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世界を滅ぼしたい勇者✕世界を救いたい魔王~勇者様、ちゃんと魔王を倒してください!~  作者: よし はるか


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19 禁書庫

 ロイドは一週間、毎日自分の魔力が尽きる手前まで転移を繰り返した。

 魔力が尽きれば昏倒してしまう。王都に早く着きたいと、気持ちが逸る。しかし、あまりに無理をすれば結局何日も寝込むことになるため、自制しギリギリのところを見極めて魔力を使った。

 その結果、王都に着いた後に寝込んだ日数は二日で済んだ。


 体力と魔力が回復したのを確認し、ロイドは王城内にある書物庫へ足を運んでいた。

 勇者や魔王の文献は悪用を防ぐため、書物庫の中でも国王からの許可が必要である禁書庫に納められている。幸いロイドは勇者のパーティに選出された際に許可を得ていた。


「まずは五年前の事件から調べるか……」


 文献はすぐに見つかった。頁をめくると、騎士たちの名前が並んでいる。どうやら、バルク侯爵家へと派遣された騎士の名簿のようだ。


「ふむ、勇者殿の名があるな。……これは、ヒュー? あやつ、騎士だったのか?」


 ロイドの知るヒューは、シーフとして活動している。シーフはジョブ名としての盗賊で、犯罪者であるわけではない。

 ヒューはどちらかというと斥候の色が強かった。


「いや、今は文献を確認するほうが大事だ」


 ヒューの前歴など本人に聞けば済むのだ。思い直して、頁をめくった。

 五年前の報告書には、当時の調査結果が詳細に記されていた。





 赤黒い稲妻と白銀の光が喰らい合った日、バルク侯爵領は大変な騒ぎに包まれていた。

 侯爵邸から稲妻と光が昇ったのだ。人々は混乱に陥っていた。

 侯爵領の私兵が侯爵夫人の部屋へ駆け付ける。扉は、強い力で通路側へ吹き飛ばされていたかのようだった。

 彼らが見たのは、おびただしいほどの血痕と、焼け焦げた跡。

 血溜まりに落ちていたブローチ。

 そして、ベッドの上で眠るように亡くなっていた侯爵夫人の遺体だった。


 バルク侯爵家からは即座に王都へ向けて緊急伝令が放たれ、その日のうちに調査派遣のための編成が行われた。

 その中に、カインとヒューが入っていた。

 本人たちの強い希望だったと記録には残っている。


 一行は早馬で二日かからず侯爵領へと到着した。

 侯爵夫人の部屋は惨憺たるものだった。血は赤黒く変色し、重苦しい空気が立ち込めていた。

 侯爵夫人の遺体もそのまま寝かされており、その遺体には状態保存の魔法がかかっていた。

 騎士たちはまず侯爵夫人に哀悼の礼をし、調査に入った。

 関係者の聴取記録には、当日は侯爵夫人の周りに白銀の光の残滓がキラキラと輝いていたという証言があったと書かれていた。


 バルク侯爵本人と、リーサ侯爵夫人の娘であるアリサ・セレスが行方不明になっており、残された血痕の状況からどちらか一人、もしくはその両名のものだと予想された。

 しかし、アリサ・セレスの宝飾品や衣類がいくつか無くなっているとの証言もあり、血痕は侯爵のものであろうと結論付けられた。遺体は残っていなかった。しかし、現場には焼け焦げた跡があり、魔法の業火に焼かれた場合、骨すら残らないこともあるため疑問視はされなかった。

 現場に残されていたブローチはアリサ本人のものだとヒューが証言した。

 後日、侯爵領から離れた領地でアリサの宝飾品が質に出されていると報告が上がったそうだが、質屋の主人は売りに来た人物のことを覚えていなかった。霞がかったように、その人物のことだけ思い出せないという。認識阻害の魔法が使われたようだ。


 アリサの部屋にはシンプルな装飾の箱に百通以上の手紙が収められていた。

 魔道士による厳重な鑑定が行われたあと、調査メンバー全員の前で手紙は開封された。

 宛名は調査メンバーだったカインとヒュー、それからセレス家宛のものがあったが、中身は他愛ない近況報告だけであった。


 調査の結果、バルク侯爵が勇者、アリサ・セレスが魔王であったと結論付けられた。

 生存者はおらず、全て状況証拠だ。しかし、バルク侯爵は領民の間でもリーサやアリサを大事にしていると評判だった。対して、アリサ・セレスは屋敷から出ることもなく人柄も知れない。

 そのため、バルク侯爵はアリサを止めようとし敗れたのだと判断された。リーサ侯爵夫人についても、近くで毒の成分が検出された小瓶も見つかっており、アリサが毒殺したものと処理された。カインとヒューは最後まで強硬に反論していた。騎士団内にも再調査を求める声はあったが、明確な証拠も証言もない事件だ。結局、その声は黙殺された。


 そして、報告書は禁書庫に保存されることとなったのだ。





 ロイドは報告書を書棚に戻すと深いため息をついた。

 カインから聞かされた話とまるで反対ではないか。貴族から魔王が出たことで、平民には情報が秘匿されている。

 しかし、貴族の間では違う。セレス家は針のむしろだっただろう。調べるとセレス家は五年前の事件の後から社交界から身を引き、領地に籠もっていると記録があった。


 ロイドは決意した。

 この事件の真相は闇に葬るべきではない。真実を明らかにするべきだ、と。

 禁書庫を見渡す。まだまだ調査すべき文献で埋め尽くされている。

 ロイドはパァンと両手で自分の頬を叩き、気合を入れた。

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