やりたいことを 4
門ならまっすぐ大通りが続き、通り沿いにはたくさんの店が並んでいる。
八百屋、カフェ、武具屋、と多種多彩な店に目を奪われながらも、ノインとは離れずに歩く。
「まずはギルドに。」
ノインの言葉を聞きながら、行き交う人を見る。
ファンタジーの住人であるエルフ、ドワーフにリザードマンや獣人、と人間以外にもたくさん見かけた。
「人種も多種多彩なんだね。」
「うん。」
ああ、エルフのあの耳さわりたいし、リザードマンの鱗を撫で撫でしたいし、獣人のあのしっぽに顔埋めたい!仲良くなったらやらせてもらえるかな。
なんて、一人妄想を咲かせてると、中央に開けた広場を抜け、大きな看板のある建物の前に来た。
「入るよ。」
ノインの声で我に返り、私も後をついて中に入った。
両開きのドアを開けると、中は暖かみのある内装の木造の作りだった。左すみに登りの階段があり、右側の通路の方には看板がたっていた。皿とフォークのマークから食堂と察した。
そして、正面にはカウンターがあり、数人の女性が接客していた。
ちょうど空いたカウンターに、ノインと向かう。そこには女性が立っていて、こちらを見つけると笑顔で挨拶してくれた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ!」
「すみません、従魔登録を。」
ノインの言葉に、女性は笑みを崩さずに答える。
「カードの提示をお願いします。」
私はカードを出してから、街中では危ないと判断し、肩にのせていたライガをカウンターに乗せた。
ちょこんと座らせると、ライガはキョロキョロしながらも、慌てることなくそのままの姿勢で座っている。
「この子と契約したので、お願いします。」
「あら、フォレストキャットですね。失礼します。よしよし。」
カウンターの女性に撫でられてご満悦に喉をならすライガ。すると、女性はすっとライガの体毛を抜き取った。
鮮やかな手口に感心しつつ、女性はにこやかに対応する。
「登録しますので、少々お待ち下さい。」
女性はカードと体毛を持って、カウンターの奥の部屋に向かった。
ライガを撫でながら待つ中でふと、左隅の階段の近くにあった壁に飾られたボードを見る。たくさん貼られた紙にはびっしりと文字が書かれていた。
ちなみに文字はほぼ読めなかった。
「あれは依頼ボード。ランクごとに違う。」
「へぇ、あそこから依頼を受けるんだね。」
と話ながら待っていると、女性はカードを片手に戻ってきた。
「お待たせしました。カードをお返しします。」
女性からギルドカードを受け取ると、再びポケットに入れるふりをして、腕輪の中にしまった。
「ありがとうございました。あと、もうひとつ。」
私は女性にライガを撫でさせつつ、街道で倒したマッシュカウの話をする。温厚なマッシュカウがフォレストキャットのねぐらが襲ったこと、こんな小さなライガが追いかけられていたことも含めて、異常だったと告げると、女性はやはり、と呟いた。
「依頼ボードにも載せてありますが、このマッシュカウの異常行動で田畑や市民に被害が出た為に、領主から依頼が出ました。」
女性の話を聞いたノインがボードから紙を一枚剥がして持ってきてくれた。
勿論読めないが、チラッと見て理解したふりで誤魔化した。
「原因を調べてわかれば5銀貨、解決したら1金貨、討伐したマッシュカウの食材全てそちら持ち、となります。いかがでしょう?」
女性の言葉に、私は仲間のノインにも話を聞く。
「ノインはどう?」
「かまわない。」
ならば、と女性に依頼を受けると話すと、女性はぱぁっと笑顔で感謝を言われた。
早速手続きで、女性が奥へ引っ込んだ隙にノインに話しかける。
「街の観光はまた今度だね。」
「良かったの?アネモネ。」
「うん。ライガの親の敵だし。」
肩に乗ったライガはまるでありがとう、と言いたげに、にゃあぁっと鳴いた。
まぁ、肉もキノコも美味しかったからまた食べたいな、というのもあるんだけどね。
依頼を受け、冒険者ギルドから出る頃には日が落ちて夜になりかかっていた。
街頭の明かりが灯され、日本並に明るい大通りはまだ賑やかさが残っていた。
「さて、まずに宿かな。」
「うん、"風見亭"以外で。」
あ、ノインはまだ根に持ってるみたいだね。
辺りをキョロキョロしつつ、不機嫌さの残るノインに話しかける。
「どうしようか。」
「従魔を連れて泊まれる宿を探す。」
と言うと、ノインは周囲を見ながら大通りを歩き出した。
離れないように歩いていくと、大通りから少し外れた場所の一件の大きな建物についた。
「ここなら安心。」
ノインの太鼓判が押されたので、私は迷わず頷いて建物へと足を踏み入れた。
中の内装は少し古めかしさを残しつつも、埃ひとつ見当たらなかった。
天井から吊るされた照明もデザインが良く、調度品も品が良かった。
「いらっしゃいませ。ようこそ、月猫亭へ。」
入ってすぐ正面にはカウンターがあり、一流ホテルのようなビシッとした見た目の男性が、柔らかい声で声をかけてきた。
「部屋を2つ、隣同士で。片方は従魔同伴で。」
「かしこまりました。こちらが鍵になります。」
男性がさっと差し出した鍵はアンティークのような真鍮の鍵で、部屋番号が刻まれていた。
「部屋に備え付けの家具はご自由にお使いください。大浴場もございますが、各部屋にも浴槽があります。夕食はいかがされますか?」
「アネモネ、食べる?」
ノインが私の方を向いて聞いてくるが、目がすでに食べたいと訴えていたので、お願いしますと伝える。
男性はチラッとライガを見て、笑みを浮かべる。
「従魔はフォレストキャットですね。まだ幼いようですので、柔らかい肉をお出しします。」
「ありがとうございます。」
ライガはご飯だとわかったらしく、にゃあぁと礼を言うように鳴くと、男性も笑みを深めた。
「あと、夕食ができ次第、お部屋に運びますか?こちらのレストランで召し上がりますか?」
「あ、レストランで。ノイン、いいよね?」
私がそう聞くと、ノインは目をキラキラさせたまま頷いた。
「では、ごゆっくり。」
カウンターの横から階段を登り、二階の部屋に行くタイプらしく、赤絨毯の敷かれた豪華な階段や廊下はほぼ高級ホテル。
「ノイン、ここ絶対高いよね?」
「うん、一泊1金貨。」
「ちょ!確かに納得の価格だけど、良かったの?ホントに。」
ノインは先頭で歩いていたが、私の方を振り返ると目が笑っていなかった。
「虫が来ない。」
「あ、はい。」
─────これは確実に、おこだよぉ!
「じゃ、私はこの部屋だね。夕飯で会おうね。」
とそそくさと部屋に逃げ込んだ。
入った部屋はかなり広く家具が豊富だった。机や椅子も豪華な作りで、ベッドはダブルサイズでふかふかの寝心地。足元には廊下同様にカーペットが敷き詰められ、隣の部屋には洗面所と浴槽があり、ベッドの後ろには眺めのよい窓から、街並みを一望できた。
「うわぁ、広いな。」
ライガが大喜びで走り回ってはしゃいでいる。
「こら、ライガ。最初にお風呂だよ。」
腰の剣を外して、腕輪にしまうとライガをさっと抱き上げた。
普通の猫なら嫌がるはずが、ライガは楽しみで仕方がないようだ。
「一緒に入っちゃおうかな。あ、待ってて。」
私はライガにそう言って、部屋をでて隣の部屋のドアをたたく。
「ノイン、私だけど。お願いがあって。」
すぐにノインがドアを開けてくれた。
「どうしたの?アネモネ。」
周囲を確認してから、ノインに両手を合わせてお願いをする。
「ライガ用のシャンプーとブラシ、あるかな?」
「ああ、はい。」
ノインはどこからか取り出したボトルとブラシを渡してくれた。
「休んでるところにごめんね、ありがとう。」
「ううん。また夕食に。」
私は手を振りながら、ノインと別れて部屋に戻る。
ライガが手に持ってるものを見て、疑問に思っているようだった。
「これはライガの体をキレイにする道具。こっちで洗って、こっちで毛並みをとかすからね。」
興味津々にボトルとブラシに鼻をちかづけるライガ。
その間にタンスから、赤茶のワンピースとハイヒールを出す。
「さ、ライガ。お風呂いこうか。」




