最終話 未来の約束
あの日、魔王の魔力を倒した瞬間、空には白銀の光が輝き、人々に勇者の勝利を知らせた。
一か月と少しをかけて、勇者パーティは王都へと帰還した。
勇者の隣には、黒髪に、猫のような金の瞳の美しい魔族が寄り添っていた。
人々が恐れていた悪逆な魔族とは違い、優しい笑みの女だった。
勇者は王への報告にも、女を連れて現れた。
王の間は騒然となったが、勇者はその女が今代魔王であり、さらに五年前に勇者として認定された存在であったのだと語った。
そして、五年前の勇者と判断されていたダリオ・バルクこそが先代魔王であったとも。
仲間のシーフが集めていた証拠と勇者の証言が決定打となり、ダリオ・バルクは魔王であったと正式な記録に残された。
また、魔道士が重要な発見を次々と発表した。
歴史が変わる発見に世間が騒いでいるうちに、破魔の剣は、こっそり補修され、鞘の意匠が変わっていることに気づかれないまま、王国へ返還された。
※
その日、アリサはいつもの半分の仕事もしないうちに、メイド長に仕事の終了を言い渡された。
さすがに早すぎるのではないかと抗議してみたが、メイド長の美しくも怖い笑顔で黙殺された。
あまりに明るい時間に終わってしまったので、畑の手伝いでもないかと外へ向かう。
「あ、アリサいた」
通路でカインに声をかけられた。
「俺とデートしよう」
軽く言われた台詞に、アリサは顔が熱くなるのを感じた。思わず、他の誰かに聞かれなかったかとキョロキョロ辺りを見渡してしまう。
「だめ?」
こてん、と首を傾げながら眉尻を下げて悲しそうな顔をするカインに、うっと喉が詰まった。普段あんなに危ない男なのに、かわいい。
「いいわ、行きましょう」
手を差し出すと、当然のようにエスコートしてくれる。
カインの温もりを感じて、幸せな気持ちになった。
行き先は近くの村だった。
初めは魔族の村だと警戒されていたが、医術を学んだ魔族が開発した薬のことが、彼の友人から発表されるとだんだんと人間が訪れるようになり、村に定住する者も現れた。
アリサが辺境へ来た頃には小さな集落だったそこは、今や街と呼べるような規模まで拡大していた。
「あら、新しいお店ができてるわ」
「本当だ。人間のお店だね」
アリサは今まで一人で処理していた仕事を他の魔族に振るようになった。
もう急がなくていい、そう思ったらだいぶ心が軽くなったのを覚えている。
道々ですれ違う村人たちに声をかけられながら、サザンカのある村の端まで着いた。ここも、前に三人で来た時と比べて家や店などの建物が増えて賑やかになった。
「サザンカはまだ咲いてないね」
まだ蕾は小さく固く閉じられている。
美しい花を咲かせるにはまだしばらくの時間がかかるだろう。
「また咲いている頃に見にきましょう」
自然と、未来を約束する言葉が出る。それをカインは嬉しそうに聞いていた。
何でもない毎日。
他愛ない約束。
そういうものが、毎日続いていく奇跡。
全部、諦めていたものだった。
それを、カインが。
ヒューが。
リンが。
ロイドが。
皆が救ってくれた。
未来を夢見る幸福を、与えてくれたのだ。
「ねえ、カイン」
「なに?」
ちゅ、と音を立てて口づけをした。
驚く表情の、とても愛おしい人。
「大好きよ」
アリサが笑うと、カインは頬を染めた。
「……あー。俺、すごい幸せ」
そして、天を仰いで、カインはしみじみと言った。
「今なら、世界征服できる」
「しないのよ?!」
本気でやれそうなのが怖いのだ。即座にツッコミを入れると、「冗談だよ」とカインは笑った。
……目が笑ってない。
「もうっ、そんな暇がないくらい、私のそばにいてくれないと嫌よ?」
「分かった。片時も離れない」
「……お風呂はついてこなくていいからね?」
「えっ」
「重い!」
いつものように、平気で怖いことを言うカインにアリサは嘆息した。
それでも、怖いことを言いながら、アリサの幸せを最大限考えてくれるのだ。
アリサは空を見上げた。
雲一つない、美しい空だった。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけると、とても嬉しいです。
今後の創作の励みになります。
なお、数日後に番外編を投稿予定です。
もう少しだけ、この物語にお付き合いいただけたら嬉しいです。




