12 お祝い
「ヒュー、ベリル商会の沙汰が決まったらしい」
ヒューの釈放からしばらく後、詰所で一緒に訓練を終えた時だった。騎士団長から伝えられたのだとカインは言った。
取り調べの結果、ひょろりとした男――ベリル商会の商会主は魔力を封じられ、強制労働に送られることになったそうだ。
商会の宝飾品は全て回収され、関係者の取り調べはまだ続いている。
人を自分の都合のいいように操ろうとした男が、今度は労働を強制される。
なんとも皮肉な話だった。
ヒューとカインは苦い思いを飲み込むように、顔を見合わせた。
※
結局、ヒューがアリサに会えたのはベリル商会の末路を聞いてから少し経った後だった。
顔の怪我があまりに痛々しく、貴族令嬢の心には刺激が強すぎるからだ。
会えない間、毎日のように手紙を交わした。アリサの発案だった。
女の子と手紙を交換するなどヒューは気恥ずかしかったが、アリサから届くきれいな筆跡で優しくこちらを気遣う内容に心が温かくなる。
「いいなあ、俺も二人に手紙、書きたい」
そう言い出したのは、アリサの手紙をカインが手渡してくれた時だった。
「いやいや、何言ってんの? オレとお前、毎日顔つき合わせてんじゃん!」
アリサとカイン間ならともかく、ヒューとカインは詰所で毎日会うし、訓練もする。休憩時間は一緒に過ごすことも多い。手紙をわざわざやり取りする意味を見いだせない。
「でも、友達に手紙書くって楽しくないか? 手紙に何書こうって考える時間」
そう言われて、「確かに」と納得した。
アリサの手紙を読むのは嬉しかったし、返事に何を書こうかと考える時間は楽しかった。
そう考えたことが伝わったのだろう。
「じゃあ、俺、今日から手紙書くから!」
まるで決定事項のように言われた。あまりに嬉しそうな顔に、ヒューはもう何も言わなかった。
※
久しぶりに会えた時、アリサはヒューの顔を見るなり涙を滲ませた。
「ヒュー、ヒュー、よかった……。元気になって」
存在を確かめるかのように手を握り、何度もヒューの名前を呼ぶ。
「アリサ、手紙でも書いたけど、ありがとう。カインと一緒にオレを助けるために動いてくれて」
「もちろんよ! お友達が苦しんでいるのに何もしないでいるなんて、私はできないわ!」
貴族令嬢が、貴族令息が、平民のために動いてくれた。
ヒューは、心に誓った。
――二人のためにオレも何でもしよう。全力で、二人を守ろう、と。
それから、穏やかな時間がしばらく続いた。
やがて、ヒューとカインは、正式に騎士になった。
セレス家に招待され、お祝いされた。
アリサお気に入りの東屋に設置されたテーブルには、たくさんの食べ物やお菓子が並ぶ。
ヒューは初めてのごちそうに目を白黒させた。
「当家のシェフが私のお友達のためにはりきって作ってくれたの」
アリサが嬉しそうに言った。隣でカインが笑うのをこらえて、失敗した。
「アリサが一番はりきってたよね? 俺に何度もヒューが好きなもの確認しに来るんだもの。嫉妬しちゃう」
「カイン! なんで言っちゃうの!」
顔を真っ赤にしたアリサがカインを怒る。まったく怖くない。
「あと、これは私から二人に」
食事を終えて、アリサが二人にそれぞれ細長い箱を差し出した。
「開けていいか?」
ヒューの言葉にアリサは笑顔で応えた。
二人は同時に箱を開けた。
「短剣?」
「これ、魔石だね」
二人の言葉にアリサが頷く。
「守護の魔力を付与してあるの。二人が任務から無事に帰ってこられますようにって」
騎士の剣は国からの貸与品だ。しかし、護身の短剣ならば、自分のものを身に着けられる。
「私が付与したの。勉強の成果が発揮できたわ」
アリサもますます令嬢としての勉強に力を入れていると聞いていた。
自分たちのためにそれを使ってくれたのだ。
アリサから贈られた短剣を胸に抱いたのは、カインもヒューも同じタイミングだった。
それからも、それぞれがやるべきことに全力を出し、そして三人でよく遊んだ。
幸せだった。これからもずっと三人で過ごすのだ。
そう信じていた。
半年後、アリサが消えるまでは。
次回から16話までは少し重めの展開になります。
その後は通常運転に戻りますので、お付き合いいただけたら嬉しいです。




