再び巡る想い出の道 3
「よく帰って来たね、アネモネ。」
シュヴァルツァはマフィア感が抜けないが、優しい笑みで再び迎えてくれた。
「お祖父様、わざわざ出迎えまでありがとうございます。」
「可愛い末の孫娘が帰ってきたんだ。当然だろう?」
私を抱きしめながら、シュヴァルツァは嬉しさを滲ませているのがわかる。
「あれからヴァーレデルド王国から魔人族のことや今までの横暴に対する陳謝の書簡が来たよ。何かあったのかい?」
とシュヴァルツァから問われて、私は内心どう話そうか悩み、ノインをチラ見した。
すると彼はいつも通りの頷きで返してきたので、
「お祖父様、その事で内密に話をさせてほしいのですが。」
そう話すと、シュヴァルツァは真剣な表情に変わった。
「そうか、わかった。では、場所を移そう。」
シュヴァルツァが私達を連れてきたのは、以前ヴェゼルシリーズの1つ、"風雷の飛脚"が封じられていた玉座の間だ。
部屋ごと封印していた経緯があるため、以前は窓や照明等はなかったが、今は開放的な天窓に明るいカーテンやステンドグラスで、一気に華やかな印象へと変わっていた。
あんなにボロボロだった玉座も、今はシュヴァルツァに見合うだけの豪華な玉座に変わっていた。
きっとこれらの装飾にはかなりこだわったんだろう、と龍人族ならではの習性がうかがえる。
「さて、聞いて良いかな?」
「はい、お祖父様。」
私はヴァーレデルド王国で起きたことをかいつまんで話した。
暴君だったムデルガルドが実は別人だったこと、それにはヴェゼルシリーズ"叡知のメダル"が関わっていたことを。
さらに、本物のムデルガルドが天災に乗じて元に戻り、今は平和になったことを加えて話した。
「なるほど。やはり、災厄の魔王は死してもこの世に災いをもたらすか。」
「これだけではないのです、お祖父様。続きをお話しても良いですか?」
「何、まだあるのかい?」
シュヴァルツァが眉をひそめて続きを促す。
私はさらに和国オーキョーでの話を続けた。
"災厄再現"を掲げる組織ヴェルヌールに神霊大京が狙われ、それにより災厄の魔王のクローンの強化され、ヴェルヌールには災厄の魔王の側近ジュリアスが関わっていること。
そして、そのジュリアスがアッシャルダにいた悪魔族を暗殺し、南方の大森林に出来た新国家ネーヴィアンに潜伏してる可能性があることを話した。
「そう、だったのか。」
「現在、災厄の魔王のクローン───名をロベリアと言いますが、属神様方の直属の天使が対応しています。何かあれば、連絡が来ると思います。」
「それならば良いが───そうか。」
シュヴァルツァはひとしきり思考を巡らせた後に、私に話しかけた。
「アネモネには前に話したと思うんだが、我々龍人族は神託を重んじると。」
「はい、覚えてます。」
「実は君が魔人族を保護する前に、我らが偉大なる主神より、新たな神託を賜った。」
シュヴァルツァは厳かな語りを続ける。
「"世界の危機に関わる御使い、あるいは天使たちに援助を惜しまず、時には共に戦い、時には影となりて支えよ"とね。」
「─────。」
確かにシュヴァルツァ達龍人族は、今まではヴェゼルシリーズの守護を任されていた。
私が来たことでヴェゼルシリーズは回収され、その役目を終えたが、ぶっちゃければやることなくて困っていた。
そこに、主神からの神託は龍人族達も新たな使命に燃えただろう。間違いなく龍人族達ならば惜しみ無い援助も、共に戦う力も、影として情報収集もこなしていくだろう。
ただ、それは────私にはあまり嬉しくない内容ではあった。
「お祖父様。それは、モモ姉さん達も承知なのですか?」
今となっては大家族となった、私の兄姉達や目の前にいるシュヴァルツァも、場合によっては戦いに出るということだから。
「勿論、今この大陸にいる全ての龍人族が承知済みだよ。」
「そう、ですよね。」
「もしかして、アネモネ。君は私達の身を案じてくれているのかな?」
シュヴァルツァはまさか、と驚いた表情で私に話しかけた。
「当たり前です。私にとって、家族なんですから。」
「────すまない、こればかりは我慢できないな。」
と呟いてから、シュヴァルツァはガバッと玉座から立ち上がって、私に近づいてきた。ビックリして見上げた瞬間には。
「こんな私達を、君は案じてくれているのか。」
シュヴァルツァは私をぎゅっと抱き締めてきてのだ。それも嬉しさをこられきれないのがわかるほど、優しいが力強くだ。
一瞬驚いて固まったが、私はシュヴァルツァのその背に両手を回した。
「何を言いますか、お祖父様。家族のことを心配して当然ですよ。」
「───そう、だな。いや、すまない、これは龍人族独特なのかもしれないね。」
そう言って身体を話すと、シュヴァルツァはニコッと笑いながら、私を見つめた。
「私達──龍人族は強靭な肉体と豊富な魔力があり、今や大陸では他種族に比べたらいくらか有利なことが多い。これはわかるね?」
「はい。」
「加えて私達は長寿な故に、他種族よりこだわりが強いせいか、どうしても孤立になりがちなのだ。」
シュヴァルツァはやや寂しげに天窓を見上げた。
「娘はそれに反抗するように、この集落を出てしまったがね。」
話に出ている娘が、ツェルクとガラードの母親だということは察したが、私は敢えて何も言わずに話を聞く。
「それはとにかく、私は私達を案じてくれるものはいないとばかり思っていたよ。皆、愛すべき家族であるが、どこか孤独を感じていたようだ。」
「お祖父様。」
「ありがとう、アネモネ。君がそう思ってくれるだけで、私達はとても嬉しい。」
シュヴァルツァはにこやかに微笑み、優しく私の頭を撫でた。
「お祖父様。私達の助力は嬉しいのですが、どうか無理はしないで下さいね。」
「あぁ、勿論だよ。」
シュヴァルツァは嬉しさを滲ませて笑みを見せているので、私もそれ以上言わずに別の話題に切り替える。
「お祖父様。ヴァッツ───お義父様はどちらに?ツェルク兄さんから預り物をしていまして、お渡ししたいのですが。」
一瞬言って良いか悩んだが、シュヴァルツァをお祖父様と呼ぶ以上、ヴァッツもまたお義父様と呼ぶのが正しいだろうと判断して言葉を繋げた。
シュヴァルツァは彼なら、と私を窓へと誘導し、窓の外のとある建物を指差しながら、
「あそこに新しい建物があるだろう?彼は傷ついた魔人族達用に、と作った施設にいるよ。」
「え?」
いやいや、ヴァーレデルド王国から転送装置を使った移動で、ヴァッツ達魔人族をこの集落に連れてきてから、確かまだ一月も経ってなかったような?にもかかわらず、もう魔人族達専用の施設を作ったの?!
と驚いて見る視線の先には、神山の中腹辺りに真新しい平屋のような建物があり、複数の煙突から湯気が立ち上っていた。
「驚いたかい?実は、あそこは昔に災厄の魔王ヴェゼルディが保養の目的で作った魔力回復を促す秘湯があってね。そこを囲むように目隠し程度に建物を作ったという訳だよ。」
やや嬉しそうに語るシュヴァルツァ。私はもう一度建物の位置を確認してから、シュヴァルツァに向き直った。
「そうでしたか。なら、これから会いに行ってきます。」
「ついででかまわないから、ヴァッツに今日こちらで昼食を共にしようと誘ってくれないか?あの建物が出来てから、中々会いに来てくれないんだよ。」
にこやかに微笑みを浮かべてシュヴァルツァはいうが、ヴァッツの心境を察するに今はとても顔を出しにくいだろうなぁ。
と思いつつ、彼には笑みを返して頷いとく。
シュヴァルツァがいる玉座の間を後にし、私達はドラゴンズキャッスルから一路、魔人族達が住まう施設へ向かった。




