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世界を滅ぼしたい勇者✕世界を救いたい魔王~勇者様、ちゃんと魔王を倒してください!~  作者: よし はるか


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23 強襲

 リンがはしたなく夜中に男性の部屋を強襲するなど、後にも先にもこの日だけだった。

 ものすごい勢いでカインにあてがわれた部屋の扉をノックする。いや、殴りつけていた。


「なに〜? 夜中に」


「カイン様!」


 リンはカインが出てきたことに喜んだ。カインさえいれば、問題は解決するのだと思っていた。


「リン、俺にはアリサがいるから君の好意には応え」「いらないです!」


 リンは叫ぶように答えた。


「そんなの、いらないからアリサ様を、アリサ様を助けてください!」


 カインはリンの必死な様子を見て、優しく尋ねた。


「アリサ、限界そうだったの?」


「え、知って……」


「知ってる。アリサのことだから、無理して抑えてたんでしょ?」


 呆然と、リンはカインを見つめた。優しい笑顔を浮かべるカインはまさに清廉潔白な勇者に見える。

そして、あんなにアリサに好意を伝えることを憚らないカインが、アリサが苦しんでいるのを知りながら何もしないという事実に衝撃を受けた。


「なんで……」


「俺が、勇者だから」


 勇者だから、救えない? 勇者だから、放っておく? どういうことなのだろう?


「アリサは自分への救済は、勇者による死だと思い込んでいる。

ずっと死にたがっているんだ」


「そんな……」


 脳裏にある記憶が蘇った。

 アリサにどうしてそんなに仕事が多いのか聞いたことがある。

 魔王城で働く者は、無理のない仕事量をきちんとした休憩を取りながらこなしている。


「時間が足りないからかしら」


 アリサはそう答えた。


「皆が、幸せに暮らすためには、今やっておかないと」


 リンはアリサが優しいから、魔族たちのためを思って、仕事を詰めているのだろうと思っていた。


 違った。


 魔族たちのためを思ってはいる。アリサは、『皆』の中に自分自身を入れていないのだ。 

 アリサの仕事量は全て、自分がいなくなった時、皆が困らないようにするためだったのだ。


「どうすれば、アリサ様を助けられるの……?」


「リンとおっさん、鍵はお前らだよ」


 気配もなく現れたのはヒューだった。


「ヒュー? いつから……」


「あれだけ激しい夜這いしてりゃ嫌でも気付く」


「してない!」


 断じて、夜這いではない。あれはもはや襲撃だ。


「ふざけてる場合じゃなくて、わたしたちが鍵ってどういうこと?」


「アリサには、アリサに対して嫌悪感を持つ人間が必要だったんだ」


 そうして語られたのは、カインとヒューにとって苦しい決断の話だった。





 五年前、調査に同行したヒューは自分たちが間に合わなかった事実をまざまざと突きつけられた。


 おびただしい血痕。亡くなられたリーサ様。……血溜まりに落ちていたアリサの大切なブローチ。

 いったい何があったらこんな凄惨な現場ができあがるのだろう?

 調査の結果、アリサが生きている可能性が高いことに歓喜した。どこかに隠れているのかもしれない。あんなにひどいことが起こったんだ。どこかに隠れて怯えているのかもしれない。

 しかし、調査隊は状況から、彼女が魔王化した本人であると結論づけた。ヒューからしてみれば、それは決めつけたとしか思えなかった。

 違う! とヒューとカインは何度も告げた。あのアリサが、人を殺すはずがないのだ。ましてや、リーサ様に手をかけるなど、ありえない。


 王都へ戻るとすぐさま魔王討伐のための編成が行われた。

 捜索のために、多くの騎士が各地へ旅立つことになる。

 ヒューとカインは捜索隊からは外れていた。調査の折に、アリサを擁護する言動が多かったために危険視されたためだ。


 ヒューは焦った。何もできないまま、永遠にアリサを失うことが怖かった。

 内容に危険性がないと判断されたため、ヒューが受け取ることを許された手紙があった。アリサからヒュー宛の手紙。

 他愛ない近況を綴る手紙はヒュー宛の手紙だけでも何十通もあった。手紙はアリサのきれいな字で、ヒューが元気か心配する内容が多かった。

 手紙にはよく字がにじんだ跡があった。ぽたりと垂れたような染み、それは涙だったのだろう。涙が滲んだ目で書いて、視界が歪んだまま封筒に入れたから気づかなかったのだろうか。

 そんなアリサがリーサ様を殺害することはありえない。

 けれど、下級騎士であるヒューには助ける術がないのだ。



「騎士を、辞める?」


「ああ、決めた」


 ヒューは真っ先にカインに言いに行った。


「オレは、シーフになる」


「俺の仕事増やしたいと?」


「そうじゃねえ! 大体、盗賊の捕縛は警備隊の仕事だろうが!」


 こんな時でさえ、カインは茶化してくる。少し、いやだいぶイラッとしたが、これはカインなりの気遣いであることも分かっていた。


「騎士のままじゃ、アリサは救えない」


 カインには痛い言葉を告げた。カインは代々騎士のベルク子爵家。辞めることは、許されない。


「だから、オレはシーフになる。隠密スキルがあれば、隠された情報も手に入れられる可能性がある」


 ヒューは続けた。


「お前は騎士のまま、アリサを守れ。

オレに情報を流せ」


「それは、俺にスパイになれってこと?」


 ヒューは頷いた。


「お前は、もう『唯一』を決めてるんだろ?

……一緒に命をかけろよ」


 ニヤリと笑うと、カインも一緒に同じ顔をする。


「いいね。わくわくするよ」


 二人同時に手を出して、パァンと打ち合わせた。


「「全ては、アリサのために」」


 たった二人の、救出作戦の開始だった。

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