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世界を滅ぼしたい勇者✕世界を救いたい魔王~勇者様、ちゃんと魔王を倒してください!~  作者: よし はるか


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7 彼女との出会い

 カインはベルク子爵家の三男だった。

 カインにとって、騎士になることは疑うまでもない未来だった。

 ベルク子爵家は代々騎士の家系で、父も兄たちも剣を取る者だった。

 特に守りたいものがあったわけではない。けれど、鎧を着て馬に乗る父の姿は、幼いカインの目に焼き付いている。あの姿を目標にするだけで十分だった。

 タウンハウスは上位貴族街の少し下、爵位は低いが古くからある下位貴族が多い立地にある。

 隣は男爵位だったが、元は侯爵家からの分家らしい。親同士は交流があったらしいが、カインは遊び回るのに忙しく、その場に立ち会ったことはなかった。


 それが変わったのは、カインが騎士見習いとして詰所に出入りするようになったころだ。

 訓練が終わって帰ってきて屋敷の戸をくぐると、美しい母娘がいた。


 二人とも太陽を閉じ込めたような金髪が絹糸のように艶やかに背中を流れている。

 白い肌もまるで陶器のようでいて、触れれば壊れそうな繊細なガラス細工を思わせた。

 カインは少女の目を見た。エメラルドグリーンがそこにあった。キラキラと輝くその瞳に、心奪われた。


「カイン、来なさい」


 母が呼ぶ。


「リーサ、うちの三番目、カインよ。やっと会わせられたわ」


 いつも遊び回っているから、と言外に言われた気がした。


「まぁ、カイン。よろしくね。セレス家次女のリーサよ。こちらは娘のアリサ。あなたと同い年なの」


 母の友人が夫を亡くし、娘を連れて実家のセレス家に戻ってきたという話は聞いていた。

 どうやら、それがこの母娘だったらしい。


「初めまして、リーサ様、アリサ嬢。ベルク家三男、カインです。お会いできて光栄です」


 右手を胸に当て、わずかに腰を折る。

 最近やっと「様になる」、と言われるようになった騎士の礼だ。

 小さな騎士に、リーサはうふふと微笑ましそうに笑った。


「初めまして、カイン様。アリサ・セレスと申します」


 カインよりも小さな手がドレスの端を摘み、優雅に膝を折る。

 同じ年と言われた少女の、息をするように自然な礼。

 そして、顔を上げた少女はにこっと笑った。

 先ほどの令嬢として完璧なカーテシーを見せたとは思えない幼い笑顔だった。

 カインは、ごとっ、と何かが深い穴に落ちる音を聞いた気がした。





 二人が仲良くなるのは早かった。

 元から母親同士が仲が良いのだ。カインが外へ飛び出さなければ会える機会は多かった。


「アリサ! 今日はいいところに連れて行ってあげる!」


「待って、カイン! 手をひっぱらないで、転んじゃう!」


 アリサの言葉に慌てて止まった。

 この小さい手の持ち主は、大事にしないといけないのだ。


「わかった、歩くよ。手は離さないでね?」


「ええ、わかったわ。離さない」


 笑顔で返ってきた言葉に幸福を覚える。二人は笑いながらゆっくりと歩いた。


 カインが連れてきたのは下町だった。

 下町の中でも、中央広場に繋がる大通り。行き交う人は多い。髪の色も肌の色も違う、服装もさまざまで、見慣れない形の衣装を身に着けている人もいる商業エリアだ。


 アリサはぽかんと口を開け、少ししてそれに気づき、顔を赤らめた。

 カインはそれを一部始終見て満足した。


「中央広場は今花壇が満開なんだ」


 そう言って優しくアリサの手を引く。

 アリサは素直に導かれた方へ歩き出した。


 ドンッ


「いたっ」


 大人がアリサにぶつかり、詫びもせず足早に去っていく。

 驚いて止まったアリサは大人が立ち去った方向を見るのが精一杯だった。


「アリサ、大丈夫?」


「ええ……」


 アリサがぶつかった腕を擦ろうとして、気づいた。

 襟元につけていたブローチがない。小さな花の装飾を集めた、上品な意匠の、母からのプレゼント。


「いっだッ!!?!」


 少し離れたところから大人の叫び声がした。人混みに紛れて声の主の状況は見えない。


 人混みの中から少年が走ってきた。

 まっすぐアリサに向かってくる。カインがアリサを背に隠す。


「お前、騎士ならちゃんと守れよ」


 カインを睨みながら少年がカインの胸を押した。

 その一瞬に、掌に何か硬いものが押し付けられる。カインは反射的にそれを握り込んだ。

 少年は止める暇もなく走り去った。


「カイン……?」


 後ろからそろそろと顔を出したアリサがカインの手の中のものに気づく。


「それ、私の……」


 失くしたと思ったブローチが、カインの手に握り込まれていた。

 

 

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