第12話:漆黒の影(後編)
キィィィィィン……ッ!
地下坑道の暗闇に響き渡る、耳を突く高周波の共振音。
『ファントム・ギア』の実験試作ビークルが備える両脇のアーム先端——そこに取り付けられた高周波振動ブレードが、真っ赤な熱と残像を撒き散らしながら高速微振動している。
「あの赤く発光してるアーム……触れただけでクーペの装甲すら分子レベルで削り落とされるぞ!」
リュウがステアリングを強く握り締め、慎重に車間距離を保つ。
『気をつけて、リュウ! 敵の振動波形、思っていた以上に高出力よ! 普通にアームで打ち合ったら、車体がツインアームごと一瞬で切断されるわ!』
モバイル・ラボからマナの緊迫した警告が飛ぶ。
『アニキ、地下坑道のマップを解析したよ! この先200メートル地点で坑道が二手に分かれてる! 幅が狭くて敵の大型車じゃすれ違いができないポイントだ!』
純平のナビゲーションが通信インカムを叩く。
「二手に分かれる狭窄地形か……使えるな」
助手席のジョウが静かに目を細めた。
「リュウ。あえて狭い左ルートへ誘導しろ。敵に高周波アームを振るうスペースを与えない」
「了解だ、ジョウ! 狭いところを通らせたら俺たちの右に出る奴はいねぇ!」
リュウがギヤを叩き込み、クーペを急加速! 狭い左の坑道へと滑り込んだ。
「逃がすかよ、桐生探偵事務所ぉッ!」
実験ビークルのドライバーが狂乱した叫びを上げ、巨体を強引に左ルートへねじ込んで追撃してくる。
ガガガガガッ!
あまりの車幅の狭さに、敵の車体側面と両脇の振動アームが、坑道の岩壁をガリガリと削り取り、激しい火花と土砂を撒き散らす。
「今だ、マナ! 敵のアームの共振周波数は!?」
ジョウが鋭く叫んだ。
『出たわ、ジョウ! 岩壁と接触した衝撃で、右アームの振動周波数にわずかなブレが生じてる! その右シリンダーの基部……共振の歪みが限界に達するコンマ二秒の瞬間がある!』
「よし! リュウ、ワイドトレッド展開! 壁に固定しろ!」
「おうよッ!」
リュウがセンターコンソールの赤いスイッチを叩き込んだ!
グシャァァン……ガシコンッ!!
クーペの4輪が左右へガバッとスライド拡張! 地を這うような超ワイドトレッド形態へ変形したタイヤが、狭い坑道の路面と岩壁の裾を強力にグリップし、クーペの車体をその場に完全固定させた。
「なっ……狭い坑道で車幅を広げて自ら逃げ道を塞ぐかバカめ! 刻み潰してやる!」
敵ビークルが赤く光る振動アームを振り上げ、固定されたクーペへと襲いかかる!
だが——
「ジョウッ!!」
「……落とす」
マナが弾き出した「コンマ二秒の歪み」。
ジョウは一切の迷いなくツインレバーを押し込み、クーペの補強アームを突き出した!
ズバシィィィンッ!!
高周波ブレードがクーペに届くそのコンマ数秒前。
ジョウのアーム爪が、共振の歪みによって一瞬だけ強度が低下した敵の「右シリンダー基部」をピンポイントで打ち抜いた!
バチバチバチッ! ギガガガガッ!!
自らの超高周波振動のエネルギーが逆流し、実験ビークルのアーム駆動部が内部から暴走・崩壊! 眩いスパークとともに右アームが吹き飛び、その衝撃で敵ビークルは横転し、坑道の壁に激突して沈黙した。
「……ターゲット、全機能停止。勝負ありだ」
ジョウがゆっくりとレバーを引き戻した。
「ふぅ……間一髪だったな」
リュウがワイドトレッドを解除し、タバコに火をつける。
横転した実験ビークルの運転席から、脱出してきたドライバーの男が這い出してきた。だが、男は拘束される間際、不敵な笑みを浮かべた。
「ヒヒッ……無駄だ……。俺を捕まえたところで、何も変わりはしない……」
「何だと……?」
ジョウが静かに見下ろす。
「俺たちがストリートで集めた戦闘データは……すでに『ファントム・ギア』の本部に送信されている……。お前たちのクーペの動きもな……。計画は……もう止まらない……」
男はそれ以上何も語らず、警察隊のパトカーへと連行されていった。
後から追いついた治安維持課の風見が、トレンチコートの襟を立てながら歩み寄ってくる。
「見事な手際だったよ。おかげで密売されていたパーツの押収と、地下拠点の封鎖が完了した」
「……バード。奴らの言っていた『計画』とは何なんだ」
ジョウが尋ねると、バードは煙草の煙を吐き出し、少し影のある表情で夜空を見上げた。
「さあね。だが……これまでの違法ビークル事件がすべて一本の糸で繋がっていたことだけは確かだ。『ファントム・ギア』……巨大な影が、この街の裏側で確実に動き始めている」
モバイル・ラボから降りてきた純平とマナが、ジョウとリュウの元へ駆け寄る。
「アニキ……僕たち、すごい大きな事件に巻き込まれつつあるのかな」
「大丈夫よ、純平。相手がどれだけ巨大な組織だろうと、ジョウの操縦とリュウの運転、そして私と純平のバックアップがあれば負けないわ」
マナがハンチングを深くかぶり直し、強く頷いた。
「フン……面白くなってきやがった。どんなヤバいビークルが来ようが、返り討ちにしてやるまでだ」
リュウが口元に不敵な笑みを浮かべる。
点と点が繋がり、一つの大きな「線」となった『ファントム・ギア』の存在。
その線の先には、一体何が待ち受けているのか——。
4人の絆と進化したA級クーペは、まだ見ぬ巨大な陰謀へと足を踏み入れていく。
(第12話・後編 終わり)




