第15話:侵入者(前編)
「……旧時代の『軍事インフラ都市コア』。まさかそんな代物がこの街の地下深くに眠っていたとはね」
桐生探偵事務所の地下ガレージ。
薄暗いガレージの作業台で、マナがポータブルアナライザーの画面に旧都市設計図のホログラムを投影していた。ハンチングを目深にかぶり直し、真剣な眼差しで画面を見つめている。
「マナ姉、その都市コアがファントム・ギアの手に渡ったらどうなるの?」
モバイル・ラボのメインモニターからデータを転送しながら、純平が不安そうに尋ねる。
「街の全信号機、自動防衛システム、発電プラント……あらゆる都市インフラの制御権が奴らに奪われるわ。この街全体がファントム・ギアの巨大な要塞に変貌するってことよ」
マナの言葉に、ガレージ内に重苦しい緊張感が走った。
「そうはさせねぇよ」
クーペのフロントフェンダーに寄りかかっていたリュウが、タバコに火をつけながら不敵に笑う。
「で、ジョウ。ポリ公からの情報だと、奴らはどこからその都市コアへアクセスしようとしてるんだ?」
「旧市街の地下30メートルにある『中央暗号管理施設』だ」
ジョウがツインレバーの作動油プレッシャーを確認しながら静かに告げる。
「そこにあるマスターキー・プログラムを手に入れれば、都市コアのプロテクトを突破できる。ファントム・ギアは今夜、その施設へ至る地下搬入路を突破する気だ」
「地下搬入路か……あそこは急勾配の螺旋スロープと、超高圧の自動防衛シャッターが張り巡らされた狭小エリアだね、アニキ」
純平が即座にエリアマップをクーペのインパネへ同期させる。
「ええ。しかも敵は施設突破のために、重装甲かつ狭いスロープを爆速で駆け下りる『ドリル・シールド型ビークル』を投入してくるわ」
マナが敵ビークルの予測データを画面に表示した。
車体前面に巨大な回転ドリルを備え、先端のアームで障害物を粉砕しながら突進する異形のアームド・ビークルだ。
「ドリルと重装甲か……。狭いスロープで正面から突っ込んでこられたら、避けるスペースすらないぞ」
リュウがタバコの煙を吐き出し、目を細める。
「正面突破を許せば終わりだ。だが、狭い螺旋スロープなら相手の巨体と旋回半径の大きさが命取りになる」
ジョウの目が冷徹に光る。
「純平はモバイル・ラボで地下施設の防衛シャッターを一時的にハックし、敵の退路を断つとともに俺たちの退避ポイントを確保してくれ。
マナは敵ドリルの回転軸と油圧ラインの同期周波数を弾き出せ。
リュウ、お前のドライビングで急勾配の壁面を使って敵の頭上を飛び越え、背後を取る。
そして俺が……背後の無防備な駆動ジェネレーターを断ち切る」
「ハッ……壁走りからの背後取りか! 腕が鳴るぜ、ジョウ!」
リュウがギヤをローへ叩き込む。
「了解、アニキ! ハッキングは僕の得意分野だよ。防衛システムを味方につけて見せる!」
純平が頼もしく胸を張る。
「任せて、ジョウ! ドリルの回転数と駆動トルクの波形、コンマ1秒単位で解析してあげるわ!」
マナがハンチングのツバをグッと直した。
「よし……都市コアの鍵は、絶対に渡さない。行くぞ!」
同日、深夜二時。旧市街地下30メートル『中央暗号管理施設・搬入スロープ』。
静寂に包まれた広大な地下空間に、地鳴りのような重低音と金属を削る音が響き渡る。
ファントム・ギアのドリル・ビークルが、壁面を削りながら凄まじい勢いで螺旋スロープを駆け下りてきていた。
『ボス、リュウ! ターゲットがスロープ第三エリアへ侵入! 速度時速120キロ、ドリル回転数最大!』
モバイル・ラボの純平から緊迫した通信が入る。
『気をつけて、リュウ! 狭いスロープだからドリルの巻き込み風圧も凄まじいわ! 接触したら一瞬で巻き込まれて粉砕される!』
マナの警告が通信機を揺らす。
「来たか……! リュウ、壁面バンクに乗せろ!」
「おうよッ! 俺たちのクーペの意地を見せてやるぜ!」
漆黒のクーペがV6エンジンを限界まで吹き上げ、壁すれすれの極限走行を開始する——。
(第15話・前編 終わり)




