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就活と魔法と、少しの余裕

 朝の光が差し込む街を、ハリスは軽い足取りで歩いていた。

 向かう先は、魔法庁の採用試験会場。

 就活の本命だ。ここで落ちるわけにはいかない。

(……まあ、緊張はしてるけどな)

 胸の奥に少しだけ重さを感じながらも、どこか楽しげな自分がいる。

 歩きながら、ふと最近の出来事が頭をよぎった。



 就活の合間を縫って、冒険者資格も取った。

 理由は単純だ。

「素材集めにも役立つし、何より……今後の生活のためにもなる」

 そう思ったからだ。

 冒険者テストは問題なく合格し、帰り道の海沿いで潮風を吸い込みながら、ハリスは小さく笑った。

「これで……潮晶石の洞窟にも入れるな」

 マーティンたちの顔が浮かぶ。

「どうせ今頃、図書室で騒いでるんだろうな……」

 苦笑しながら歩いたあの日のことを思い出す。

 ――実際に騒いでいたのだから、予想は見事に当たっていた。



 試験会場に着くと、受験者たちの緊張した空気が漂っていた。

 ハリスは受付を済ませ、筆記試験の部屋へ向かう。

 魔物の知識、地形、応急処置、魔法理論――どれも魔法学科で学んだ基礎だ。

 周囲の受験者が眉間に皺を寄せて問題と格闘する中、ハリスはさらさらとペンを走らせていく。

(まあ、このくらいなら大丈夫だな)

 余裕の笑みを浮かべながら、最後の問題まで一気に解き終えた。



 次は魔力操作の試験。

 火・氷・風の基礎魔法を安定して放つ必要がある。

 ハリスは軽く息を整え、手をかざした。

 ――ボッ。

 火球が鮮やかに生まれ、続いて氷の槍が空気を震わせ、最後に風の刃が静かに走る。どれも無駄のない、美しい魔力の流れだった。

「……火力、でかくない?」

「なんだあいつ……」

 周囲から嫉妬と羨望の視線が集まるが、ハリスは気にした様子もなく魔力を収めた。

(アルトも、剣術でこういう試験受けたら受かるんじゃないか……?)

 ふとそんなことを思いながら、次の試験へ向かう。



 実技試験の最後は、木製の魔物人形を相手にした模擬戦だ。

 制限時間内に倒せれば合格。

「よし、さっさと終わらせるか」

 ハリスは魔力を練り、火で牽制し、氷で動きを止め、風で一気に切り裂く。

 魔法の連携は滑らかで、無駄がない。

 人形はあっという間に崩れ落ちた。

「……早すぎない?」

「何者だよあいつ」

「魔力が多くないか?」

 ざわつく受験者たちを背に、ハリスは淡々と退場した。



 数日後。

 掲示板の前には受験者が群がっていた。

 ハリスは自分の番号を見つけると、小さくガッツポーズをした。

「よし」

 その背後から声がかかる。

「君なら上位ランクの部署も狙えるよ」

 試験官が感心したように言うと、

 ハリスは苦笑しながら首を振った。

「いや、今はこれで十分です」

 今は――資格さえあればいい。

 生活の基盤を整え、必要な時に動けるように。



 会場を出ると、海沿いの道から潮風が吹き抜けた。

 ハリスは深呼吸をして、空を見上げる。

「これで……潮晶石の洞窟にも入れる」

 アルトたちの顔が思い浮かぶ。

「どうせ今頃、また図書室で騒いでるんだろうな……」

 苦笑しながら歩き出すハリス。

 その予想は、今回もきっと当たっている。

本作をお読みいただきありがとうございます。

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