迷いを抱えたまま進む手
潮晶石の加工は、想像以上に難航していた。
机の上には工具と素材が並び、部屋には緊張した空気が漂っている。
アルトは潮晶石にそっと魔力を流し込みながら、細心の注意を払って削っていた。
――少しでも魔力を流しすぎれば、砕ける。
その事実が、手の震えを誘う。
「……っ」
潮晶石がわずかに軋む音を立て、アルトは息を呑んだ。
「焦るな、ゆっくりでいい」
隣で見守っていたマーティンが、落ち着いた声で支える。
アルトは小さく頷き、再び慎重に魔力を流した。
◇
その間、他の仲間たちも黙々と作業を進めていた。
リオルは素材の調合を行い、
ユナは補強布を縫い、
カイは金属部品を整えている。
誰もが自分の役割を理解し、
誰もがラピスのために動いていた。
その連携は、まるで一つの大きな機械のように滑らかだった。
◇
「……できた」
アルトがそっと息を吐いた。
潮晶石の中心部に、淡く脈打つ光が宿っている。
義手の“心臓部”となる魔力核が、ついに形になったのだ。
部屋の空気が少しだけ緩む。
「すごい……」
ユナが目を輝かせる。
「これで、義手の核が完成したんだな」
カイが感嘆の声を漏らす。
マーティンも満足げに頷いた。
「よくやった。これで大きく前進した」
◇
しかし、アルトは魔力核を見つめたまま、ふと手を止めた。
胸の奥に、モヤモヤした思いが広がる。
――ラピスとの出会い。
――壊れた義手。
――助けたいと思った気持ち。
あの時の光景が、鮮明に蘇る。
ラピスは自分を信じてくれた。
与えられた義手を、心から喜んでいた。
だからこそ、助けたいと思った。
だからこそ、自分たちで作った義手を完成させたいと思った。
けれど――
「……もしかして、独りよがりなのかな」
ぽつりと漏れた言葉は、誰にも聞こえないほど小さかった。
ラピスは本当に、自分の助けを望んでいるのだろうか。
自分が勝手に護衛にと思っているだけなのではないか。
胸の奥が少し痛む。
それでも、アルトは魔力核をそっと持ち上げた。
「……やるしかない」
モヤモヤした思いを抱えたまま、
それでも手を止めることはできなかった。
ラピスが再び動けるようになるために。
あの人が笑えるようになるために。
アルトは静かに息を整え、次の工程へと手を伸ばした。
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