16 春の足音
それからというもの、外は連日のように激しい雪が続いていたが、城の中には変わらず穏やかな時間が流れていた。
呪いを解くための調査と並行して、春の婚礼へ向けた準備も着実に進められていく。仕立てかけのドレス、真新しい寝具、見事な織りの敷物。
部屋の隅へ置かれた真っ白な婚礼衣装に、そっと指先を滑らせる。
春は近づいている。
けれど、呪いを解く手掛かりは、まだ何ひとつ見つかっていなかった。
やがて、凍てつく白い雪の隙間から、鮮やかな緑の草が芽吹き始める頃――。
朝食の席ににわかに現れたヴィクトルの声が、窓枠を震わせんばかりの勢いで広間に響き渡った。
「うちのばあちゃんが、どうしてもセシリア様に会いたいって聞かないんですよ。ここに連れてきてもいいですかね?」
セシリアが隣のエデュアルドに視線を向けると、彼はわずかに眉を寄せながらも、静かに頷いて見せた。セシリアは手元に筆記具を引き寄せる。
『もし差し支えなければ、私がそちらへ伺っても良いでしょうか』
エデュアルドは手渡された紙片に素早く目を走らせると、それをそのまま、ヴィクトルの前に突き出した。
「ええっ! セシリア様が俺の家にですか? あそこは狭いし汚いですよ! ……って、もしかしてエデュアルド様もついてくる気ですか?」
すかさず、エデュアルドはヴィクトルの脛を蹴り上げた。ヴィクトルは「痛え!」と叫びながら、慌てて馬車の用意に走っていった。
昼を過ぎる頃、二人は並んで馬車に乗り込み、城門の石畳を進んでいた。
道の上の雪はすっかり退けられ、道端に高く積み上げられている。馬車の窓の遥か先に、大きな森が見えてくる。
――百年前の因縁の地。
あの森の奥で、ヘラジカは駆除され、魔女は呪いを残した。
そう思うと、セシリアの身体は自然と強張った。すると、エデュアルドが心配そうにその顔を覗き込んできた。何でもない、と伝えたかったけれど、激しく揺れる馬車の中では文字を書きつけることすらままならなかった。
その時、冷たい風が吹き抜ける御者席から、ヴィクトルの豪快なくしゃみが聞こえてきた。
あまりに大きすぎるその音に、セシリアの強張っていた頬が、わずかに緩む。
隣のエデュアルドは、またかと言わんばかりに、呆れたように首を振っていた。
やがて馬車は速度を落とし、町外れの昏い森の傍らに佇む、小さな木造りの小屋へとたどり着いた。




