やりたいことを 5
ライガを適当に遊ばせながら、桶に靴下を入れると、腰に着けたマントを濡れないように外して、腕輪にしまった。
タンスからタオルを数枚取り出すと、先にライガを洗うために、浴槽にライガを入れる。
首飾りを一旦外して、洗面台に置いてから、何が始まるかワクワクの様子で待つライガに、
「水で洗われたい?お湯が良い?」
と聞くと、返ってきた反応は水だったので蛇口をひねって流れた水に触り、冷たすぎなかったのでそのまま使うことにした。
私も浴槽に入り、濡れながら洗うことにした。
「じゃ、洗っていこうね。」
と水に触れながら魔法を使って、手の回りに水をまとわせた。その手でライガにそっと触れると、ライガは気持ちよかったらしく、されるがままになった。
一度、水で体毛を濡らすと、近くに置いたシャンプーを手に取ると、手にまとった水と混ざり、そのままライガを洗えた。
わしゃわしゃと洗われて、ライガが気持ちよさそうで、楽しくお風呂タイムは進む。
汚れが落ちたのを確認して、一度手の水を払って、再度水をまとわせて泡と共に洗い流す。
すっかりずぶ濡れになったライガは、ブルブルっと体を震わせて水を弾き飛ばす。
「きゃっ、ちょっとライガー。」
顔にかかった水を拭うと、次は水気を拭き取りながらタオルで撫でる。
撫でながら乾かせるって便利だな。
浴槽の溜まった水を一回抜きながら、カーペットの上でライガの体をブラッシングをする。
時より風を起こしながら、毛並みをしっかり整えると、毛色が灰色よりは銀色に近くなった。
「ライガ、かっこよくなったね。」
そう言いながら撫でると、嬉しそうに喉をならすライガ。
「さ、夕飯まで待っててね。」
と首飾りをつけ直すと、ライガは再び部屋を走り回った。
その間に、ささっと入ってしまおうか。
私は軽く浴槽を洗ってから水を溜めてる間に髪を崩して、溜まるまでは百科事典を読む。
フォレストキャットの項目を見ながら、これからのライガの食事や行動指針を考える。
「元々、群れで行動するのか。独り立ちしたら、新たな群れを作るか、探して放浪するんだ。」
雑食らしいが、肉を好んで食べる。時々、薬草等を食べるが、体調維持のためらしい。
フォレストキャット用の食べる草、探さないとな。
「森を走り回り、川で水浴びを好んで行う。ああ、だから嫌がらなかったんだ。」
他にもだいたいの性格や習慣が載っていたが、気づけば水も溜まっていたので、本をしまった。
冷たい水に手を入れて、魔法で温める。ふわっとお湯に変わっていき、ちょうどいい湯加減にする。
「はいろーっと。」
ぱぱっと服を脱いで、桶に放り込むと浴槽にはいった。
「ふわぁ。今日一日歩きっぱなしだったなぁ。」
"神山の端"からイズリールまで街道を歩いていく間に、マッシュカウを狩ったり、ライガに出会ったりと、普段は運動しないから相当歩いた気がする。
「でも、足は痛まないし、むくんでもないな。」
疲れは多少あるものの、やはり加護のおかげか、基礎体力は前よりもかなりあることがわかった。
「よし、たくさん食べて、ふかふかのベッドで寝るぞー。」
少し早めに終わらせたお風呂を出た後は、いつものケアをして、シックなデザインのワンピースにハイヒール、日本からノインが持ち帰ってくれたアクセサリー箱から、イヤリングとネックレスを着ける。
「髪は、またハーフアップかな。」
髪型を整えて、ハーフアップをひとつにまとめて、髪留めを着けてみた。
改めて鏡にうつる美少女が自分なのかと疑ってしまいそうになった。
ふいによぎるあの地味な顔を、手で払いながら洗面所を後にする。
ライガが近づいて来て、可愛い!と言ってくれたようで念入りに撫でてあげてると、コンコンとノックが聞こえた。
ドアを開けてみると、ピシッとした背広のようなおしゃれな服を着たノインだった。
「夕食だよ。」
ノインも私に合わせてくれたらしく、まるで高級ディナーにいくカップルのようだった。
「ありがとう、ノイン。カッコいいね。」
「アネモネはすごく可愛い。」
直球の誉め言葉に舞い上がってしまい、真っ赤になりつつもえへへ、としか言えなかった。
「今日の宿泊客は自分たちだけみたい。」
「そうなの?独占だね!」
足元にいるライガも嬉しそうに喉をならしていた。
すると、ノインがしゃがみこみ、ライガに黒の蝶ネクタイを着けた。
「ライガもおしゃれ。」
「うわぁぁ、可愛い!良かったね、ライガ。」
ライガは自分もおしゃれが出来たことに嬉しそうに走り回った。
「ありがとう、ノイン。用意してくれたんだ。」
「ううん。持ってたのだから。」
貸してくれたことにも礼をいいながら、私達は階段を下りると、先ほどの男性が待っていた。
「お待ちしておりました。こちらへ。」
レストランに案内されて、私達は特等席なのか中央の広いエリアを使わせてもらえた。
椅子を引いてもらって座ると、男性が飲み物は?と聞かれる。
「私は、さっぱりしたものが、いいかな?ノイン、何がいいかな?」
特に思い付かなくてノインを見ると、メニューを見ながら代わりに注文してくれた。
「ありがとう。こういうとこでの食事は初めてだったから。」
「気にしないで。」
微かに笑ってノインは答える。すぐに飲み物を持って男性が近づいてきた。透明な飲み物が入ったピッチャーとキレイなグラス、足元にはライガ用の水の入った器を置いた。
「ご注文を伺います。」
といつもの通りにメニューを開いて、文字が読めなかったことを思い出す。しかも、かろうじて読めた内容も、何の料理かサッパリだった。
ノインが察してくれたらしく、コース料理を頼んだのでそれに乗っかり、何事もなかったかのように男性にメニューを返した。
「では、ごゆっくり。」
男性は厨房まで下がっていった後に、ホッと胸を撫で下ろした。
「普通にメニュー見ちゃったよ。」
なんて言いながら、飲み物を飲むとすっと喉を爽やかな味が抜けていった。
「ん?レモンかライムかな?」
「うん。食材はだいたい名前が一緒。」
「それは助かるなぁ。ユーリンさんとライラさんに感謝だなぁ。」
ぐいっと飲み干すと、ノインが空になったグラスに注いでくれた。
「あ、そういえば、お酒飲めるのかな?」
ふと浮かんだ疑問に、ノインは自分のグラスに飲み物を注ぎながら答えてくれた。
「うん。日本みたいに成人したら。」
「あれ?私は成人扱いなの?」
「うん。一応、18にしてある。」
ノインはこの飲み物が気に入ったのか、結構ハイペースで飲んでいる。
「そっか、ならチャレンジしてみようかな。」
「お酒の名前も一緒。」
「カクテルとか飲んでみたかったんだよね!」
そんなことを話していると、先程の男性が料理を運んできた。
さて、下界発の料理を堪能しますか。