再び巡る想い出の道 4
魔人族達の施設は集落から神山の山道で中腹に向かう道のりなのだが、流石に歩いていくと時間がかかりそうなので、
「飛んでいくか。」
と私が提案すると、従魔三匹は嬉しそうに声をあげる。
「アネモネ!アネモネ!ボクの背中に乗ってよ!」
クロバは我先にと元の姿に変わり、私に乗ってとせがんでくる。
「私はまだ翼を持ちませんから、ライガ兄さんの背に失礼します。」
「おぅ、いいぜ。ノインの旦那は?」
クロバから催促された為に私はクロバの背に乗るが、ノインはシルバーパンサー姿に変わったライガを見てその背に手を置いた。
「自分もいい?」
「任せろ。じゃ、クロバ!アネモネを振り落とすなよ!」
「頑張る!」
従魔二匹は一斉に大地を蹴ると、ふわりと浮き上がった瞬間、私が上手くバランスが取れず、咄嗟に強くクロバの甲羅の端を掴んだ為に、クロバはビックリした声をあげ、彼自身もバランスを崩して空中でふらついた。
「わわわぁっ!?」
「ごめん!痛かった?」
何とか空中でバランスを取り直して止まれたクロバに、私は慌てて声をかける。
「大丈夫だよぉ、ボクこそごめんね?もっとゆっくり飛べば良かったよね。」
「ううん、気にしないで。ほら、はやく行かないとライガに置いていかれるよ。」
「あ、待ってよぉ!」
今度はゆっくりと飛び始めるクロバ。そういう気遣いはソウヤからきちんと学んでいるようだ。
ふわふわと従魔二匹が空中を飛んで、あっという間に施設に到着する。
施設の見た目はプレハブのような簡素な造りだが、魔力で貼られた結界がしっかりと組み込まれているのが間近で見るとよくわかった。
「あ、貴方様は!?」
施設とは反対側にある、神山の岩壁によりかかれるように置かれたベンチに座っていた老人が、私を見るなり大きな声をあげた。
「確か、我々を救って下さった!」
老人はどこからか杖を取り出して、慌てた様子でヨロヨロと近づいてきたので、私から近づいて老人を支える。
「お久しぶりです。皆さん、お元気ですか?」
「勿論でございます!あの時、命を助けて頂きありがとうございました!」
何度も何度も頭を下げるその老人の手を持っていたが、ふいに何もないところを掴む感覚を感じた私はビックリして自分の手を見た。
「あぁ、驚かれましたか。私はもう肉体の維持が厳しいもので。」
老人の手が薄く見え、私の手をすり抜けていた。思わず悲しくなってしまったのが顔にでていたようで、老人は私に慌てた様子で言葉を繋げる。
「私はもう寿命ですから。あの時に救ってもらえなかったら、こうして穏やか日々の中で終えれずに亡霊になっていたでしょう。」
本当に感謝しております、とまた再び頭を下げる老人。私が何も言えずに困った笑みを浮かべていると、老人は私の顔を見つめてから優しく笑った。
「いやぁ、やはりよーく似ておられる。」
「えっ?」
老人はまた私の顔を見つめて頷きながら答えた。
「今はもう亡くなってしまいましたが、ヴァッツ殿には奥方がおりましてな。」
その言葉に私はヴァーレデルド王国の魔法研究所で檻にいた魔人族の彼らから聞いた言葉を思い出す。
そして、それがツェルク達の母親だということもう同時に察した。
「確か、ルナマリアさん、でしたか?」
「おお、ご存知でしたか!」
「いえ、貴方がたが捕まってた際にその名前で呼ばれたので。」
私がそういうと老人はなんとお恥ずかしい、と頭をかいた。
「あの時はだいぶ弱っとりまして。恩人を亡くなった人と重ねてしまうとは、いやはや申し訳ない。」
「いえ、お気になさらず。」
なるほどね。ルナマリアって人がツェルク達の身内だろうなとは思ったが、やっぱり母親だったか。そりゃ、ツェルクがあの見た目なのも納得するわ。
「ヴァッツさんにお会いしたいのですが、いらっしゃいますか?」
「あぁ、確か部屋におりますよ。」
その場で老人に礼を告げてから、目の前の建物の中へ入る。
中はよくある老人ホームのような内装で、エントランスや窓口がある部屋、そしてすぐ吹き抜けの階段と広いエリアに机や本棚が見えた。
「どちら様ですか?」
窓口から顔をのぞかせた中年の女性。私はヴァッツに面会したい旨と、胸元のシュヴァルツァからもらったブローチを見せた。
「まぁ!貴女、アネモネ様ですか!?」
「はい。」
「大変失礼致しました。ヴァッツ様ならお部屋にいらっしゃいますよ。ご案内します。」
中年の女性は窓口から離れ、近くのドアから出てくる。彼女の案内で階段や廊下を通り、ヴァッツがいると言う奥まった部屋に向かう。
「魔人族の皆さんは、お元気ですか?」
「ええ、秘湯の効果もあって来たときよりは。ただ皆さん、もうお歳の方ばかりですからねぇ。」
女性がそう言い終わると同時に部屋に着いたようで、そのままどうぞ、と去っていった。
私は女性を見送った後に、深呼吸してからドアをノックした。
「────。どうぞ。」
ドア越しに感じた魔力だけで、私が誰か分かった様子の声が聞こえた。
「失礼します。」
私がドアを開けて入ると、やや広めの部屋にソファやベッド、本棚や机等の家具が置かれていた。
その一つ、ソファに座っていたヴァッツが立ち上がって迎えた。
「突然お邪魔してすみません。」
「いえ。むしろ、こちらから礼も言えずに申し訳ないです。」
ヴァッツのいるソファに近づき、私達は握手を交わし合い、頭を下げた。
「改めて礼を。我々魔人族を救って頂き本当にありがとうございました。」
「いえ、それはツェルク兄さんに言ってください。」
私がツェルクの名を口にすると、やはりヴァッツの顔は曇った。
「────そうなんですが。」
「色々事情があるのは知ってますから、ゆっくり話をしていけばいいと思いますよ。」
「やり直せるのだろうか、あの子達と。」
ヴァッツは不安げに顔を曇らせるが、私はソファに座ることを勧めながら、大丈夫ですよ、と声をかける。ヴァッツが座ったところで私も隣に座ってから、ツェルクから受け取った腕輪を差し出した。
「これは?」
「ツェルク兄さんから渡してほしい、と預かったものです。」
「!」
ヴァッツは腕輪を手に取ると、躊躇いなく腕につけた。時計のような皮ベルトに金属版がついた腕輪に、ヴァッツは少し嬉しげだった。
「今度はお嫁さんを連れていく、とも。」
「ッ!───そうか、はは。」
腕輪を片手で触れながら、小さく微笑むヴァッツ。その笑みはツェルクにもガラードにも良く似ていた。
「体調が優れないとも聞きましたが。」
「あ、あぁ。まだ身体の維持が不安定ではありますが、捕まっていた当時に比べたらだいぶ良くなっています。」
「どうかご無理はなさらず。辛いことが続いたとは思いますが、この先はきっと明るいことばかりですよ。」
私が慣れない励ましをすると、ヴァッツは徐々に表情が晴れ晴れとした笑みに変わっていった。
「ありがとうございます。」
「いえ、ツェルク兄さんのお義父様ですから、少なからず私にとっても、ご縁がありますから。」
「そうだ。そのことも聞きたかったんですが、本当にあの子達と兄弟の契りを?」
ヴァッツの言葉に私はええ、とにこやかに微笑み返した。
「そのことも含めて長話にはなりますが、私のことも合わせて話をさせてください。」
昨日を含めて、色んな人に色んなことを一気にたくさん話をするのは、前世でもそこまで多くはなかった私が、いっぱい話しているのがちょっと不思議な気持ちになっていた。




