4.3986
ここから書き出し祭り公開分の続きです。
3986というVAN HALENみたいなサブタイトルは書き出し祭り用に準備してる時ココまでで3986文字という意味で書き込んでた数字をそのまま使いました。
今は手直しをしたので少し違ってると思う。4000文字という縛りも無いし、カットしたものを付け加えたり今あるフレーズも書き直したり、いずれしていきたい。
狂った笑い声をあげて踊るように飛び出してきたのは幼馴染のハルだった。目が血走っているのは全身のあちこちで血液の逆流が始まっている証拠だ。もう彼は助からない。僕のことも見えてない。すこぶる上機嫌で何処かへ走り去った彼の最期が、せめて穏やかであることを祈るばかりだ。
僕は紅い実をひとつ、ふたつ、みっつ取って袋に詰めた。
ひとつ、ふたつ、みっつ数える前に天国に。わずかこれだけで僕も彼と同じ道を辿ることが出来る……もし、この旅で行き詰まることがあれば前後不覚のまま終わりまで歩けばいい。思えばコイツを口にして酩酊ってから僕は正気になった。脳や血液や神経を浸食し精神を狂わせるキミカルな成分が、元より劣化が始まっていたシステムとの繋がりだけを壊してくれた。だから助かった。たったひとりで。
幸か不幸か僕は他の連中のように結局そのまま壊れることもなく旅立つことになった。幸運にも全部壊れてしまえた奴らは僕より先に遠くへ旅立って、こんな規則と規範の奇妙な世界へと帰ってくることもなかった。
猫夏大橋を越えたら何処へ行こうか。
旧首都たるトーキョウヘッドクォーターの地下数キロに作られた地底都市TDL(Tokyo Digging Land)も、空前の大勝利宣言都市トライアンフオーサカもここから遥か遠くにある……するとやはり夏すみれ半島の先端から北に数十キロ。狂乱の田舎摩天楼マッドナゴヤだろう。我が国を影から日向から支配した超巨大企業が二つもあり、戦争勃発と同時に独立宣言をし互いを攻撃し合いながら今も周辺の焼け野原を飲み込むように都市部が膨張し続けている……と随分前に風のうわさで聞いている。
あそこなら──
夏島から半島南端の漁業都市サザンチタまでは連絡船が出ていたはずだ。これに乗ることさえ出来れば、あとは歩いて行けばいい。
何日かかるかわからないが、その何日間だって島に居たら無為に過ごすだけだ。歩けるだけ歩いていってみる価値はある。それが今の僕の、命の価値でもあるのだ。
多分そうだ。
立ち入り禁止の看板もバリケードも何もなく、猫夏大橋は唐突に崩れ落ちていた。その威容を圧倒的な質量のガラクタになっても保ちながら、低くどす黒い脂まみれの空に向かって伸びて、そして折れて沈んでいる。
行き先表示版は既に何も読み取れなくなるほど掠れて色あせて、三つ並んで仲良く朽ち果てた通行料金徴収所のキャノピー型ブースを埋め尽くして蠢く吸血苔水泥が僕を見てざわざわと色めきだって、脂臭い潮風が頬を舐めて、僕は塩の混じった砂を踏みしめて歩き出した。特に感慨も、後ろめたさも無かった。実に呆気なく足を踏み出していた。勝手に歩き出す僕を後ろ斜め上から見ているのに、好きにさせているような気分だ。
片側四車線の道路が所々崩れたり陥没したりしながら延々と続く。
時々、遥か下で鈍色にのたうつ海が見え隠れする。とろりとした生ぬるい風が空気中を流れていって、あの脂混じりの雨を予感させる。
身の回りから色が失せてゆく。一歩また一歩と島が遠ざかる。海、空、橋、身の回りから色が失せてゆく。踏み出せば、このひと足が道となる。
目の前の道が大きな穴をあけて壊れている。
鈍色の平坦な海が大きな口を開けて遥か下で静かに笑う。




