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世界を滅ぼしたい勇者✕世界を救いたい魔王~勇者様、ちゃんと魔王を倒してください!~  作者: よし はるか


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26 一筋の光

 翌日、リンは泣き腫らした目で執務室に入ることをためらっていた。

 あの後、カインとヒューに部屋まで送り届けられ、ベッドに入ったものの一睡もできなかった。

 リンの聖女の力は自分には効かない。こういう時に使えないなんて、なんて無力なんだと落ち込んだ。

 こんな顔でアリサに会ったら心配させてしまう。でも、アリサのそばにいたい。

 悩んでいると、扉が開いてメイド長が顔を出した。


「リン様、どうされました? そのお顔……、早く部屋にお入りください」


 メイド長が優しく、しかし有無を言わせぬ力で室内に導く。

 ちなみに、比喩ではない。

 応接ソファに座らせながら、冷たいタオルを持ってくると言って、部屋を出ていった。


「リン、誰かに虐められたの? 誰にやられたかこっそり教えてくれないかしら?

大丈夫、私が後できゅっと懲らしめてあげるから」


 アリサは仕事の手を止め、リンの隣へと座る。きゅっと、と可愛らしく言うが、目が笑っていない。本気だ。


「アリサ様、虐められてはいないので大丈夫です」


 思わずクスリと笑うと、アリサの目元も緩む。


「私も癒やしの力が使えたら良かったのに……」


 勇者に加えて魔王の力も持っているのに、聖女の力まで手に入れたらもう勝てる者などいないだろう。神にでもなるつもりか。

 ……アリサならよい神様になりそうだ。


 メイド長と同じタイミングでカインとヒューが執務室へ入ってきた。

 メイド長から冷たいタオルを受け取り、目元を冷やす。気持ちいい。


「ねえ、カイン、ヒュー。

私、昨夜あなたたちがリンと連れ立って歩いていたって報告を受けてるんだけど……」


 笑顔だった。目が笑っていない。

 手を組み合わせて頬の横に添えている。あれはきゅっの準備だろうか? 可愛いのに、怖い。


「アリサ、さすがにそれはリンがかわいそうじゃない?」


 カインが眉尻を下げながら答えた。

 そうなのだ。

 誰が、と言うなら、アリサなのだ。泣かせたのは。


「……でも、私は魔王なのよ?」


 何を言われたのか、気付いたのだろう。

 やはり悲しいことを言うのだ。


「違います! 魔王だけど、魔王じゃない!

私は、アリサ様が悲しいことを言うのが、悲しい……」


 ああ、せっかくメイド長が冷たいタオルを用意してくれたのに。

 また、ぼろぼろ涙がこぼれてきた。


「リン……、ごめんなさい。

きゅっとしなければならないのは私だったのね」


 アリサがリンの頭を優しく撫でる。

 きゅっにこだわるのは何なのか。気に入ったのか。


「でもね。本当に、魔王なのよ。

……力が抑えられなくなってきたの」


 ああ、やっぱり。

 まるで終わりを受け入れているように、穏やかにそんなことを言うのだ。


 コンコン、ガチャ!


「皆さん、新事実が分かりました! ……って何ですか、この空気?」


 珍しく無作法なことをして入ってきたロイドは、空気が読めず混乱していたのだった。





「ええ、と、先ほどは無作法をして申し訳ありません。

で、新事実についてですが」


 ロイドの目がギラギラとしている。目の下の青い隈はくっきりとしていたが、ロイド自身は活力に溢れていた。

 そして、よほど面白いことが分かったのか、まだ微妙な空気を物ともせず、分かったことを喋りだした。


 ロイドの話は六代前の魔王の話だった。

 文献によれば、彼を倒した勇者は彼の妻だった。

 魔王を愛する者が勇者になる。それはカインとアリサのことを思い起こさせた。


 彼が魔王認定された原因は、子供を殺されたことだ。

 当時、彼は治安維持の任についている騎士だった。ならず者が仲間を捕縛された恨みで、彼の子供を狙ったのだ。

 正義の下に(おこな)った自分の職務で、最愛の我が子を喪う。彼の悲しみは深かった。

 そして、魔王認定されたのだ。

 彼の妻は近くで全てを見ていた。彼女もまた、我が子を喪った悲しみの中、それでも深い悲しみに囚われる夫を救いたいという気持ちが勇者認定された。

 当時でも、魔王は勇者が討伐するものという認識があり、人々は妻に夫を倒すことを迫った。

 妻は、「分かった」とひと言だけ言ったそうだ。

 魔王となった夫を追い詰めた時、彼女は誓ったらしい。


 ――夫を殺して、私も死ぬ。


 覚悟を決めて、夫に破魔の包丁を突き刺したのだ。


「破魔の包丁」


 リンは思わず復唱した。流すことは、無理だった。


「破魔の包丁」


 アリサも復唱していた。

 隣でヒューが腹を抱えて笑っている。カインが、「包丁……」と自分の剣を撫でた。

 もう、色々、無理だった。



 しばらく行動不能に陥っていた面々が落ち着いたのを確認してから、ロイドは話を再開した。


「重要なのは、武器の話ではありません」


 ヒューが先ほどの後遺症か、お腹をピクピクさせている。


「妻が、夫に破魔の包丁を「ぶふぉっ」突き刺した瞬間、聖女認定を受けたのです」


 ヒューのお腹はやはり耐えきれなかったようだ。しかし、ロイドは意に介さない。


「聖女……?」


「そうです。聖女の力は誰かを癒やしたいという願い。妻は夫と死ぬ覚悟をしつつも、最後まで彼を救う方法を模索していた」


 リンは心臓が早鐘を打つのを感じていた。

 それは、もしかしたら。


「破魔の包丁は、魔王の力を倒しました。

しかし、聖女の力は夫の肉体を癒やした。六代前の魔王は、魔王の魔力だけ倒して、死ななかったのです」

実は、今回の話のタイトル、『はたから見たら修羅場です』って入れようと思ってました。

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