新しい世界へ 4
次に見えたのは、外の景色。
足元には地面がむき出しで、所々芝生や陸上のトラックのような直線の線が引かれていた。
「アネモネ、テスト。」
「ん?テスト?」
ノインの言葉に私は振り返ると、ノインはボードを片手にし、眼鏡をかけていた。
「ノイン、眼鏡似合うね。」
「誤魔化さない。」
うっと詰まって小さくため息をつく。
「体力テスト、やろう。」
ノインの提案は、学校の体育でよくやる体力テストをやる、というもの。
ボードには実施内容とチェック項目があるらしく、見せてくれなかった。
「まずは筋力。」
といって差し出したのは、握力計だ。
「あー、はいはい。」
やり方を知ってるから、受け取って右手で持つ。
「待った。調節して。」
ノインは私の手にある握力計を見せながら、いくつかのメモリを指定した。
なるほど、全力で握るだけでなく、調節できるかを見るのね。
「わかった、やってみる。」
まずは全力で握ると、ミシッと音が聞こえて、あっと声をあげて握力計を見たが、壊れた様子はなかった。
数字を見たら、針が50付近で止まっていた。
「わっ、すごい。50もいった。」
握力一桁の私が加護をもらったら、9倍近く握力が増えました!
通販番組の感想を言う人の真似です。
するとノインがボードにチェックをしながら、ぼそっと呟いた。
「それ、50"万"。」
「─────はっ?」
思わずノインと握力計を交互に見る。
よく見ると数字の横に小さく"万"と書かれていた。
「ちょっ!ご、ごじゅう、万って!?」
「ヴァレア様はその倍。」
「いや!そりゃそうでしょ!つか、握力だけで百万って!」
闘争の加護のせいで、軽く人外越えちゃったよ!
「次、10万づつ調節して。」
軽くショックを受けつつも、ノインの指示に従って、握力計を握った。
両手で数回繰り返し、握力の感覚を覚えた頃に、
「ノイン、リンゴある?」
「ん。」
試しにノインにリンゴを出してもらった。
そっとリンゴを受け取って、片手で持った。
「ほっ。」
と声と共にリンゴを"軽く"握ると、ぐしゃっとリンゴがつぶれた。
「あー、なるほど。」
なんとなく感覚を覚えてきた。
「ノイン、鉄の棒もある?」
「ん。」
ノインがどこからか差し出したのは、鉄棒の太さと同じ位の棒だった。
それを両手で握ると、今度はかなりの力を入れて、捻った。
まるで飴細工のようにねじ曲がった。
「感覚、掴めた?」
ノインに聞かれて、私はまぁ、と呟いた。
鉄の棒を片手で持ちながら、頬をかきつつ笑う。
「よっぽどのことがない限り、力を込めて持たないようにするよ。」
「懸命。」
ノインは鉄の棒を私から回収すると、次のテストを告げる。
「上体起こし。」
ノインがバサッとマットを敷いて、私を呼んだ。
「ああ、腹筋か。」
横になると、足をノインが押さえてくれた。
───忘れかけてたんだが、イケメンに足を押さえてもらうとか、どこの青春かと!
「アネモネ、始めて。」
ストップウォッチを片手に構えると、私はあわてて両腕を頭におく。
腹筋、苦手なんだよね。出来て15回かな?
始め、とノインの掛け声で私は腹筋を始める。
─────あれ?軽い。
まるでベッドで跳ねてるかのように、上体があっさりあがる。
回数もすぐに予想を過ぎて、あっという間に数を重ねていく。
────いつもならお腹痛くて、ギブアップなのに。
お腹に痛みは来ないし、さくさくと上体は上がる。
「はい、おしまい。」
気づけばじんわり汗をかいていた。
ノインが足から体を離してボードに数字を書き込んだ。
起き上がりながら、私はもらったタオルで顔を吹く。
「ちなみに何回だった?」
「72回。」
「───ん?」
一瞬、納得しかけたがピタッと止まった。
30秒しかやってなかったよね?
「ちなみに平均は?」
「20くらい。」
「もういいや、深く考えるのは。」
思考が働くのをやめ出したら、最早脳筋だよね。
「どう?慣れた?」
全部の体力テストを終えたあと、ノインからそんな言葉をもらって、私はうなずいた。
「うん。さっきまではフワフワしていたけど、今はようやくストンと収まった感じ。」
反復横飛びで蹴る力が強すぎて、2メートルくらいジャンプした時は、自分が怖くなった。
だけど、次第に慣れていき、後半のテストは全力と加減を繰り返しながらも、ちゃんと制御できるように。
「心が身体と繋がった。大丈夫。」
ホッとしたのかノインは微かに笑っていた。
「案外、体力テストも捨てたもんじゃないね。」
私はようやく馴染んだ新しい自分に、楽しみが増えた。
「動いたらお腹すいたね、ノイン。」
「昼御飯食べたら、戦闘訓練。」
「うん、そうだね。」
すっかり気持ちは脳筋になったところで、私は昼御飯を楽しみに地べたに座った。
ノインはさっき使ったマットに手をかざして、サンドイッチと骨付き肉、果物が入った篭を出した。
「飲み物はお茶にした。」
長い木の筒を差し出されて、受け取ってからようやくこれが水筒だと気づいた。
「今日はなんか野性的だね。」
「これが旅するときのご飯。」
「ああ、なるほど。こんな感じなのね。」
篭のサンドイッチを一口食べながら、ノインと会話を楽しむ。
「これでも贅沢。」
「でしょうね。旅を始めたら、保存食食べないとね。」
頭に浮かんだのは堅焼きパンに干し肉程度だったが、実際はもっと質素なんだろうけど。
「材料とか買い込むしかないか。腕輪に入るかな?」
「自分が持つ。」
「いいの?料理とか任せてるし、悪いよ。」
ノインは首を横にふった。
「料理、楽しいから。」
「そう?その辺、任せていい?」
私がそう提案すると、ノインは嬉しそうに微かに笑った。
「調理器具とかはあるの?」
「大丈夫。」
「ノインもこの腕輪みたいなものがあるんだね。」
私はシュリアからもらった腕輪に触れながら、ノインにそう聞くとうなずいた。
「リクエストあれば作る。」
「ありがとう。」
私は骨付き肉にかぶりつき、絶妙なスパイスに満足感で満たされる。
「はぁ、美味しい。でも、ご飯欲しくなっちゃうな。」
「食べる?」
「えっ?あるの?いるいる!」
ノインからご飯茶碗に乗ったご飯が渡されると、次に箸をもらう。
一口、ご飯をほうばると後は箸が止まらない。
「美味しい!良かった、もう食べられないかと思ったよ。」
「この世界にもちゃんとあるよ。」
「ホントに!?」
食事への楽しみが増えたところで、私は茶碗と箸を置いてご馳走さまをする。
「そういえば、食文化のことは聞いてなかったね。聞いても良い?」
「うん。」
「────もしかして、料理の属神さん、いたりする?」
その問いにノインはうなずいた。
「いる。会う?」
「いや、ノインから聞けるならそれでもいいけど。」
「詳しく聞くなら会うべき。」
んー、っと言いながら考える。
「でも、下界に行くなら会う時間ないかな。」
「ん?急がなくていい。」
「えっ?でも、このままだと世界滅んじゃうんじゃ?」
ノインがキョトンとした顔をしたのち、ぽんっと手を打った。
「すぐじゃない。猶予はある。」
「そっか、ごめん。勝手に焦ってた。」
私が謝ると、ノインは首を横にふった。
「話してなかった。自分が悪い。」
なんだぁ、ちょっと焦りすぎたな。
「なら、戦闘訓練が終わったら、会いに行きたい。」
「わかった。自分も料理、習いたい。」
ノインは篭を片付けながら、嬉しそうにしていた。
よし、ではさっさと戦闘訓練やりますか!
体力テストを調べてみたら、意外と色々テストされてたんだね。
ちなみに私は運動音痴です。




