新しい世界へ 5
戦闘訓練、と言って始めたのは、長剣の素振りと銃の的当てだ。
最初、武器を手にした時よりもしっかりと握り、振るう速度、狙う速度を徐々にあげていく。
「アネモネ。」
呼ばれて振り返ると、ノインの横には木で出来たかかしみたいなものが立っていた。
「なにそれ?」
「練習相手。」
そういうとかかしはどこから取り出したか、ハリセンを構えた。片手でハリセンをもち、手を打ち付けている。
「う、動くの?」
「うん。」
かかしは顔がついているが、デフォルメされてるので可愛いが、纏ってるオーラが何となく鬼教官のようで、ギャップがヤバい。
「アネモネ、頑張って。」
「うへぇ、が、頑張ります。」
かかしの目の前に立つと、胸元に数字が浮かび上がる。
────5、4、3。
カウントダウンが始まって、私は慌てて剣を構えた。
────2、1、スタート!
スタートの文字が見えた瞬間、かかしがハリセンを振り上げた。
私はぎょっとしたが、難なくハリセンの攻撃を回避。
続けて、ハリセンを横に薙ぐ。
それも後退して回避。すかさず距離を詰めて、ハリセンを繰り出すかかし。
────なるほど、練習って、対人戦のか。
かかしの動きはまだ緩慢な動きで、動き出してからでも間に合った。
だが、すぐにかかしの胴体の文字が変わる。
"レベル1クリア、レベル2に移行"
その文字が見えた後、かかしの動きは早くなった。
見たらすぐ動き出さないと、回避が難しくなったのだ。
「わっ!」
────まさか、レベル上がるごとにスピード上がるの!?
そして、さっきまでパターン化された動きも、フェイントが加わり出した。
「ちょっ!」
右から来ると思わせといて、いつの間にか増えたハリセンが飛んできた。
慌てて盾を発動して受け止める。すぐさま右からハリセンがきて、慌ててしゃがむ。
「待って!待って!」
"どうした!?この程度かッ!"
かかしの胴体の文字がレベル表記から変わるが、攻撃はやむ気配がない。
てゆーか、喋るんかーいっ!
「アネモネ、あと30分。」
「むーりー!」
"レベル2クリア、レベル5まで引き上げます"
「鬼ぃ!」
スピードも攻撃回数も格段に上がり、一瞬見逃してハリセンが腕に当たった。
"またまだっ!"
かかしが文字で渇を入れてくる。
「いっ!」
次第に当たるようになってくると、痛くて気が散っていく。
"ほらほら、どうした!?"
「─────っせぇぇぇぇ!」
長剣を離し、右手に銃を構え、銃口の大きい形状に変えて、ありったけの魔力を込める。
引き金をひくと、銃口から巨大な光弾が発射されて、かかしの右手と胴体がぶっ飛んだ。
"なかなかやる"
まで文字が表示されたのを見たのは、拾った長剣で頭に一撃食らわせた後だった。
ビィィィィィ!とブザーが聞こえて、ようやく我に返った。
「アネモネ、すごい。」
ノインに声をかけられたので、ビクッとして身を震わせた。
「あ、あはは。」
わずかに声を震わせて、私は長剣から手を離した。
「初めてで、すごい。」
「ごめ、ん。ノイン。」
謝ったあとにかかしの方を見る。右腕から胴体にかけてと頭の半分に長剣がめり込んでいる状態だった。
「大丈夫、すぐなおる。」
するとノインは長剣を引き抜いた。たちまちかかしは光って元通りになった。
「あっ、よ、良かった。」
地べたにべたっと座り込んで、はぁと大きくため息ついた。
「アネモネ、大丈夫?」
ノインが心配そうにのぞきこんだ。
「あ、う、うん。今は大丈夫。」
「怖かった?」
「───うん。」
怖かったのはかかしではなく、怒りで無我夢中で銃と剣を振り回した、私自身だ。
痛くてイライラしはじめたら止められなかった。
「休もう。」
そういって、ノインは私を起こしてくれた。
すぐ椅子とテーブルを用意してくれて、ささっと冷えた紅茶とマカロン、ケーキを並べた。
「ありがとう、ノイン。」
コップの紅茶を飲んで、ようやく落ち着いてきた。
「戦闘、嫌?」
「う、うん。怖い、かな?」
「なら、自分がやる。絶対、守る。」
ノインがキリッと真剣な眼差しで、私にそう話した。
────イケメンが守ってくれる、と言ってくれてる。
ちょっと前なら嬉しさに悶絶してたが、何故か今は悲しくなってきた。
「うん、ありがとう。」
「訓練、やめよう。」
「えっ、でもせっかく加護も武具ももらったのに。」
ノインは微かに笑って首を横にふった。
「いざとなった時のため。アネモネが戦わなくていい。」
「────うん。」
私は右手の指輪を見た。すると少し温かくなり、指輪から案じてくれてるイメージを感じた。
「ありがとう。」
左手で指輪を撫でると、私自身も少し気持ちが晴れた。
ゲームだったら、もっと楽しめたんだろうけど。これが現実であって、もしあのかかしが人だったなら、と想像したら、急に怖くなってきた。
「次は魔法。怖くないから。」
「ごめんね、ノイン。」
私が紅茶を飲みながら苦笑いすると、ノインは首を横にふった。
「無理はダメ。」
ノインは微かに笑って、私を心配してくれた。
「楽しんで。自分が守るから。」
優しいイケメンは卑怯です───私は少し元気が出た。
イケメン、美女の優しさは特効薬です。




