やりたいことを 6
コース料理を食べるのは初めてだったが、少しづつ盛られたキレイな料理を食べるのはもったいなかったが、食べると美味しかったので後は気にせずに食べた。
インスタに載せたかったなぁ。あ、そもそもネット環境すらなかったんだわ。
「こちら、ギムレットになります。」
途中からカクテルを注文し、かなりの数を飲んでみたが、体が温かくて気分が良いくらいで酔ってるのかすらわからない。
「結構頼んじゃってたなぁ。ノイン、ごめんね。」
「ううん。全然大丈夫。」
料理の最後のデザートも食べきり、最後のギムレットを飲み干した。
ライガは早々に食べ終わり、大人しく足元で寝ていた。
「ご馳走さまでした。」
声を重ねて食事の終了を告げると、男性が近づいて来て話しかける。
「料金はチェックアウト時にお支払ください。明日の朝食はご用意しますか?」
「お願いします。」
かしこまりました、と言って皿を片付けていった男性を見送り、私は立ち上がった。
「じゃ、明日は朝食を食べてから調査だね。」
「うん。」
部屋に帰ろうとする際に、厨房から声が聞こえて気になって耳をすませる。
「───足りない。」
「───しかし、仕入れが。」
先程の男性と、シェフらしき男性の声。
私が気になって立ち止まってると、ノインも気づいたようで近づいてきた。
「肉がないらしい。」
「そうなんだ。あ、明日のマッシュカウの肉、討伐したらちょっとあげちゃう?今日みたいな美味しい料理にしてくれそうじゃない?」
私の提案にノインは考えこんだ後、目をキラキラさせて頷いた。
「じゃ、話しとくか。」
そう言って厨房をのぞくと、シェフと話し合いをしていた男性がこちらに気づいた。
「お客様、何かご用でしたか?」
「ごめんなさい。食材が足りない、と聞こえてしまって。」
男性はシェフをチラ見したあと、私達に頭を下げた。
「申し訳ありません。一部の材料が仕入れ出来ず、お出しできない料理がいくつかありまして。」
「何か手伝えますか?」
「そんな!お客様のお手を煩わせるのは。」
男性は困った顔で私達に対応するが、私は首を横にふった。
「そう、ですか。では、お言葉に甘えさせて頂きます。改めて、わたくしはこの月猫亭の責任者で、ローレンスと申します。」
「ローレンスさん、何が足りないんでしょうか?」
聞けば、やはりマッシュカウの影響で放牧していた食用牛が襲われ、肉の流通が限られた為に仕入れられなかった、と言うことだった。
「私達、明日から異常行動をするマッシュカウの調査に行くんです。」
「そうでしたか!我々にはマッシュカウは狂暴すぎて、太刀打ちできません。」
「調査の過程でマッシュカウを狩るかと思いますので、こちらに持ち込んでも良いですか?」
私の提案に、是非!と喜ぶローレンス。
「では、明日よろしくお願いいたします。」
たくさんお礼を言われ、私達は自分達の部屋に戻った。
「おやすみ、アネモネ。」
「うん、おやすみ。」
ノインとはドアの前で別れて、部屋に帰ってくるなり、私はハイヒールを脱いだ。
痛かったわけじゃないけど、慣れないと不安定で歩きづらいのよね。
抱いたままのライガはあの会話の中ですらぐっすりと眠っていた。よほど、疲れたんだろう、と私は広いベッドの枕元にライガをそっと置いた。
私もんーっと背伸びをすると、タンスを腕輪から出して、ドレッサーにアクセサリー等をしまい、寝間着に着替える。
「さて、寝る前に洗濯と勉強だな。」
月明かりが射す窓辺で、部屋の明かりをテーブルのランプのみにして、文字の勉強をする。
「アネモネ、寝なくて大丈夫?」
部屋から漏れるランプの明かりに気づいたノインが部屋に来たので、ついでに紅茶をお願いしたら、すぐさまカップが出て来て、暖かな紅茶が注がれた。
「うん、もうちょっと。」
紅茶を口にしつつ、辞書を読み進める。
「無理はしないで。」
ノインは心配そうだが、まだ今日の興奮が覚めやみそうになくて、クールダウンしながらの勉強なので、無理すらしてないんだけど。
「ノインはこの街で何かしたいことある?」
「食べ歩き。」
「あはは、私もー。」
ギルドに向かうときに大通り沿いの店で気になる店があったから、寄りたいんだよね。
「よし、とりあえず母音は大丈夫かな。」
この世界の文字はすべて共通で、辞書を見る限りだと母音から似た形のものは多かったので、先に母音から覚えた、と言うわけだ。
「寝れそう?」
「うん、カモミールティーにしてくれたでしょ?だから、これでベッドに入って寝るよ。」
ノインは安心したのか、微かに笑って立ち上がった。
「また明日。」
ベッドの枕元にいるライガを軽く撫でてから、ノインは部屋から出ていった。
私は辞書を腕輪にしまって、ポットに残った最後のカモミールティーをカップに注ぐと、窓から街の景色を見た。
時間が遅いからか、街明かりはかなり減って、夜のカーテンが静かに降りていた。
窓を少し開けた為に、夜風が心地よかった。
「ここが、"ファレンジア"か。」
ウィリアから貰った地図に書いてあった、この下界をファレンジア、というらしい。
ちなみに昨日までいた天界は"主神箱庭"というのを旅路でノインが教えてくれた。
「変えられるんだろうか。」
このままでも充分魅力的に見えるのだが、主神の目には滅びまでのカウントダウンが進行してるんだろう。
「急がなくてもいい、とは言ってたけど。」
おそらくだけど、ある程度のことは主神も手を尽くして、それでもダメだったから私を呼んだはず。
なら、あまりのんびりしてられない。
出来ることをしよう。
まずは明日のマッシュカウの調査だ。
「マッシュカウの異常行動も?まさか。」
窓を閉めてそんなことを呟くが、短絡しすぎだと首を横にふった。
ベッドに潜り込み、ふかふかの寝心地にあっさりと意識は沈みこんでいった。




