18 転移
「一度、王都へ帰還する許可をいただきたい」
ロイドがカインに切り出したのは、翌日のことだった。
一度に詰め込まれた情報が多すぎて、ロイドは部屋に戻ると気絶するようにベッドへ倒れ込んだ。
夢の中でもその情報にうなされ続け、朝、目が覚めた時には、目の下にくっきり青い隈が鎮座していた。
ロイドは痛感した。
この隈を消すには、全ての謎を晴らすしかないのだと。
アリサの執務室は勇者パーティ全員が揃っていた。その中でアリサ一人が大量の書類と戦っている。メイド長が甲斐甲斐しく勇者パーティの世話をしていた。
「一人で? ここまで一か月かかったのに……」
リンが心配そうに眉を寄せた。手には、アップルパイ。魔王城のシェフが作るデザートは絶品なのだそうだ。
「ああ、一人ならば転移魔法が使える。せいぜい一週間というところだろう」
あとで一切れ貰おう、と考えながらロイドは返した。かなりの強行軍とはなるが、早く真実を知りたいロイドにとって多少の無理は仕方がない。
「ええと、よかったら私が転移させましょうか? 大人一人ぐらいだったら王都まで一回で転移させられますけど」
アリサがそろそろと手を挙げて申し出た。仕事に忙殺されているように見えてちゃんと話を聞いていたらしい。
ロイドは頭の中で、アリサの転移魔法で王都に降り立った自分を想像した。……うん、防衛の騎士に袈裟斬りされた。
「魔王の魔力を纏わせた状態の転移はちょっと……」
「あ、討伐されちゃう?」
「……はい」
アリサ本人から軽く「討伐されちゃう?」などと聞かれて、一瞬返答に詰まる。
「うふふ、確かにそうね」
「納得するんだ……」
はにかむアリサに、リンが呆れていた。
「では、携帯食を用意するわね」
「今から、ですか?」
固く焼き固めたビスケットとかだろうか? 今から作るのか? なるべく早く発ちたいんだが……。
「大丈夫よ、四半刻もかからないわ。備蓄があるの。
うちのシェフが開発した携帯食はすごいのよ。お湯をかけると出来立てのように戻るの」
それ、世紀の発明では?
「あら、魔力の心配をしてるのかしら?
大丈夫よ、お腹の中に入っちゃえばバレないから」
「そういうことじゃない」
いたずらっ子のように笑うアリサに、ロイドは思わずツッコミを入れる。ヒューが腹を抱えて笑っていた。
※
「おっさん、オレが選んどいたよ」
魔王城から出ると、少し肌寒かった。ここ数日は室内で過ごしていたから、今が秋の終わりということを忘れていた。
ヒューはいつの間にか全種類試食していたらしい。「おすすめはー」とご丁寧に説明してくれる。美味しそうだ。
「では、行ってまいります」
仲間に礼をし、杖を掲げる。
「頑張って」
カインが手を振った。横でリンも「気を付けて行ってきてください!」と激励してくれる。
カインの隣には、アリサも来ていた。
「いってらっしゃい」
にこやかに言われ、不思議な気持ちになる。魔王城へ立ち入る前は、死を覚悟さえしていたのに。
こんなに穏やかな気持ちでこの地を出発することになるとは。
「行ってまいります、アリサ殿」
アリサに挨拶を返し、ロイドは今度こそ杖に魔力を集中させた。
『転移』
景色がぐにゃりと歪んだ。




