潮晶石の話題に火がついて
朝の光が差し込む校舎を、アルトは少し重い足取りで歩いていた。
潮晶石の情報を得たのは嬉しい。けれど、それをマーティンに頼むことになるのではないかと思うと、胸の奥がざわつく。
義手の試作だけでも負担をかけているのに、さらに危険な場所へ行ってもらうなんて――。
(……迷惑、かけてるのかな)
そんな思いを抱えたまま、アルトは図書室の扉をそっと開けた。
静かな空気の中、紙をめくる音が微かに響く。
奥の席で、マーティンが分厚い本を広げていた。
「マーティン……」
声をかけると、マーティンは手を止め、顔を上げた。
その表情はいつも通り落ち着いていて、アルトの不安を少し和らげる。
「どうした、アルト」
「昨日、冒険者ギルドで……素材のことを相談してきた」
アルトは潮晶石のことを説明した。
魔力を通しやすく、補強にも使えること。
海岸の洞窟で採れること。
そして、冒険者と騎士団以外は立ち入り禁止であること。
説明を聞くうちに、マーティンの目がみるみる輝き始めた。
「……潮晶石だって? 本当に?」
椅子がきしむほど身を乗り出し、声が一段階大きくなる。
「行くのは構わない。いや、むしろ行きたい。潮晶石なんて滅多に触れない素材だぞ。魔力の流れを安定させる性質があって――」
興奮が止まらないのか、マーティンの声はさらに大きくなっていく。
「ま、マーティン、声……!」
アルトが慌てて制止しようとしたその時――
「……図書室で大声出すなんて珍しいな」
背後から呆れた声がした。
振り返ると、ハリスが腕を組んで立っていた。
完全にドン引きした表情である。
「ハリス(叔父)さん!」
アルトとマーティンは同時に姿勢を正した。
「で、何の話だ?」
ハリスが席に近づくと、アルトとマーティンは潮晶石の説明をした。
ハリスは話を聞きながら、マーティンの興奮ぶりに目を細める。
「……そこまで興奮するってことは、相当珍しい石なんだな」
「いや、効果の話は読んだことはあるんだが……鍛冶に関係ないと思っていて、そこまで気にしていなかったんだ」
マーティンは珍しく照れたように視線をそらした。
「……勉強し直すかな」
ぽつりと漏らしたその言葉に、アルトは思わず身を乗り出した。
「わ、私も一緒に勉強したい!」
マーティンは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに柔らかく笑った。
「魔法といい、覚えることが多いからな。
まずは義手と基礎的な回路からだ」
「はい!」
アルトが力強く頷いたその瞬間――
カーン……カーン……。
予鈴の鐘が鳴り響いた。
「やばっ、もうこんな時間か!」
「資料片付けないと!」
三人は慌てて本や紙をまとめ、急いで図書室を出ようとする。
その背中に、司書の鋭い声が飛んだ。
「図書室は走らない!」
「す、すみません!」
廊下へ飛び出した三人は、思わず顔を見合わせて笑った。
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