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昼休みのちいさな火種

採ってきた薬草を干し終えたアルトは、いつものように鞄を肩にかけて家を出た。

長屋の路地には、朝の光が差し込んでいる。

隣の家の子どもたちが走り回っていて、その横をアルトは静かに通り抜けた。

学園に着くと、初等部の教室はすでに賑やかだった。

「アルト、おはよー!」

「昨日の訓練の話、聞いた?」

「先生たち、なんかすごい真剣だったよね!」

子どもたちの声は明るくて、軽い。

アルトは小さく会釈した。

「おはようございます」

「ねえねえ、アルトはどう思う?」

「また訓練やるのかな?」

「今度は全校でやるって噂だよ!」

机の周りに集まってくる子どもたち。

アルトは鞄を置きながら、少しだけ考えてから答えた。

「……やった方がいいと思うな。

何かあった時、動けるようにしたことに越したことはないだろうし。」

その言い方は、

同い年の子どもにしては落ち着きすぎていた。

「そっかー!」

子どもたちは無邪気に笑う。

アルトは、ほんの一瞬だけ視線を落とした。

その理由を誰も知らない。

「じゃあさ、次の訓練の時、アルトがリーダーやればいいよ!」

「そうだそうだ! アルトならできるよ!」

子どもたちの声は明るい。

期待と好意だけでできている。

アルトは少しだけ目を瞬かせ、すぐに柔らかい笑顔を作った。

「そうだね、やってみようかな。

1人じゃ人をまとめきれないからみんな手伝ってくれると嬉しいな。」

その返し方はとても丁寧で柔らかかった。

子供たちは嬉しそうに頷いて、次の話題へと移っていく。

アルトは窓の外を見た。

朝の光が校庭に落ちている。

(……今日も、日常が始まる)

静かに息を吸い、席に座った。



昼休み。

学園の裏庭は、表の喧騒が嘘のように静かだった。

花壇の土は朝露を吸ってしっとりしている。

アルトは袖をまくり、

小さなスコップで土をほぐしていた。

「……そこ、もう少し柔らかくした方がいいよ」

声の主は、金髪の少年リオルだった。

貴族らしい整った顔立ちなのに、

爪の間には土が入り込んでいる。

「ありがとう。そうするね」

アルトは淡々と返す。

「空気が湿ってきてる。こういう日は、土が重くなるんだ」

アルトは花壇の土をほぐしながら、風の流れを読むカイの言葉に耳を傾けていた。

水やりの量を少し調整する。

その横で、ユナが空を見上げていた。

昼間でも、星の位置を想像するように。

「昨日の夜、北の星が少し低かった。

季節が変わる前触れだよ」

「季節……?」

アルトが聞くと、ユナはこくりと頷いた。

「うん。星の高さでわかるの。

この花、そろそろ芽が増えると思う」

ユナは淡々としている。

知識をひけらかすわけでもなく、ただ“事実”として言うだけ。

リオルがちらりとユナを見る。

「君の家、船乗りだったんだろう?

星で方角を読むって聞いた」

「うん。夜は星が道になるから」

ユナはそれだけ言って、また土に視線を戻した。

三人とも必要以上に話さない。

でも、沈黙は心地よい。

アルトは静かに息を吸い、また土をならした。

(……こういう時間は、嫌いじゃない。

にしても、この子たち……すごく博識だな。

この世界はどこの家の子もこんな感じなのか?)

裏庭には、土の匂いと、風の音と、淡々とした子どもたちの気配だけがあった。



土をならしていると、リオルがふと手を止めた。

「そういえば……次の防災訓練、初等部だけじゃなくて、全学年でやるらしいね」

淡々とした声。

アルトはスコップを動かしながら小さく頷いた。

「うん。昨日、そんな話を聞いたよ」

カイが風の匂いを確かめるように鼻をひくつかせる。

「火災の想定なんだって。」


アルトは手を止めた。

ふと口を開いた。

「……火災の想定なら、煙の演出とか、炎の幻影とか……

 そういうの、使えないのかな。

 あれって、魔力が強くないとできないの?」

リオルが手を止め、少しだけ考えるように視線を上げた。

「できるよ。

でも、初等部だけじゃ無理だね。

中等部と高等部の魔法士が必要になる。

幻影はともかく、煙は魔力の調整が難しいよ。

濃すぎると危ないし」

「……火を、再現するのか?」

「もちろん本物じゃないよ」

「中等部と高等部の魔法士が手伝うってくれるなら……」

アルトが土を払いつつ、空を見上げた。


カイが首をかしげる。

「僕らがちゃんと動けば大丈夫でしょ」

ユナも頷く。

「うん。初等部は逃げるだけだし。

リーダーがいれば、みんな動けるよ」

その言葉に、

三人の視線が自然とアルトへ向いた。


リオルは少しだけ肩をすくめる。

「僕の家の知り合いが、魔法士科にいるから紹介しようか?

“安全な範囲で火災の再現をしたい”って伝えればいい?」

「うん、よろしく頼むよ。リアリティがないと、真剣にやってくれる人もいるからね。」

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