繊細な光
マーティンは、昨日アルトが刻んだ小さな回路を作業台に置き、じっと見つめていた。
淡く光を放ったあの瞬間が、どうしても頭から離れなかったのだ。
「……これは偶然にしてはとても出来がいいな」
彼は小さく呟いた。
「えっ……?」
アルトが戸惑ったように顔を上げる。
「この線の細さ、魔力の流れ方……普通はこうならない。
お前は自覚していないようだが、魔力操作が驚くほど繊細だ」
「…そういうものなのでしょうか」
アルトは頬を赤くし、視線を落とした。
「丁寧にやっただけでこれができるのが、才能なんだ」
ユナが優しく笑い、アルトの肩を軽く叩く。
「ありがとう」
アルトは少しだけ自信を持ったように微笑んだ。
朝の潮風が吹き込み、空き家の中を心地よく満たしていた。
◇
今日はハリスとカイも合流し、五人が揃って作業台を囲む。
「昨日、練習してたんだって?」
カイが興味津々に尋ねる。
「うん、でもほとんど失敗だったよ」
ユナが笑いながら答える。
「でも、一回だけすごいのができたんだ」
ハリスがアルトを見る。
「えっ、なんで知って……」
「マーティンから聞いた。見せてもらったけど、あれはすごいぞ」
アルトは照れくさそうに視線をそらした。
マーティンは昨日の回路を再び取り出し、光にかざす。
「よくよく見直してみると繊細だが……脆いな」
彼は冷静に分析した。
「脆い?」
「線が細すぎる。魔力の流れは美しいが、強度が足りない。
だが、この“繊細さ”は関節部分のヒントになるかもしれない」
その言葉に、ハリスが目を細めた。
「……もしかして、関節部分の回路も“細く繊細に”刻む必要があるんじゃないか?」
マーティンは少し驚いたようにハリスを見る。
「……その可能性はある。試してみる価値はあるな」
五人は作業台を囲み、再び関節部分の試作に挑んだ。
マーティンが魔力を流し、アルトが計測器を見守り、ユナが工具を渡し、ハリスが素材を固定し、カイが補助に回る。
昨日よりも魔力の揺れは少ない。回路の線も、わずかに安定している。
しかし――
「……また欠けたか」
マーティンが小さく息をつく。
「惜しいところまでは行ってるんだけどな」
ハリスが素材を見ながら言う。
「昨日よりは……良くなってますよね?」
アルトが恐る恐る尋ねる。
「ああ。確実に改善している」
マーティンは静かに頷いた。
「そうだ。アルトに繊細な部分をやってもらうか」
「!?脆いのでは?」
「確かにそのままなら脆いが、材料に他の素材を混ぜた塗料を塗ることで補強される。
材料を増やそう」
マーティンの説明に、ハリスは頷きながらも眉を寄せた。
「材料を増やすって言っても、そこの部分だけだと歪まないか?」
マーティンは目を瞬かせ、すぐに同意するように頷いた。
「確かにそうだな……また図書館かどこかで探してみよう」
その会話を聞いていたアルトが、手を挙げて言った。
「それなら、今度ジャックさんとシルさんに会うので、その時に何か材料になりそうなものはないか聞いてみるよ」
「……ジャックって誰だったっけ?」
カイが首をかしげる。
「もう、カイってば! この間会ったばかりの冒険者ギルドの人だよ。
魔法使いさんと弓使いさんだったでしょ!」
「ああ、そういえば。魔法を教わる約束してたな」
「うん。三人ともワイバーンや周辺の活性化した魔物の討伐で忙しくしていて、まだ来られていないんだ」
「他人事になるかもしれないが、それは大変だな」
ハリスが腕を組み、遠くを見るように言った。
「そうだな。ハリス叔父さんとアルトは冒険者のテストを受けて、中止になったばかりだったな。そのあとはどうするんだ?」
「ラピスの回復を待とうかと思っている」
「俺は就活が終わる前には冒険者の資格を取得しないとだな。
あー、マーティンみたいに早めに取っておくべきだったな」
「マーティンはすでに冒険者登録していたの?」
「ああ。もともと鍛冶屋になるつもりだったから、素材くらい自分で取れるようにしようと思ってな。
実際、材料のほとんどはアルトと俺で半分ずつくらいだぞ」
「そうだったんだ……」
アルトは驚きと尊敬が入り混じった表情でマーティンを見つめた。
海風が静かに吹き抜け、作業場の空気を優しく揺らした。
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