にああ、と私は頭を押さえた。
「逆に探られてたのか。ま、いっか。」
私は再度神官たちを見る。死体に白い炎を灯し、火葬処理に追われていた。ご苦労様でーす。
「よし。じゃ、他にも狂暴化したマッシュカウがいないか、探してみようか。」
「その前に、そろそろ昼食。」
ノインが空の太陽を見ながら言った。真上で昼だと主張する太陽を見上げ、私もそれに同意した。
「ローレンスさんがくれた昼食、なんだろね?」
そう言いながら、私達は神官の作業が目に入らない位置に移動を始めた。
イズリールでは川魚を使った料理が有名らしく、ローレンスさんがくれた昼食は、川魚をフライにしたバーガーだった。
ソースもタルタルソースで、挟まってるチーズとの相性も良く、ボリュームも味も最高だった。
「美味しかったね。」
ペロッと完食したあと、ノインの淹れてくれた冷たい緑茶とフルーツゼリーでデザートを楽しんでいた。
ノインも満足だったらしく、また作ると意気込みを語った。ライガも肉と魚、野菜のバランス良く入ったご飯を完食していた。
偉い偉い、とライガを撫でながら、この後のことを話す。
「さっきの話だと、イズリールとアッシャルダの街道はあっちの冒険者が対応してるんでしょ?」
「そうみたい。」
私達が昼食休憩で座った斜面から、その街道が見えていて、行き交う馬車や荷車の他にも、鎧を着こんだ冒険者らしき人影が、歩いてる。
「なら、あっちはおまかせして、さっき地図で見かけた山道を通ってイズリールの森から街道に抜けてみよっか。」
「うん。」
昼食で使った食器やレジャーシートを片付け、私達は今いる場所から山道へ向かった。
山道は木々が少なく、山肌が剥き出しの為遮るものがなく、街道やイズリールの街を見下ろしながらゆっくりと下っていく道だった。
やがて、木々が増え草むらを踏みしめて歩いている内に背の高い茂みも多くなった。
熱感知魔法等を使いながら、慎重に周囲を見て回る。
「アネモネ、いた。」
ノインの言葉にゆっくりと言われた場所へ向かうと、風に乗って血の匂いと獰猛な牛の鳴き声を感じて顔をしかめた。
視界ギリギリにマッシュカウの背中のキノコが茂みから見え隠れしていた。
私は右手に銃を持つ。形状をスナイパーライフルにし、スコープをのぞく。
マッシュカウが数匹いる足元に、狼の死体が見えてまた顔をしかめた。マッシュカウが狼の死体に顔を埋めて貪っているのがわかった。
「マッシュカウが───6匹かな。しっかし、牛が狼を襲って食べるとか、逆転してるね。」
「どうする?」
「無論、やる。ライガも黙ってなさそうだし。」
スコープから目を離し、ノインに戦う意思を伝える。すでにマッシュカウに向かって毛を逆立てているライガを落ち着かせる。言葉を聞かなくても分かる、戦う気なんだと。
「支援する。」
ノインが魔法をライガにかけながら、腰の剣を抜いて準備をする。
私はスコープで動向を見る。私達から一番近いマッシュカウが背中を向けていて、後のマッシュカウもこちらではない別の場所を警戒している。
「私がここからなるべく数を減らしてみる。ノインとライガは近づいてきたところをお願い。」
「わかった。ライガ、そっちを頼む。」
ノインとライガは左右に別れて私から離れた。ライガのことは心配だが、小さいとはいえフォレストキャットという魔物であり、百科事典で知ったが、奇襲を仕掛けて戦う狩りの達人なのだ。
何より、まず、私が戦えるのを心配するべきことだと思う。
だ、大丈夫、のはず。昨日のマッシュカウだって、きちんとヘッドショット決めたし!
よし、気持ちを落ち着かせて、冷静に。スナイパーは慌てちゃダメだって。
「よし。」
スコープをのぞき、再度手前のマッシュカウに照準を合わせる。しっかり深呼吸したのち、ぐっと息を止めて、引き金をひいた。
今さらですが、主人公がスナイパーライフルで戦う異世界ファンタジーって何さwwww




