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迷いを抱えたまま進む手

 潮晶石の加工は、想像以上に難航していた。

 机の上には工具と素材が並び、部屋には緊張した空気が漂っている。

 アルトは潮晶石にそっと魔力を流し込みながら、細心の注意を払って削っていた。

 ――少しでも魔力を流しすぎれば、砕ける。

 その事実が、手の震えを誘う。

「……っ」

 潮晶石がわずかに軋む音を立て、アルトは息を呑んだ。

「焦るな、ゆっくりでいい」

 隣で見守っていたマーティンが、落ち着いた声で支える。

 アルトは小さく頷き、再び慎重に魔力を流した。

 その間、他の仲間たちも黙々と作業を進めていた。

 リオルは素材の調合を行い、

 ユナは補強布を縫い、

 カイは金属部品を整えている。

 誰もが自分の役割を理解し、

 誰もがラピスのために動いていた。

 その連携は、まるで一つの大きな機械のように滑らかだった。

「……できた」

 アルトがそっと息を吐いた。

 潮晶石の中心部に、淡く脈打つ光が宿っている。

 義手の“心臓部”となる魔力核が、ついに形になったのだ。

 部屋の空気が少しだけ緩む。

「すごい……」

 ユナが目を輝かせる。

「これで、義手の核が完成したんだな」

 カイが感嘆の声を漏らす。

 マーティンも満足げに頷いた。

「よくやった。これで大きく前進した」

 しかし、アルトは魔力核を見つめたまま、ふと手を止めた。

 胸の奥に、モヤモヤした思いが広がる。

 ――ラピスとの出会い。

 ――壊れた義手。

 ――助けたいと思った気持ち。

 あの時の光景が、鮮明に蘇る。

 ラピスは自分を信じてくれた。

 与えられた義手を、心から喜んでいた。

 だからこそ、助けたいと思った。

 だからこそ、自分たちで作った義手を完成させたいと思った。

 けれど――

「……もしかして、独りよがりなのかな」

 ぽつりと漏れた言葉は、誰にも聞こえないほど小さかった。

 ラピスは本当に、自分の助けを望んでいるのだろうか。

 自分が勝手に護衛にと思っているだけなのではないか。

 胸の奥が少し痛む。

 それでも、アルトは魔力核をそっと持ち上げた。

「……やるしかない」

 モヤモヤした思いを抱えたまま、

 それでも手を止めることはできなかった。

 ラピスが再び動けるようになるために。

 あの人が笑えるようになるために。

 アルトは静かに息を整え、次の工程へと手を伸ばした。

本作をお読みいただきありがとうございます。

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