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世界を滅ぼしたい勇者✕世界を救いたい魔王~勇者様、ちゃんと魔王を倒してください!~  作者: よし はるか


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3 小鬼の少女と魔王の噂

 結局、魔道士ロイドは一睡もできなかった。

 それもそのはず、ここは敵の本拠地なのだ。

 ……はずなのだ。


 昨夜は本拠地に乗り込んだと思ったら、勇者が裏切り、魔王に怒られ、魔族に歓待され、部屋まで用意された。

 シンプルだが品の良い調度品で飾られた部屋は隅々まで清掃が行き届き、寝台脇の小卓には安眠の効果があるハーブの香り袋が添えられていた。王都であれば良き主だと称えるところなのだが……。


 部屋は四人分、それぞれ用意されていたが、ロイドは一つの部屋に集まり、結界を敷いて交代で番をすることを提案した。

 が。


「大丈夫だよ、アリサだもん」


「カインじゃないけど、まぁ、大丈夫だろ」


「え! えーと、殿方と二人きりになるのはちょっと……」


 まさかの全員に断られたのだ。

 その結果、ありとあらゆる結界を敷き、魔力感知の警戒結界を張り、いつ襲撃が来ても大丈夫なように杖を握りしめてソファの上で仮眠をとろうとした。ソファはこれまた極上の座り心地だったが、それに気づく余裕はロイドにはなかった。


 コンコン


 控えめなノックが響く。

 返事をすると、昨日見たメイドとはまた別のメイドが入ってきた。

 彼女のこめかみのあたりには、鉱石のように鈍く光る角が左右に一本ずつ生えていた。


「増えてる……」


「? 何か?」


「いや……」


 首を傾げる彼女からは、人を害するような気配が感じられない。

 角がなければ彼女が魔族だとは気づかないだろう。


「アリサ様から、お客様方の朝食を食堂にてご用意するよう申し付けられております。

 お支度が整っているようでしたら、ご案内いたします」


 言葉遣いも王城で働くメイドたちと遜色ない。


「君は、王都の出身か?」


 思わず聞いていた。


「いえ、わたくしはこの城の近くにあります、村の出身でございます」


 何の疑問もなくメイドは答えた。


「村……、その、メイド教育はどこで?」


「アリサ様より直々に教わりました。あの方が、すべてを教えてくださいました。

 ……いつか役に立つ日が来るかもしれない、と」


 いつか。

 魔王が提示する未来とは。


「君には、よい主人なのだな」


「はい、よい主に恵まれました」


 なんの(てら)いもなく、メイドは笑う。

 ロイドは反射的に目をそらした。

 普通の人間のように笑う、角さえなければ可愛らしい素朴な顔の魔族は。

 いつか自分が手にかけなければならないのだから。


 案内された朝食の席もまた、毒も罠もない、丁寧に整えられた食事が並んでいた。

 何度鑑定を繰り返しても、本当に何も出ないのだ。

 ロイドは、ただ素晴らしい歓待を受ける状態に、逆に混乱した。




 

「おかしい……、確かに魔王の魔力は感じられるのに」


 朝食を終えたあと、ロイドは一人で魔王城の中を歩いていた。

 敵地で単独行動など危険極まりないのだが、カインは魔王から離れないし、リンも勇者のそばを離れたくないと断られてしまった。

 ヒューは、いつの間にか姿を消していた。

 しかたなく結界を幾重にも張り、一人で魔王を倒すための糸口を探すことにしたのだ。


「ここは、扉が鉄製だな」


 木製の扉が続く中、そこだけ何かを守るかのように鉄製の扉が現れた。

 武器庫かもしれない。

 周りに人けがないことを確認し、ロイドはその扉を開く。重かったが、鍵もかかっておらず、成人男性一人の力で開けられないことはなかった。


「……食糧?」


 中に入ると通路と違いひんやりとしていた。整然と並べられた棚には種類ごとに作物が置かれている。

 ぐるりと中を回っても食糧以外の何も出なかった。


「だれ?!」


 鋭い誰何の声がした。

 警戒を込めて振り返ると


「こども?」


 己の背丈の半分ほどの小鬼がいた。

 幼い少女の姿をして、額には豆粒サイズの淡い桃色の角が生えている。


「あれ? アリサさまのおきゃくさま?」


 ロイドの顔を見て、警戒心をあらわにしていた少女は拍子抜けしたような声を出した。


「どろぼーかとおもったよー。おじさん、ここ、ごはんおいとくばしょだから、かってにはいっちゃだめだよ?」


「あ、ああ、すまん」


 小さな女の子に諭されて思わず謝ってしまった。


「おじさん、まいご?」


「いや、違っ……そうだな、迷子なんだ。

案内してくれるかな?」


「いいよー!」


 先ほどの警戒心はどこへやら、少女は屈託なく笑い、返事をした。


 道中、ロイドはこの少女から情報を集めることにした。


「アリサ様、というのは魔王のことかい?」


「まおう? アリサさまはねー、ひきこもりだよ!」


「ひきこもり?」


「なんかおそとでちゃダメなんだって。おにわもあんまりでないの」


 どういうことだろうか?

 魔王の行動記録はほとんど残されていないが、残された記録では眷属にする生き物を求めて街を襲撃していた。

 今代魔王と言ったあの女は、ひきこもり?


「あとねー、おしごと、ねるおへやにもってっちゃうから、よくメイドちょうにおこられてるよ!」


 メイドちょう、こわいんだよと少女は右手の人差し指だけを伸ばし額の前に角を作る。

 昨日、魔王の後ろに控えていた禍々しい赤の角のメイドだろうか。


「パパは、アリサさまのこと、しごとのむしだっていってた。おじさん、しごとのむしってどんなむし?」


「えーと……」


 少女の少し舌足らずな話に耳を傾けるうちに、魔王がひきこもりで仕事の虫であることが、ロイドの脳内に刻まれたのだった。

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