就活と魔法と、少しの余裕
朝の光が差し込む街を、ハリスは軽い足取りで歩いていた。
向かう先は、魔法庁の採用試験会場。
就活の本命だ。ここで落ちるわけにはいかない。
(……まあ、緊張はしてるけどな)
胸の奥に少しだけ重さを感じながらも、どこか楽しげな自分がいる。
歩きながら、ふと最近の出来事が頭をよぎった。
◇
就活の合間を縫って、冒険者資格も取った。
理由は単純だ。
「素材集めにも役立つし、何より……今後の生活のためにもなる」
そう思ったからだ。
冒険者テストは問題なく合格し、帰り道の海沿いで潮風を吸い込みながら、ハリスは小さく笑った。
「これで……潮晶石の洞窟にも入れるな」
マーティンたちの顔が浮かぶ。
「どうせ今頃、図書室で騒いでるんだろうな……」
苦笑しながら歩いたあの日のことを思い出す。
――実際に騒いでいたのだから、予想は見事に当たっていた。
◇
試験会場に着くと、受験者たちの緊張した空気が漂っていた。
ハリスは受付を済ませ、筆記試験の部屋へ向かう。
魔物の知識、地形、応急処置、魔法理論――どれも魔法学科で学んだ基礎だ。
周囲の受験者が眉間に皺を寄せて問題と格闘する中、ハリスはさらさらとペンを走らせていく。
(まあ、このくらいなら大丈夫だな)
余裕の笑みを浮かべながら、最後の問題まで一気に解き終えた。
◇
次は魔力操作の試験。
火・氷・風の基礎魔法を安定して放つ必要がある。
ハリスは軽く息を整え、手をかざした。
――ボッ。
火球が鮮やかに生まれ、続いて氷の槍が空気を震わせ、最後に風の刃が静かに走る。どれも無駄のない、美しい魔力の流れだった。
「……火力、でかくない?」
「なんだあいつ……」
周囲から嫉妬と羨望の視線が集まるが、ハリスは気にした様子もなく魔力を収めた。
(アルトも、剣術でこういう試験受けたら受かるんじゃないか……?)
ふとそんなことを思いながら、次の試験へ向かう。
◇
実技試験の最後は、木製の魔物人形を相手にした模擬戦だ。
制限時間内に倒せれば合格。
「よし、さっさと終わらせるか」
ハリスは魔力を練り、火で牽制し、氷で動きを止め、風で一気に切り裂く。
魔法の連携は滑らかで、無駄がない。
人形はあっという間に崩れ落ちた。
「……早すぎない?」
「何者だよあいつ」
「魔力が多くないか?」
ざわつく受験者たちを背に、ハリスは淡々と退場した。
◇
数日後。
掲示板の前には受験者が群がっていた。
ハリスは自分の番号を見つけると、小さくガッツポーズをした。
「よし」
その背後から声がかかる。
「君なら上位ランクの部署も狙えるよ」
試験官が感心したように言うと、
ハリスは苦笑しながら首を振った。
「いや、今はこれで十分です」
今は――資格さえあればいい。
生活の基盤を整え、必要な時に動けるように。
◇
会場を出ると、海沿いの道から潮風が吹き抜けた。
ハリスは深呼吸をして、空を見上げる。
「これで……潮晶石の洞窟にも入れる」
アルトたちの顔が思い浮かぶ。
「どうせ今頃、また図書室で騒いでるんだろうな……」
苦笑しながら歩き出すハリス。
その予想は、今回もきっと当たっている。
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