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第14話:闇の刺客(後編)

ヒュンッ! ガシィィィンッ!


旧湾岸大橋の廃道ルート。月光が途切れた漆黒の舗装路に、超高剛性のワイヤー爪が突き刺さり、火花を撒き散らす。

ファントム・ギアの刺客ビークルが放つ『ワイヤー・グラップルアーム』は、まるで生き物のようにしなり、闇の中からクーペの隙を狙い続けていた。


「くそっ、しつこい仕掛けだぜ! 払おうにもワイヤーじゃアームで捉えきれねぇ!」

リュウが猛烈なステアリング操作でクーペの車体を滑らせ、間一髪で連続するワイヤー爪の強襲を回避していく。


『リュウ、そのまま右へスライドして! 敵のワイヤー射出口、巻き取り用ドラムの回転周期をパパのトルク解析プログラムで算出したわ!』

モバイル・ラボからマナの鋭いアナウンスが響く。


『アニキ! 敵はワイヤーでクーペの足回りを絡め取った瞬間、一気に急速引き寄せで壁に叩きつける気だ! 弾道予測、メインモニターに同期完了!』

純平の指がマルチモニターの上を高速で踊り、クーペのインパネへリアルタイムで逃走ラインを描き出した。


「マナ、純平、ナイスサポートだ!」

リュウが不敵に笑う。


「……リュウ、相手の狙い通りにやらせる」

助手席のジョウがツインレバーを握る手に力を込め、静かに告げた。


「おいおいジョウ、本気か!? ワイヤーに引っかかったら一発で引っ張られて壁に激突だぞ!」


「あえて引かせるんだ。……マナ、張力が最大になる瞬間に合わせて『可変ワイドトレッド』を展開したらどうなる?」


『……! ボス、それって……!』

マナが息を飲んだ後、すぐにニヤリと確信の笑みを浮かべた。

『敵の巻き取りモーターにクーペの重みとワイドトレッドのアンカー効果が逆負荷として一気にかかるわ! 相手の車体ごとこっちへ引きずり戻せる!』


「そういうことだ。相手が引き寄せるんじゃない……俺たちが引きずり込む」


「へっ……相変わらず狂った作戦を考えつきやがるぜ、ジョウ! 乗りかかった船だ、付き合うぜ!」

リュウが不敵な笑みを深め、あえて敵のワイヤーの射撃ライン上へと車体を突っ込ませた!


シュパッ! ガチィィンッ!


「かかったな、桐生探偵事務所! 巻き取り開始!」

刺客ビークルのドライバーが叫び、大口径のドラムが爆音とともに高圧逆回転を始める。鋼鉄ワイヤーがピンと張り詰め、クーペのリアサスペンションを強引に引き寄せ始めた。


「今だ、リュウ!」

「踏ん張れぇぇぇッ!!」


リュウがセーフティカバーを跳ね上げ、赤いスイッチを叩き込んだ!


グシャァァン……ガシコンッ!!


高圧油圧音が炸裂し、クーペの前後サスペンションが左右外側へ一気にガバッとスライド展開!

両サイドへ各15センチ——地を這うような『可変ワイドトレッド(踏ん張り形態)』へと変形した4輪のタイヤが、アスファルトへガッチリと喰らいついた!


ギギギギギギギッ!!


「な……なにィ!? 巻き取りモーターのトルクが負ける……! 車体が動かん!?」

刺客ビークルのドライバーが引きつった声を上げる。


ワイドトレッドの強烈なグリップと踏ん張りによって、クーペはびくともしない。逆に、強引に巻き取ろうとした刺客ビークルの方が、自らのワイヤーに引かれて猛スピードでクーペ側へと引きずり寄せられていく!


「引きずり込んだぞ、ジョウッ!」

「決める……!」


ジョウは一切の迷いなく両レバーを突き出した。

引き寄せられて迫る刺客ビークルのフロントノーズ——そのワイヤー射出ドラムの基部へ、クーペの補強アームが完璧なタイミングで突き刺さる!


ズバァァァンッ!!


精密なピンポイント打撃が巻き取りギアを粉砕。

バチバチバチッ……ドカァァンッ!!


逆流した巻取りエネルギーが爆発し、刺客ビークルのフロントが跳ね上がった。バランスを崩した敵車体はそのまま路面を滑り、防護柵に激しく激突して沈黙した。


『ターゲット、全機能停止! 敵アームシステム、完全に破壊されたわ!』

マナの歓声が通信インカムに弾けた。


『やったぁぁぁ! 完全勝利だ、アニキ! マナ姉!』

純平が大喜びで声を上げる。


「ふぅ……冷や冷やさせやがる。おいジョウ、トレッド戻せよ。このワイド形態じゃ大橋を渡るのに日が暮れちまう」

リュウが汗を拭いながらスイッチを操作し、クーペの車輪幅が元のシャープな姿へと戻っていった。


沈黙した刺客ビークルから、手負いのドライバーが這い出してくる。そこへ、サイレンを鳴らした治安維持課のA級パトカー隊が雪崩れ込んできた。


トレンチコートの風見(バード)が歩み寄り、横転した刺客ビークルを見下ろす。


「いやはや、見事というほかないね。ファントム・ギアが送り込んだ刺客すら返り討ちとは」


「……バード。これで少しは奴らの本拠地に近づけたのか?」

ジョウが尋ねると、バードは煙草の煙を静かに吐き出した。


「ああ。この刺客ビークルの通信ログから、ファントム・ギアが狙っている『本当の標的』のデータが一部復元できた。……奴らの目的は、ただの街の占拠や違法パーツの販売じゃない」


バードが視線をジョウたち4人に向けた。


「この街の地下に眠る旧時代の『軍事インフラ都市コア』……その制御権を奪うために、奴らは特殊環境下でも活動できるアームド・ビークルを開発しているらしい」


「軍事インフラ都市コア……!?」

マナが息を飲み、ハンチングを直す。


「なるほどな……点が線になって、その先に大きなヤマが見えてきたじゃねえか」

リュウがタバコを投げ捨て、口元を歪めた。


「どんな企みだろうと関係ない。俺たちの街で好き勝手はさせない」

ジョウの静かな言葉に、純平も頼もしく頷いた。


「行こう、アニキ! 僕たちのチームなら、ファントム・ギアの野望だって絶対に止められるよ!」


夜明けの光が、旧湾岸大橋を優しく照らし始める。

4人の絆と進化したA級クーペは、巨大な陰謀の核心へと向かって力強く走り出した。


(第14話・後編 終わり)

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