7 扉が開く時
その日から、扉を挟んだ文字のやり取りが二人の日課になった。
ひと言ふた言の簡単な言葉が行き交うだけだったが、セシリアにとっては一日の中で最も待ち遠しい時間になっていた。言葉を交わすたびに、彼女の文箱には白い紙が静かに積み重なっていく。
扉の向こうで少しずつ、けれど確実に、彼との距離が縮まっていくのを感じていた。
何度も手紙を交わすうちに、セシリアの胸の内に、小さな悪戯心が芽生えた。
その日も部屋の扉が小さく叩かれ、隙間から紙が滑り込んできた。
『困ったことはないか』
セシリアはいつものように少し不格好な文字を並べると、扉の前に膝をついた。そして、返事の紙をそっと隙間へと差し入れる。
向こう側からゆっくりと引き込まれそうになったその紙の端を、セシリアは白い指先で、きゅっと押さえてみた。
紙の動きがぴたりと止まる。
扉の向こうの主は、不思議に思ったのか、紙を何度かくい、くいと引っ張った。セシリアは逃がさないように、くすぐったさを堪えながら、しっかりと紙を床に押し付け続ける。
扉に顔を寄せ、息をひそめて耳を澄ました。けれど向こうからは何も聞こえない。ただ、外を吹く冬の風が窓を揺らすだけ。
その時、不意に取っ手が回り、扉が内側へと静かに開かれた。
現れた光景に、セシリアは目を丸くした。
そこには、取っ手に手をかけたまま、這いつくばるようにして紙を引っ張っていたエデュアルドの姿があった。
セシリアは思わず声を上げて笑いそうになり、慌てて両手で口を覆った。
床の上で視線が絡み合い、エデュアルドはきまり悪そうな顔で微かに目を逸らした。セシリアは悪戯が成功した喜びを瞳に滲ませながら、掴んでいた紙を彼の手元へと滑らせた。
彼は身体を起こし、そこへ書かれた文字に視線を落とした。
『手持ちの本を、すべて読んでしまいました』
セシリアは床に座ったまま小首を傾げ、彼の顔を見上げる。
エデュアルドは手紙をじっと見つめて少しの間考え込んでいたが、やがて彼女に向かって、ついてくるようにと小さく手招きをした。
立ち上がったエデュアルドは、音もなく薄暗い廊下を進んでいく。セシリアは、その大きな背中をそっと追いかけた。
静まり返った回廊の端、柱の陰から、執事と侍女が祈るような心地で二人の背中を見守っていることなど、今のセシリアは気づきもしなかった。




