28 覚めない夢
アリサは、夢を見ているのだと思った。
リンに、「魔王だけど、魔王じゃない!」と言われた。
彼女は、勇者パーティの聖女だ。魔王城に来たばかりの頃は、どこか怯えていた。
その彼女が、アリサが魔王の運命を受け入れていることを、悲しいと泣いた。
ロイドが魔王の魔力だけ倒す方法を見つけた。
彼は、全てに警戒して、疑いの目で見ていた。
その彼が、シェフの料理が恋しくて無理をして帰還したり、持ち出してはいけないはずの勇者と魔王の文献を複写し、魔王城で研究できるようにした。
メイド長はいつもアリサの意見を聞き入れて、納得しているんだと思っていた。
でも、ロイドの話を聞いて礼節を忘れるくらい、駆け出した。
これは夢だ。
アリサはもう一度、思った。
許されないはずの私が、皆に許されて生きる道を探す、夢。
「なるほど、強制的に付与されている外部の力ということでしょうか? アリサ殿はいかがですか?」
ロイドに問われて、現実世界に帰ってきた心地になった。未だ、足元がふわふわするような感覚のまま、ロイドの問いに答える。
色々答えた結果、全員に呆れ返られたのは納得できなかったが。
「アリサ殿、魔王の魔力を鑑定する許可をいただきたい」
ロイドはいつの頃からかアリサの名前を呼ぶようになっていた。
魔王ではなく、一人の人間。今だって、本来なら敵を鑑定するのは魔道士の役割なのに、許可を求めてくる。
「構わないわ、どうぞ」
鑑定しやすくするため、勇者の力を抑え、魔王の力を解放する。
途端に、皆の顔が苦しそうに顔を歪めるのが辛かった。
『鑑定』
ロイドが目に魔力をこめる。しばらく、目だけが忙しそうに動き、やがて目にこめた魔力を解放した。
「いやはや、これは話を聞かなければ考えつかなかったものですね」
鑑定の結果はこうだった。
アリサの魔王の魔力は、確かにアリサ自身の魔力ではない。
それは、心臓より少し下、みぞおちのあたりに核のようなものがあり、そこからアリサの周りに渦巻いているのだ。
「じゃあ、核を破壊するイメージなのかな?」
「そうでしょう。正確に核に破魔の剣を刺し、破壊しなければなりません」
カインの問いにロイドが答える。
「難しそうだ。長さ調節しちゃだめかな? 折っちゃうとか」
「カイン様、それ、国宝ですよ……?」
カインの呟きを拾ってしまったリンが、恐ろしいものでも見るようにカインに言った。「本気でやりそうで怖いです……」と続けている。
ヒューが、「いいじゃん。戦闘で壊れましたって言えば」と悪気なく言い、リンが今度は化け物を見るような目で見ていた。
「万が一、破損によって破魔の力を喪失したら困ります。カイン殿が調整しやすい方法を考えましょう」
ロイドがそう言ったので、二人は剣を短くするのを諦めた。
皆がアリサのために、アリサを生かすために動いている。
夢を見ることすら諦めたアリサにとって、とても幸せな光景だった。
「……えっと、一つだけ、伝えたいことがあるの」
ずっと見ていたかったが、これだけは伝えなければならない。
皆がアリサの言葉に注目した。
「私、新月まで持たないと思うの。あと、半月くらい」
だから。
後で辛くなるくらいなら。
幸せな夢から。
「分かった。間に合わせる。皆もそれでいいな?」
「「「「はい!」」」」
いつの間にか戻ってきていたメイド長まで返事に加わっていた。
アリサの夢は覚めないようだ。




