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第6話:漆黒のデュエリスト(後編)

キィィィィィンッ!


超高速回転するダイヤモンドカッターの回転刃(ロータリーソー)が、夜の空気を切り裂く高周波音を撒き散らす。つや消しブラックの辻斬りビークルが、獲物を狙う肉食獣のようなスピードでジョウたちのクーペへ襲いかかってきた。


「来たぞ! 直撃を受けたらクーペごと真っ二つだ!」

助手席でジョウが鋭く叫び、アームのツインレバーを握り直す。


「分かってんだよ! このクーペを鉄くずにされてたまるかよ!」

運転席のリュウが口にタバコを咥えたまま、鋭い眼光で前方を睨みつける。ステアリングを極限まで切り込み、アクセルを踏み込んだ。


ガガッ!

敵の回転刃アームが横殴りに迫る——そのコンマ一秒前、リュウは車体を滑らせるようにスライドさせ、敵の攻撃ラインからギリギリで車体をかわした。


ズバシィンッ!


「甘い!」

ジョウは交わすと同時に右アームを展開。敵の回転刃アームの「側面(刃がついていないフレーム部分)」へ、叩きつけるように自機のアームを滑り込ませて弾き飛ばした!


ガシィィンッ!


強烈な金属打撃音が響き、敵の攻撃軌道が大きく外側へと逸れる。


「よしっ! 回避して、アームで払った!」

少し離れた安全圏に停車した装甲ワンボックス『モバイル・ラボ』の車内で、純平がモニターにかじりつきながら歓声を上げる。


「油断しないで、アニキ! 相手の辻斬り、旋回性能が異常だよ!」

純平の叫びに続いて、隣でポータブルアナライザーを操作するマナの声が通信インカムに飛んだ。


「ジョウ! 辻斬りのアーム軌道、データをパパの運動物理学プログラムに同期して解析したよ! あの回転刃、攻撃の瞬間にアームの油圧トルクが最大化するけど、払われた直後の0.3秒間、慣性でアームの復元が遅れる!」


「0.3秒の隙か……!」

ジョウの目が光る。


「そう! 相手はぶつかり合いのビークルデュエルの車両を効率よく切り刻むために、攻撃特化のセッティングにしてるの。だから一撃を外されてアームを払われると、次の旋回に入るまで完全に無防備になる!」

マナが大きめのハンチングを目深にかぶり直し、確信に満ちた声で告げた。


「上等だ、マナ! リュウ、次で決めるぞ!」

「おうよ、ジョウ! 合わせるぜ!」

リュウがシフトを叩き込み、エンジンを咆哮させる。


辻斬りビークルが態勢を立て直し、再び右のアームを大きく掲げて突進してきた。刃の回転数が上がり、火花が散る。


「また来るよ、アニキ!」


「逃げ切って、払う……!」

ジョウの静かな号令とともに、リュウがクーペを極限のドリフト状態へと持ち込んだ。敵の回転刃がクーペのフロントフェンダーをかすめ、塗料を削り取る!


直撃回避——!


「今だ、ジョウッ!」

「喰らい……つけぇっ!」


ジョウは左レバーを渾身の力で押し込んだ。

マナの言った0.3秒の隙。払われて外側へ流れた敵のアーム根元、そのジョイントの隙間へ、クーペの補強アームがピンポイントで突刺さる!


ガチンッ!!


精密なピンポイント・ロック! 敵アームの旋回運動を止め、その勢いを車体側へ逃がして姿勢を崩す


ズガガガガッ!


旋回軸を失ったつや消しブラックの辻斬りビークルは、激しい擦過音とともに路面を滑り、コンクリート壁の手前で沈黙した。回転刃の音がヒュゥゥン……と途絶えていく。


「……勝負あり、だな」

ジョウがゆっくりとレバーから手を離した。クーペの車体には傷一つない。


「やったぁぁぁ! 完全勝利だ、アニキ! マナ姉!」

純平がモバイル・ラボで跳ね上がる。


「ふふん、ジョウとリュウの運転・操作と、私とパパの解析が揃えばこんなもんよ!」

マナも満足そうに胸を張った。


沈黙した辻斬りビークルの運転席から、ドライバーが手を上げて降りてきた。かつてデュエルでアームを破壊され、復讐のために自作の回転刃アームで街のビークルを襲っていたという元クラフトマンの男だった。


そこへ、遠くから聞き慣れた甲高いサイレンの音が近づいてくる。

治安維持課のA級パトカー隊だ。トレンチコートを着た風見(バード)が、煙草を燻らせながら歩み寄ってくる。


「やあ、桐生探偵事務所の諸君。連続辻斬り事件の犯人確保、見事な手際だね」


「ちっ……いつも通り、美味しいところで警察の登場かよ」

リュウが吐き捨てるように言う。


「手柄は持って行ってくれ、バード。……だが、今回の捜索依頼料と、この『デモリション特別協力手当』はきっちり支払ってもらうぞ」

ジョウが告げると、バードは苦笑しながら頷いた。


「もちろんだとも。君たちのモバイル・ラボのメンテナンス経費も含めて、しっかり口座に振り込んでおくよ」


月明かりの下、漆黒のクーペと装甲ワンボックスが並んで走り出す。


「さあアニキ、今夜の危険手当で『ラスト・ピット』の大盛りトースト奢ってよ!」

「ジョウ、私もパパへの報告が終わったらコーヒー付き合うわ!」

「へっ、ガキどもが賑やかになりやがったな」

「……悪くない夜だ」


直撃を避け、払って仕留める。4人の絆と技術が研ぎ澄まされた、鮮烈な一夜となった。


(第6話・後編 終わり)

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