24 夢と絶望
シーフのスキルは、思った通り情報収集するのには最適だった。
ヒューが最初に調査をしたのは、バルク侯爵家。
高位貴族の屋敷なので、罠も多かったが、ヒューはスキルを使ってなんとかすり抜けた。元から才能があったのだろう。息をするようにスキルを使いこなせた。
盗人の冤罪を被せられた人間に、盗賊職のスキルの才能があったのはなんとも皮肉な話だ。
バルク侯爵家へ潜入するには、絶好の時期だった。
ダリオが死亡した後、ヤツの悪事の痕跡が次々と出てきたらしい。
後処理に侯爵家の人間は右往左往していて隙だらけだった。
ヒューはダリオの悪事についても証拠を集めた。
有能な測量士を、家族を盾に辞退させた記録。偽の測量士を紹介させた記録。粗悪な資材をわざと流した証拠。リーサ様に使われた薬の購入履歴。……人としての尊厳を奪うような薬だった。
放っておけば、ダリオのやったことは闇の中へ葬られるのだろう。
そんなことは許されなかった。
アリサの件が解決したら、大々的に暴露してやろう。あいつが奪ったものは、全部取り返すのだ。
ダリオの悪事以外にも収穫はあった。
勇者と魔王に関する文献が出てきたのだ。
魔王になるには、強い思いとそれを成し遂げる力が必要だとか。勇者は魔王を倒す唯一の存在、とか。
普通なら、魔王や勇者の記録は王都の禁書庫に保管される。さすがに禁書庫まで入ることはできないだろう。バルク家が秘密裏に保管していたのは幸運だった。
ヒューとカインはたびたびお互いの情報を交換し、話し合った。
カインからは、辺境から魔王の魔力が流れてくるらしいという情報がもたらされた。
まだ魔王の正体がアリサとは確定していなかったが、魔王だったとしても生きていることがわかればそれでよかった。
事態が動いたのは、カインが勇者認定を受けたことだった。
※
任務で魔物の討伐に出た。
壊滅に近い状態の村。取り残された娘を探す母親の叫び声。
制止を振り切って探しに走った。
視界の端に、金色が揺れて見えた。
それを取り囲む、魔物の群れ。
それが、アリサの姿と重なった。
もう誰も、理不尽に奪われてほしくなかった。
強く、助けたいと思った。
無我夢中で魔物の群れに飛び込んだ時、白銀の光が降り注いだのだ。
光はカインの意思に従って、魔物を貫いた。
勇者カインの誕生だった。
カインは勇者になってしばらく、夢を見た。
幼い頃の小さい手。可愛らしい洋服。視界の端に、さらさらの金髪。
そして、向かいに立った『俺』の姿。
「なんだ、これは……?」
カインは目覚めと共に混乱に陥った。
誰かの記憶を見る夢。その中に、幼かった頃の自分自身がいた。
夢にしてはリアルで、気味が悪かった。
それから、寝るとあのリアルな夢の世界が続いた。
『ねえ、カイン。遊びましょう!』
『カイン! 見て、花冠作ったの。あなたにあげる!』
『カイン、ヒューと一緒に湖まで散策しない?』
アリサだ。
カインは気付いた。夢の中で、カインはアリサになっていた。
とうとう、狂ったか。
アリサが恋しいばかりに妄想でも見るようになったのか。
――それでも構わない。
夢は途切れることなく、続いた。
アリサが消えた日の夢を見た。アリサの絶望。そして、残した優しさ。
バルク家での生活を見た。真綿で首を絞めるような日々。カインとヒューが送っていた手紙は一度もアリサの元へ届いていなかったと知った。
そして、運命の日。
世界は私を、許さない――。
強い感情に心を乱されて、カインは飛び起きた。
「違う」
涙が出てきた。
「違う!!」
抱きしめたい。
アリサの気持ちが罪ならば、カインだってとっくに魔王になっているのだ。
なぜなら、強く心に思っているから。
――アリサを否定する世界なんて、必要ない。
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