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世界を滅ぼしたい勇者✕世界を救いたい魔王~勇者様、ちゃんと魔王を倒してください!~  作者: よし はるか


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番外編 約束の続き

 その日、アリサは自室と同じ階に用意されたカインの部屋を訪ねた。

 王都から帰還して、早一か月。

 アリサは正式に辺境の地を治めることを任じられ、諸々の手続きで忙しく日々を過ごしていた。


 アリサは王から新たに姓を賜った。

 新しい名前は『セレスティア』。爵位は侯爵。

 魔王でありながら、勇者として世界を救おうとし続けたアリサへの褒賞だ。

 カインはセレスティアに移住することを褒賞としてもぎ取っていた。

 ……他の勇者パーティメンバーも。

 本当にそれでいいのか確認したら、全員に『え、駄目なの?』と返され、アリサは嬉しくなったのを覚えている。

 ヒューとリンは城の部屋をそのまま使い、ロイドは村の方に新しく家を構えた。

 ロイドは、城の一室だけでは広さが足りないそうだ。これから王都で使っていた道具をどんどん持ってくるのだと楽しそうに語っていた。


 アリサは深呼吸をしてから、ノックをする。すぐにカインから返事があり、扉が開いた。


「アリサ、どうしたの? おいで」


 カインが優しくアリサの手を引き、部屋の中へ誘導する。

 カイン用に整えた部屋はシンプルで物が少なかった。

 ソファに座る。カインが当然のように隣に座った。触れ合う腕から温かさが伝わってくる。


「あの、ね……」


 アリサはなかなか続きを口にする勇気が出なかった。忙しさにかまけて、考えないようにしていたことだからだ。

 カインはアリサの顔を見て、続きを待っていた。その視線を受け取って、ますます緊張する。


「その……」


 もじもじと手を意味もなく動かした。カインは待っていてくれる。

 早く、言わなければ。

 アリサは手を握りしめて、覚悟を決めた。


「や、くそく、したでしょ?」


 言えた。噛み噛みになったが、やっと言えた。顔が熱い。

 ずっと心の中で、思い出しては叫び出したい気持ちになった、約束。

 あまりに待たせすぎて、カインが忘れてしまったんじゃないかと不安にもなった。

 けれど、アリサの言葉でカインが嬉しそうに目を細めたので、ずっと待っていてくれたことを悟った。


「覚えててくれたんだ?」


 カインの手が伸びてきて、アリサの頬に触れた。

 そのまま親指の腹で、頬を撫でられる。


「カインとの、約束だから……」


 カインの手は少し冷たい。熱がこもった頬にはちょうどよかった。冷たさが気持ちいい。

 その気持ちよさに目を閉じると、頬を撫でる指の動きが止まった。


「アリサ……」


 カインが少しかすれた声でアリサの名を呼ぶ。

 吐息が頬を撫でたと思ったら、そのまま口づけられた。


「ふ……」


 軽く触れては離れ、角度を変えてまた軽く触れる。

 優しい口づけにアリサは幸せで胸がいっぱいになった。


 口づけに夢中になっていたら、いつの間にかソファに横たわっていた。

 頭がぽーっとする中、カインの唇が笑みの形を作っているのが見える。


「アリサ、かわいいね」


 言われて恥ずかしくなるが、カインが幸せそうなので、それだけでいいと思えた。


「愛してるよ」


「私も、愛してる」


 先ほど、幸せで胸がいっぱいになったと思ったのに、さらに幸せは胸に降り積もった。

 またカインの顔が近づいたので、目を閉じて口づけを受け入れる。

 アリサの頬や耳、首すじをカインの手が撫でていくのがくすぐったい。

 そのまま鎖骨をなぞられて、肩がはねた。

 鎖骨をなぞった指が下に移動する。そのまま、アリサの柔らかい膨らみに触れようとしたのに気付いた時、アリサは慌てて叫んだ。


「だめよ、カイン! 早まらないで?!」


「どういうこと?」


 ぴたりと手を止めて、カインが尋ねた。

 アリサは、今までの熱が去っていくのを少し寂しく感じながら、それでもカインに伝えなければいけない。


「結婚式をする前に、契りを交わしてはいけないのよ」


 カインがなにをしようとしたのかくらいは、さすがにアリサも分かった。しかし、それを許してはいけないのだ。


「お母様に習ったの。式を終える前に、契りを交わしてしまうと、殿方のとても大事なところが腐り落ちてしまうのですって」


 真剣に伝えたのに、カインはなぜか「リ、リーサ様……!!」と母の名前を呼ぶと、天を仰いだ。

 アリサの母から習った内容は、キスは婚約式でもするからしてもよい。

 けれど、それより先、女性の象徴はむやみに触らせてはいけないし、ましてや肌を見せてもいけない。それを破れば、男性はたちまち大事なところが腐り落ちて地獄の苦しみを味わうという恐ろしい内容だった。

 アリサはカインにそんな酷いことになってほしくなかった。


「ねえ、カイン。私と正式に夫婦になってくれるかしら?」


「もちろん、そのつもり」


 アリサの問いに、即座に肯定が返ってきた。

 カインはソファから降り、片膝をついてアリサの手を取る。


「昔も今も、俺はアリサが『唯一』だから。アリサのためなら、世界を滅ぼしたって構わない」


「それは、構って……」


「わかってるよ。アリサが世界を愛する限り、俺はアリサが愛するものを守る。

 だから、これからもずっと隣にいさせてください」


「はい……!」


 カインがアリサの手の甲に口づける。

 それは、古い騎士の誓いだった。永遠の忠誠と愛を捧げることを誓うのだ。

 アリサが笑うと、カインも笑みを返した。

 幸せだ。

 アリサはカインと、これから二人が歩む未来について、夜がふけても話し合った。


 ——翌日、夜更かしをメイド長に怒られるのは別の話である。



番外編をご覧いただきありがとうございます。

あと一つ番外編を投稿したら終了です。

今度は週末のどこかで投稿予定です。


もし気になると思っていただけたら、ブックマークや評価などで応援していただけると嬉しいです。

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