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世界を滅ぼしたい勇者✕世界を救いたい魔王~勇者様、ちゃんと魔王を倒してください!~  作者: よし はるか


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9 冤罪事件

 翌日、カインが詰所に着くと、中がざわついていた。

 よく見ると、下級騎士たちがバタバタと走り回っている。

 何事かとその様子を観察していると、前にヒューに拳骨を入れていた中年騎士が声をかけてきた。


「ヒューが帰ってない?」


「ええ、門限を過ぎても帰ってこなかったのです。

 ヒューとカイン様は親しくされていましたよね? 何か聞いておられないでしょうか?」


 昨日は宿舎に帰るからと別れたのだ。帰っていないなど思わなかった。


「……聞いていない」


 考えても心当たりがない。

 素直にそう言うしかなかった。


「昨日、おかしい様子はなかったでしょうか? なにか、悩んでいそうだとか……」


 中年騎士はガレスといって、ヒューが所属する下級騎士たちの隊長だ。

 彼が言い募るのは無断離隊を心配してのことだろう。

 無断離隊とは、騎士や騎士見習いが正式な手続きも踏まないまま、出奔することである。

 騎士は国や領の機密に関することに触れる場合もある。辞めるときには誓約魔法を使わねばならない。

 それを怠れば、国家反逆罪の疑いをかけられ、処刑されてもおかしくないのだ。


「隊長! ヒューが、見つかりました!」


「見つかったか! 今どこにいる?」


「王都警備隊の牢屋です!」


「なんだと――?!」


 ガレスの叫びがこだました。





 ――痛い。

 意識が浮上した時、まず最初に感じたのは後頭部の痛みだった。

 硬い床の上に寝たのか、身体の節々も痛い。ベッドから落ちたのか。いや、昨夜はベッドに寝た記憶がない。

 それどころか宿舎に帰った記憶すらなかった。


「……?」


 目をうっすら開ける。

 空だった。建物の隙間から、青い空が見えていた。すぐそばに、蓋の外れた木箱らしきものが転がっている。

 手に何かを持っているのに気がついた。じゃらり、鎖の感触。

 手の方に意識を集中させていると、


「いたぞ! アイツだ!!」


 叫ぶ声が聞こえた。

 バタバタと複数の走り寄る音。次の瞬間、身体に新たな痛みが走った。大の男がヒューに馬乗りになっていた。


「やっぱり持っていやがった! これだ、こいつが盗みやがったんだ!!」


 乱暴に手から何かを奪われ、そう叫ばれた。


 ――盗んだ?!


 一気に頭が冷えた。動こうとするが、男が重くて動けない。


「ち、違っ」


「何が違ぇんだ?! お前がマヌケに盗品握って寝てたじゃねえか!」


 頬に重い衝撃が走った。殴られたのだ。


「誰か警備隊呼んでこい! 旦那様の大事な商品盗んだガキ、捕まえたってな!」


 誰かが走り去る音がする。

 違う、そう言いたかった。だが、身をよじろうとすると男が頭を鷲掴みにしてきた。


「オレじゃ、な、い……」


 絞り出した声が耳に届いたのだろう、男はにやりと口を歪ませた。


「どうでもいいんだよ、そんなこと」


 言われた意味がわからず、一瞬呆けた。

 次の瞬間。

 鷲掴みにされていた頭を地面に打ち付けられた。


「ッ!!」


「お前はしばらくねんねしてな。起きるころには、全てが終わってるくらいにな」


 今度は腹に衝撃が落ちた。

 息ができない。苦しい。声が出ない。

 何度も、何度も、痛みが襲ってきた。


 警備隊が駆けつけるころには、ヒューはもう、声を出す意味を思い出せないでいた――。





 ガレスとカインが王都警備隊の詰所まで駆けつけた時、ヒューはひどい有様で牢屋の床に転がっていた。意識はないようだった。


「私は彼の上司で、王立騎士団下級騎士第一隊、隊長のガレスです。

彼は何の容疑で投獄されているのでしょうか?」


 王都警備隊と王立騎士団では所属が違う。煩わしいほどの書類にサインし、ガレスは警備隊の責任者に尋ねた。

 ヒューの様子を目の当たりにし、必死に怒りを抑えているのだろう。握った拳が小刻みに震えていた。


「窃盗の現行犯です。寝ているところを被害者の使用人が捕らえました」


「ヒューはそんなことをしない!」


 思わずカインは叫んだ。

 ヒューは、まだ名前も知らなかったアリサのためにスリからブローチを取り返したのだ。

 彼が盗みをするなんてありえなかった。


「カイン様、気持ちは分かりますが抑えてください。それで? 寝ているところを捕らえた? なら、あの怪我は?」


「捕縛の際に、抵抗したと……」


 警備隊の責任者は歯切れ悪く答えた。気まずそうに目を逸らしている。


「それはさすがにおかしくないですか? あまりに怪しい」


「……被害者は貴族家に出入りのある商人なのです。証拠もないのに疑えません」


 カインは衝撃を受けた。どう聞いてもヒューは冤罪だ。それなのに、貴族の屋敷に出入りがあるというだけで、商人の方が信頼されている。


「商人の名は?!」


「被害者の情報は秘匿されています。我々には開示の権限はありません」


 カインは貴族だ。今までこんな、身分の差があるというだけで理不尽な目に遭ったことなどない。

 ガレスを仰ぎ見た。黙っていた。必死に、感情を抑えていた。


 ――平民にはよくあることなのだ。

 思い当たった事実に愕然とした。


「カイン様、行きましょう」


 立ち尽くすことしかできなかったカインの肩にガレスが手を置く。


「まだ、やれることはあります」


 ガレスは諦めていなかった。強い眼差しにカインは頷いた。


「青いサソリ」


 ぽつりと警備隊の責任者が呟いた。


「言えることは、これだけです」


 彼は顔を背けてこちらを見もしなかった。しかし、彼の精一杯の誠意が伝わってきた。


「王都の盾たる警備隊に敬意を」


 ガレスが警備隊の責任者に対して騎士の礼をとる。カインも慌ててそれに倣った。


「王国の剣たる騎士団に栄光を」


 返礼をした警備隊の責任者は、今度はまっすぐにカインたちを見つめていた。

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