第11話:漆黒の影(前編)
「……治安維持課が直々に探偵事務所に乗り込んでくるとは、珍しいこともあるな」
桐生探偵事務所の地下ガレージ。
薄暗い照明の下、リュウがタバコの煙を天井へ吹き上げながら、入り口に立つ男——トレンチコート姿の風見を睨みつけた。
「フフ、たまには正面玄関から挨拶しようと思ってね。……だが、今夜の話は警察の公式記録には残せない『極秘事項』だ」
バードがいつも浮かべている軽薄な笑みを消し、真剣な眼差しでジョウを見つめる。
「極秘事項……? 一体どういうことだい、バード」
ツインレバーの作動油を補給していたジョウが、手を止めて顔を上げた。
「ここ数ヶ月、君たちが解決してきた辻斬りビークルや磁力要塞、そしてこの前のパイル・ビークル……奴らが使っていた違法改造アームの出所を追っていたんだがね」
バードがポケットからホログラムディスクを取り出し、ガレージの作業台へ置いた。
青い光とともに投影されたのは、特定の刻印が施された『闇のアームパーツ』の設計図と、湾岸の地下廃坑道を走る正体不明の軍用大型ビークルの映像だった。
「……何よ、この異様な剛性の油圧シリンダーは。市販のA級ビークル用パーツの倍以上の耐久力があるわ」
ポータブルアナライザーの画面を叩きながら、マナがハンチングを目深にかぶり直して目を見開く。
「マナ姉、これって……」
「ええ、純平。個人のクラフトマンが作れるレベルじゃない。巨大な資金力と技術を持った組織が、ストリートの違法ドライバーたちにパーツを密売して『実戦データ』を集めさせているのよ」
「その組織のコードネームは『ファントム・ギア』」
バードが低い声で告げる。
「奴らは今夜、湾岸の地下廃坑道を移動アジトにして、新開発の『超高周波振動アーム』を搭載したテストビークルを稼働させるという情報をつかんだ」
「高周波振動アームだと……!?」
リュウの目が険しくなる。
「触れただけで装甲を削り落とすっていう、あのヤバい振動アームか!」
「警察の正規部隊を動かせば裏をかかれて逃げられる。……だからこそ、地下坑道の狭窄地形を駆け抜け、奴らのテストビークルを無力化できる『最高のスペシャリスト』が必要なんだ」
バードがジョウをまっすぐ見つめた。
「報酬は跳ね上がるが、引き受けてくれるかね? 桐生探偵事務所の諸君」
「……話は決まりだな」
ジョウがゆっくりと立ち上がり、クーペのドアを開けた。
「ストリートにこれ以上の危険な違法ビークルを野放しにはできない。リュウ、純平、マナ……行くぞ」
「おうよ、ジョウ! どんなヤバいアームだろうが、俺たちのクーペで仕留めてやるぜ!」
リュウがギヤを叩き込み、エンジンを咆哮させる。
「了解、アニキ! 地下坑道のマップと電波状況、モバイル・ラボでバッチリ解析してみせるよ!」
純平がモバイル・ラボの運転席へ飛び込む。
「ジョウ、敵の高周波振動の波形解析は私に任せて。一瞬の共振の隙を見つけ出してみせるわ!」
マナが頼もしく微笑み、アナウンス用インカムをセットした。
同日、深夜三時。湾岸エリアの奥深くに眠る『旧地下鉱山坑道』。
水滴が天井から落ち、湿った冷気が満ちる薄暗い坑道を、漆黒のクーペと装甲ワンボックス『モバイル・ラボ』が静かに静かに侵入していく。
『アニキ、リュウ! 前方500メートル地点に強力な動力反応! ターゲット……来るよ!』
モバイル・ラボの純平から緊迫した通信が入る。
『気をつけて、リュウ! 相手の振動波形、思っていた以上に高出力よ! 接触した瞬間、クーペのアームすら一瞬で切り刻まれるわ!』
マナの警告が耳を打つ。
前方のアスファルトを打ち破るような重低音とともに、闇の中から赤く発光する刃を両脇に備えた『ファントム・ギア』の実験試作ビークルが姿を現した——。
(第11話・前編 終わり)




