第4話:連続放火の影(後編)
ゴーッ! ズドォォォンッ!
闇を切り裂き、夜空を赤く染める激しい火柱。
超高熱の噴射アームを備えた大型除雪車ベースの違法ビークル——通称『バーナー・ビークル』が、コンクリートの壁を壊しながら地響きを立てて迫ってくる。
「チッ、近寄れねえな! あの赤熱したアームの先端、触れただけでこっちのフレームまで焼き切られるぞ!」
クーペのステアリングを急切りし、間一髪で火柱を回避したリュウが苦々しく叫ぶ。
「逃げるだけじゃ埒が明かないよ! アニキ、クーペのアームじゃ太刀打ちできない!」
背後を追走する装甲ワンボックス『モバイル・ラボ』の車内で、純平がマルチモニターを必死に叩く。
「落ち着いて、純平! モニターの熱分布スキャンをパパの計算式に同期させて!」
その隣で、大きめのハンチングを直しながらマナが叫んだ。ポータブルアナライザーの画面に、敵ビークルの立体熱源マップがリアルタイムで描かれていく。
「……見えた! ジョウ、敵のアーム自体は耐熱合金だけど、背中の高圧タンクから噴射アームは高熱に耐えられない! 噴射の瞬間、ノズルの根元の冷却バルブが開いて排熱してる!」
「排熱バルブだと……!?」
クーペの助手席で、ジョウがツインレバーを強く握り直した。
「噴射直前の一秒間だけ冷却バルブが開く! そこを叩けば冷却系が異常を起こして、噴射システムを停止させられる!」
マナの的確な科学分析が、通信インカムを通して弾けた。
「チャンスは一秒か……。リュウ、やれるか?」
「ハッ、誰に口きいてやがる! コンマ数秒のタイミング調整なら、俺の右足に任せときな!」
リュウがタバコを吐き捨て、シフトレバーを激しく叩き込む。クーペのV6エンジンが咆哮を上げた。
「純平、モバイル・ラボで敵の退路を塞げ! マナはバルブ開放のカウントダウンを頼む!」
「了解、アニキ! 任せて!」
「了解! ワンボックスのシングルアーム、展開!」
追走していた頑丈な装甲ワンボックスが、路地裏の交差点へと先回りするようにダッシュ。後部アームを力強く展開し、横転した資材用コンテナを力任せに引きずり出して路面を完全封鎖した。
「な、なんだと!?」
退路を断たれた敵ダンプのドライバーが動揺し、強行突破しようと背中のタンクからアームへ高熱燃料を充填し始める。アーム根元のバルブが赤く発光した。
「来るよ! 噴射まで、3、2、1……今! 冷却バルブ開いた!」
マナの叫びが響く!
「合わせろ、ジョウッ!」
リュウがアクセルを限界まで踏み込み、クーペを敵の極限まで接近させる。
「打ち抜く……!」
ジョウは冷徹な眼光で標的を見据え、右レバーを引き倒した。
リュウによって強化・調整されたクーペの精密アームが、夜の風を切り裂いて一直線に突出! 敵アームの根元——露出したわずか数センチの冷却バルブへ、寸分の狂いもなくピンポイントで突き刺さった!
ガンッ!
「なっ……ガハッ!?」
衝撃を受けたバルブが歪み、内部で圧縮されていた超高熱燃料が逆流を始める。
プシューーーッ!! ズガガガガッ!
「うわああああっ! 燃料が逆流した! 熱が、熱が戻ってくるぅ!?」
敵ドライバーの悲鳴とともに、バーナー・ビークルのアーム根元から凄まじい白煙と激しい火花が吹き出した。高圧タンクの安全装置が作動し、すべての駆動系が緊急停止。黒煙を上げる巨大な車体は、そのまま沈黙した。
シーーーン……。
「……よし! 敵システム完全停止! 内部温度、急激に低下中!」
マナがモニターを叩きながら歓声を上げる。
「やったぁぁぁ! 科学の勝利だね、マナさん!」
「ふふん、私とパパの分析を舐めないでよね!」
ワンボックスの中で純平とマナがハイタッチを交わした。
クーペの窓から身を乗り出し、沈黙した敵ビークルを見下ろすジョウとリュウ。
「ふう……冷や冷やさせやがる。だが、あのボサボサ頭の理系ちゃん、いい仕事するじゃねえか」
リュウがニヤリと笑う。
「ああ。頼もしい仲間が増えた」
ジョウが呟いたその時——
ウゥゥゥゥン……!
遠くから響き渡る甲高いサイレンの群れ。赤と青の回転灯を輝かせた治安維持課のA級パトカー隊が、現場を包囲するように雪崩れ込んできた。
先頭の車両から降りてきたのは、トレンチコートの襟を立てた男——風見だ。
「やあ、桐生探偵事務所の諸君。相変わらず仕事が早いね」
バードは煙草の煙を吐き出しながら、横転した違法ビークルとジョウたちを見渡した。
「ちっ……またタイミングよく現れやがったな、ポリ公が」
リュウが唾を吐く。
「お前たちの手柄にしてくれて構わない、バード。だが……」
ジョウが手を差し出す。
「分かっているさ。今回も『危険物回収および治安維持への特別協力手当』として、君たちの口座にしかるべき報酬を振り込ませてもらう。……もちろん、そのワンボックスの機材経費も含めてね」
バードは不敵に微笑み、警察の手配書ファイルをパチンと閉じた。
「よしっ! 経費が出るなら文句なし!」
純平が通信越しに大喜びする。
「……それと、白石愛菜くん」
バードがワンボックスの方へ視線を向けた。
「君の父親の研究データを狙った違法組織の線についても、こちらで引き継ごう。君の協力に感謝するよ」
「……どういたしまして。でも、私はもう警察の報告書を待つ気はないから」
マナはハンチングを目深にかぶり直し、ジョウたちの車を見つめた。
「私はこのチームで、自分の目の届く場所で真実を追うわ」
夜明けの空が、湾岸の海をうっすらと紫に染め始めていた。
漆黒のクーペと、頑丈な装甲ワンボックス。
2台のビークルと4人のプロフェッショナルが揃い、ここに『桐生探偵事務所』の完成形が誕生した。
「さあ、帰るぞ。朝飯は『ラスト・ピット』のコーヒーとトーストだ」
ジョウの言葉に、エンジン音が心地よく響き渡った。
(第4話・後編 終わり)




