動けない身体と揺れる心
アルトの自室は、いつもより静かだった。
机の上には、彼女が描いた魔力回路の紙が散らばり、
窓から差し込む光がそれらを淡く照らしている。
ラピスはベッドに腰掛け、
まだ不完全な義手をじっと見つめていた。
指は動かない。
魔力を流せば、すぐに軋んで壊れてしまう。
身体も思うように動かず、歩くたびに痛みが走る。
「……情けないな」
小さな呟きが、静かな部屋に溶けていく。
アルトたちは今、外で頑張っている。
自分のために、潮晶石を探しに行った。
危険な洞窟へ向かったと聞いた。
だからこそ――
自分も何かできないかと、ずっと考えていた。
だが、現実は残酷だ。
義手は未完成。
身体は不自由。
魔力も安定しない。
「……俺は、何もできない」
焦りが胸の奥で渦を巻く。
ただ待つことしかできない自分が、悔しくてたまらない。
ふと、アルトの姿が脳裏に浮かんだ。
彼女は、普通の子どもにしては大人びすぎている。
最初は不思議だった。
どうして、あんなに落ち着いているのか。
どうして、あんなに冷静で、強いのか。
けれど、一緒に生活するうちに気づいた。
「……大人になるしか、なかったんだろうな」
その言葉を口にした瞬間、胸が締めつけられた。
彼女は優しい。
誰よりも、他人の痛みに敏感だ。
だからこそ、無理をしてしまう。
そんな彼女が、今も遠い場所にいる。
心配で、胸が苦しい。
けれど――
「……信じてるよ、アルト」
ラピスはそっと目を閉じた。
自分のために、仲間のために、そして――
自分自身のために。
だから、自分も諦めない。
動かない指でも、痛む身体でも、できることを探し続ける。
「帰ってきたら……ちゃんと笑って迎えたいからな」
静かな部屋に、遠くの波の音が微かに響いた。
ラピスは義手の欠片をそっと握りしめた。
「ただいま戻りました」
「!ああ、おかえりアルト」
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