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叱責と、ひそかな期待

 放課後、リオルは自室にこもり、机いっぱいに薬草の本を広げていた。

 ページをめくる指先は真剣そのもので、目は必死に文字を追っている。

(潮晶石に似た性質の素材……何か、何かないかな)

 そんな時、扉がノックもなく開いた。

「リオル。あなた、また薬草の本なんて……」

 義母が腕を組んで立っていた。

 その表情は、いつものように厳しく、冷たい。

「騎士とは、まず精神と鍛錬が――」

 説教が始まった。リオルは本を閉じ、姿勢を正す。

「……申し訳ありません」

 義母の言葉は続く。

 家柄、責務、騎士の誇り――

 リオルには重すぎる言葉ばかりだ。

 その時。

 コツ、コツ、と杖をつく音が廊下から近づいてきた。

 義母の顔色が一瞬で変わる。

「お、お義父様……!」

 扉の前に立っていたのは、リオルの祖父。

 元騎士であり、家中の誰もが頭の上がらない人物だ。

「……リオルに話がある。下がれ」

 低く、重い声。

 義母は青ざめたまま深く頭を下げ、逃げるように退室した。

 部屋に静寂が戻る。

 リオルは背筋を伸ばし、祖父を見つめた。

「……お祖父様」

「ふむ。座らせてもらおう」

 祖父が言うと、控えていた従者がすぐに椅子を運んできた。

 祖父はゆっくりと腰を下ろし、リオルをじっと見つめる。

 その視線だけで、胸が締めつけられるようだった。

「リオル。学校での交友関係について聞いている」

「……はい」

「特に、アルトという子供だ。長屋に住んでいるのだろう」

 リオルは息を呑む。

「貴族が長屋に出入りするなど……攻撃してくださいと言っているようなものだ」

「……申し訳ありません」

 祖父の声は静かだが、重い。

 リオルは膝の上で手を握りしめた。

「そのアルトという者。剣術も戦闘能力も強いと聞く。防災訓練でも問題を起こしたそうだな。性別すら曖昧で、素性がわからん」

 リオルは迷った末、口を開いた。

「……アルトの家で、貴族の紋章がついた本を見ました。

 アルトは……貴族の出だと思います。

 一応、女性ですが……振る舞いは男性的で……。

 幼少期に何かあったのだろうと……それ以上は聞けない雰囲気でした」

 祖父は無言で頷いた。

「……続けろ」

「はい。今、学校では……アルトの家に記憶喪失の男性が来ていて……

 その方が騎士か冒険者らしく、手足を失っているのですが……

 義手と義足を調整すれば護衛として雇えるのではないかと……

 皆で試行錯誤しています」

 祖父は目を細めた。

「義手……?」

「はい。ですが、作成途中で座礁してしまい……

 魔力を通しやすく、補強に使える素材を探しています。

 見当はついたのですが、実際に試してみないと……。

 なので、似たような効果のある素材を……探していて……」

 リオルは言い終えると、祖父の反応を待った。

 祖父はしばらく無言でリオルを見つめていた。

「……それで、お前も素材を探そうと?」

「……はい。

 成功したら……その技術を教えてもらって……

 お祖父様の義足に転用できないかと……」

 祖父の眉が、わずかに上がった。

「……ふむ」

 短い声。

 叱られると思っていたリオルは、逆に戸惑う。

 祖父はゆっくりと立ち上がり、杖をついた。

「……剣術の練習もするべきだ」

「……はい」

 落ち込むリオルに、祖父は続けた。

「お前の祖母の遺留品が、この部屋に残っている。薬草の道具もあったはずだ。好きに使え」

 リオルは目を見開いた。

「……ありがとうございます」

 祖父は背を向け、杖をつきながら歩き出す。

「……完成するのを、楽しみにしている」

 その言葉だけ残し、祖父は静かに部屋を後にした。

 リオルはしばらく動けなかった。

 胸の奥が熱くなり、涙がこぼれそうになる。

(……お祖父様)

 厳しいけれど、見捨ててはいない。

 祖母が守ってくれた道を、祖父もまた、細いながらも許してくれている。

 リオルはそっと祖母の遺留品の棚に手を伸ばした。

本作をお読みいただきありがとうございます。

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