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世界を滅ぼしたい勇者✕世界を救いたい魔王~勇者様、ちゃんと魔王を倒してください!~  作者: よし はるか


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6 魔王の秘密

 それから数日かけて、城を回ったロイドはまた頭を抱えていた。

 魔王城の周辺は、常春と言える温度に保たれていて快適だ。

 それが村の方まで行くと、途端に寒くなる。今の時期は秋の終わり。冬に向かってどんどん風が冷たくなる時期だった。


 城の中は温度だけではなく、住み心地も快適だった。

 清潔なリネン、掃き清められた通路、毎日温かく栄養のある食事。

 すれ違う魔族は血色よく、瞳にキラキラとした希望を宿している。

 皆がよく学び、よく働いている。


「魔王の様子も、おかしい……」


 魔王はその魔力さえなければ、穏やかで美しい、良き女主人だった。

 連日、カインがまとわりつき少し疲れている様子だったが、それさえも人間らしく、思わずうちの勇者がすみませんと謝りたくなる。


「おっさん、調査終わったー?」


 軽い口調で話しかけてきたのはヒューだった。この男はこの男で、魔王城内を調査している。ロイドもそれには気づいていた。

 だが、ロイドが感じる違和感とは別の感想を抱いているらしい。

 ロイドがだんだんと疲弊していくのに反比例して、機嫌が良くなっていった。 


「お前は何を知っている? ここがおかしいことには気づいているんだろう?」


「カインに聞きゃいいじゃん。

おっさんだって分かってるんだろう?」


 それが嫌だからお前に聞いているのだ、とは口に出さなかった。

 カインに聞けば早いのは分かっている。

 だが、今は色ボケしているようにしか見えない勇者に聞いても、狂った台詞しか出てこなさそうだった。


「グズグズすると、間に合わなくなるかもよ?」


 何を、と聞こうとしたがヒューはさっさと背を向けて立ち去ろうとしていた。

 声は、出なかった。





 魔王の執務室。

 リンはここ数日で気づいたことがある。

 休憩中、魔王とカインが隣り合って座っている時、なぜか居心地がよいのだ。

 勇者が近くにいることで魔王の魔力が無効化されるのか、あの重苦しい空気を感じない。

 もっとも、魔王が執務中の時は別だ。カインが邪魔をするせいで魔王がイライラしていて、色々な意味で居心地が悪い。


「リンさん、今日のお菓子は村の子供たちが収穫した桃で作ったのよ」


 差し出されたのは桃のタルトだった。瑞々しい桃にサクサクのタルト生地。濃厚なクリームが合わさって、非常に美味しい。


「美味しいです」


「良かったわ」


 にこりと笑う魔王はとても美しい。

 所作も、魔王になる前は貴族令嬢だったのかと思うほど洗練されている。

 それも貴族ならば高位貴族だ。

 下位貴族ではここまでの所作は身につけられない。


 高位貴族の令嬢が魔王認定されたという情報はないから、魔王化した時になにかの要素が働いたのかもしれない。


 コンコン


 ノックが響く。

 メイド長が応対し、魔王を振り返った。


「アリサ様、ロイド様がお越しでございます」


「お通しして」


 ロイドが執務室に入ってくる。彼をこの場所で見たのは初めてだった。

 勇者の爆弾発言から数日、帰ろうとしない勇者に合わせ、一行も魔王城で寝泊まりしていた。

 ロイドは頭を抱えたり、硬直したりしながら城内の調査をしていたようだった。


「勇者殿、聞きたいことがある」


 苦虫を噛み潰したような顔でロイドが発した。まるで、本当は聞きたくないかのように。


「なに? アリサと話すのに忙しいんだけど」


 言いながらもカインは笑っていた。


「私はこの城内を調査した。

 これは魔王の魔力によるまやかしで、本当の姿は違うのではないかと」


 幾重にも張った守護結界。

 毒も、精神汚染も、物理も魔法も。

 そして、気づいた。張っただけだった。何ものにも侵されていないから、それ以上の魔力を消費しない。

 ただただ、住み心地のよい、ありえないほどの平和な日常が続いていた。


「違った。

 ここはあるがままだ。何も、偽りがない」


 うんうん、とカインが頷く。「アリサは優しいからね」と言って魔王が微妙な顔をしていた。



「勇者殿、()()からは魔王の魔力を感じる。

 だが、『魔王』なのか?」


 にぃっ、とカインの笑みが深まった。

 ゾクリ、背中が粟立った。


「魔王だよ」


 カインがまるで今日の晩ごはんのメニューを告げるように軽く言った。


「先代勇者だった、ね」


 世界が、壊れる音がした。

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