第16話:侵入者(後編)
ズズズズズズ……ッ!
旧市街の地下30メートルに位置する『中央暗号管理施設・搬入スロープ』。
コンクリートの壁面を削り取りながら、ファントム・ギアのドリル・ビークルが強烈な泥と火花を巻き散らして螺旋スロープを爆走してくる。
「ハハハッ! 邪魔だ邪魔だぁッ! 桐生探偵事務所ごと粉砕してやるぜ!」
ドリル・ビークルのドライバーが狂乱の叫びを上げる。先端の超硬度ドリルが高速回転し、すり鉢状の狭いスロープ全体に殺気立った衝撃波を撒き散らしていた。
『アニキ! 敵ビークル、最深部ゲートまであと100メートル! 防衛シャッターのハッキングは完了したよ! 逃げ道はない!』
モバイル・ラボから純平の力強い通信が入る。
『リュウ、気をつけて! この密閉された地下空間じゃ、ドリルの巻き込み風圧と土砂の乱気流が凄まじいわ! わずかなステアリングの狂いが即・事故に繋がる!』
マナがポータブルアナライザーの画面を叩きながら、的確な危険エリアを指示する。
「風圧だの土砂だの、知ったこっちゃねぇんだよ!」
リュウが不敵に笑い、ステアリングをぐっと右へ切り込んだ。
キュキィィィィンッ!!
漆黒のクーペが、遠心力に抗ってすり鉢状スロープの斜面——壁面へと駆け上がっていく! ほぼ垂直に近い壁面を、サスペンションを極限まで沈め込ませながら滑走する驚異のドライビング。
「な……なにぃ!? 壁を走っているだと!?」
頭上から自車を追い抜いていくクーペの影に、ドリル・ビークルのドライバーが目を見開いた。
「今だ、リュウ! 敵の直上だ!」
「飛び越えるぜ、ジョウッ!!」
リュウがステアリングを左へ一気に切り戻し、壁面の頂点から斜め下へとクーペをダイブさせた!
空中を舞うクーペ。その直下を、猛スピードのドリル・ビークルが通り抜ける。
「マナ、ドリルの駆動系は!?」
宙に浮く車内で、ジョウが静かに着地地点を見定める。
『ドリルの直後、キャビン後方の油圧メインバルブよ! 回転軸の振動波形が最大になるコンマ05秒、冷却ラインの防護シャッターが振動で開く!』
「捉えた……!」
ガシィィィンッ!!
スロープの着地と同時に、ジョウがツインレバーを全力で突き出した!
空中から振り下ろされたクーペの補強アーム爪が、マナの弾き出した「コンマ05秒の隙」を突いて、防護シャッターの奥にある油圧メインバルブへと的確に刺さる!
バチバチバチッ! ギガガガガッ!!
「アアアァァァッ!?」
駆動油圧を断たれたドリル・ビークルは、ドリルの回転を急速に失い、バランスを崩してスロープの壁面へ激しく激突。そのまま回転を止めたドリルをコンクリートに突き刺した状態で、沈黙した。
『ターゲット、全機能停止! ドライブユニットの完全破壊を確認したわ!』
マナの歓声がインカムに響き渡る。
『やったぁぁぁ! スロープ最深部への侵入阻止、成功だ! アニキ、リュウさん!』
純平が大喜びで声を上げた。
「ふぅ……壁走りってのは、骨が折れるぜ」
リュウがタバコに火をつけ、静かに煙を吐き出す。
沈黙したドリル・ビークルから、治安維持課の風見率いる特殊部隊がドライバーを拘束していく。
トレンチコートの裾を揺らしながら歩み寄ってきたバードが、深く息を吐いた。
「助かったよ、桐生探偵事務所の諸君。おかげで暗号管理施設とマスターキー・プログラムは守られた」
「……バード。敵の『ファントム・ギア』は、ここまで強引な手を使って都市コアのマスターキーを狙ってきた。……奴らの本拠地は掴めたのか?」
ジョウが尋ねると、バードは煙草を指で挟み、地下スロープの天井を仰ぎ見た。
「ああ。今回の侵入ルートと、通信データの逆探知によって、ついに突き止めたよ。……『ファントム・ギア』の真の本拠地をね」
その言葉に、マナ、純平、リュウの3人が固唾をのむ。
「奴らのアジトは……この街の旧臨海工業地帯に浮かぶ、巨大メガフロート(人工島)の地下プラントだ。あそこに奴らの司令部がある。そして……何か巨大なビークルを建造している」
「メガフロートの地下プラント……」
マナがハンチングを目深にかぶり直す。
「へっ……ついに敵の本丸のお出ましってわけか。上等じゃねえか」
リュウが不敵な笑みを浮かべ、ギヤを叩き込む。
「行きましょう、アニキ! 敵のアジトを叩いて、ファントム・ギアの陰謀を完全に打ち砕こう!」
純平が力強く意気込んだ。
「ああ。点から始まった線が、これで繋がる。……決着をつけに行こう」
ジョウがツインレバーを静かに握り締め、力強く頷いた。
4人の絆と研ぎ澄まされたA級クーペは、ファントム・ギアとの最終決戦の地——漆黒の海に浮かぶメガフロートへと向けて駆け出した!
(第16話・後編 終わり)




