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世界を滅ぼしたい勇者✕世界を救いたい魔王~勇者様、ちゃんと魔王を倒してください!~  作者: よし はるか


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17/23

17 意識の変化

「――というのが、五年前の真実」


 まるで、雑談を締めくくるような軽い口調でカインは言った。

 いつの間にかヒューも執務室に入ってきていた。腕を組んで、カインの様子を眺めている。


「そんな……」


 リンは思わず声が漏らした。

 こんなの、こんなのひどいではないか。

 魔王アリサは、魔王ではない。守ろうとした母を亡くしたただの傷ついた少女だ。

 執務机の前に座っていたアリサは俯いている。カインが語った過去の話で、記憶を揺さぶられたのか。両の腕で自分を抱きしめて、震えていた。


「……い」


 アリサの口から声がこぼれた。


「怖い! なんで当時の私の心情まで正確に表現してるの?! え、こわ! 本当にこわ!!」


「え、そこ?」


 ヒューが爆笑した。笑われたことについてもアリサは憤っていた。


「いやいやいやいや、だってヒュー、怖いでしょう! 邪法? 邪法なの?! 止めてよ、ヒュー!! ちゃんとカインの面倒を見て?! 邪法使う勇者とかありえないでしょう!!」


 勇者認定の直後に魔王認定された人物の言うことではない。

 ロイドを見れば、完全に意識が飛んでいた。指でつつけば、砂になってサラサラと風に飛ばされていきそうだった。


「勇者の力止めるとか無理だろ。オレ、討伐されちゃう」


「勇者の力?! え、人の心情盗み見るのが?!」


「そうだよ」


 軽く流すヒューに、激昂するアリサ。それをカインはひと言で止めてみせた。

 いや、違う。アリサだけがピシリと固まった。


「歴代勇者の記憶が見えるんだ」


 カインはアリサを優しい眼差しで見つめた。勇者の力が馴染むと、だんだんと歴代の勇者の記憶が流れてきたのだと言う。


「ちなみに、セレス家の初代。勇者の隠し子だった」


「ちょ、知らない! うちの初代そんな秘密あったの?!」


 道理で五男の割には優遇されていたのか……、とアリサは頭を抱えていた。


「五年前の事件は、バルク侯爵が魔王だった……? 魔王は一度、倒されていたのか……」


 ロイドはまだ現実に戻ってきていないようだった。たぶん、まだ、戻ってこないほうがいい。彼には刺激が強すぎる。


 そして、リンはアリサを見つめた。まるで普通の人間のように表情豊かで、魔族に教育を施し、善政を敷く悪の結晶と教えられてきた存在。

 もう、魔王とは呼べそうになかった。





 ロイドが正気に戻ったのは、あれから半時が経った頃だ。

 魔王の執務室、そこの応接ソファに座らされていた。

 テーブルには紅茶がセットされていたが、すっかり冷めてしまっていた。


「新しいお茶をお淹れします」


 ロイドが戻ってきたことにいち早く気付いたメイド長が、慣れた仕草で冷めた紅茶を下げ、新しいものに淹れ直す。

 湯気の立つ紅茶からは芳しい香りが漂ってきた。


「ありがとう……」


 素直に感謝の言葉が出た。もう、鑑定をかける気にならずそのまま紅茶に口をつける。

 美味しい紅茶だった。


 ロイドにとって、勇者は絶対的な善だった。そして魔王は絶対的な悪。

 それがこの魔王城に来てからというもの、ハンマーで木っ端微塵に粉砕されたあと、念入りにすり潰された気分だった。

 カインの話を聞いて砂になりかけながら、魔力をこめた目でアリサを見ると、確かに魔王の魔力の隙間から勇者の力が見え隠れしていた。

 カインの話が真実であることの証明だった。


 正気に返って、ロイドは情報を整理した。

 五年前の勇者敗退事件、舞台となったバルク侯爵家の話は聞いたことがある。

 しかし、詳しい内容までは知らない。

 調査が必要だ。


 魔王と勇者の力が混在するアリサを見た。未だに書類に囲まれて高速で手を動かしている。


「まお……アリサ殿。貴殿のことを調査させてほしい」


「え、解体するの?!」


「しない!!」


 ロイドは思わず、空を切る裏拳でツッコミまでしたのだった。

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