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繊細な光

 マーティンは、昨日アルトが刻んだ小さな回路を作業台に置き、じっと見つめていた。

 淡く光を放ったあの瞬間が、どうしても頭から離れなかったのだ。

「……これは偶然にしてはとても出来がいいな」

 彼は小さく呟いた。

「えっ……?」

 アルトが戸惑ったように顔を上げる。

「この線の細さ、魔力の流れ方……普通はこうならない。

 お前は自覚していないようだが、魔力操作が驚くほど繊細だ」

「…そういうものなのでしょうか」

 アルトは頬を赤くし、視線を落とした。

「丁寧にやっただけでこれができるのが、才能なんだ」

 ユナが優しく笑い、アルトの肩を軽く叩く。

「ありがとう」

 アルトは少しだけ自信を持ったように微笑んだ。

 朝の潮風が吹き込み、空き家の中を心地よく満たしていた。



 今日はハリスとカイも合流し、五人が揃って作業台を囲む。

「昨日、練習してたんだって?」

 カイが興味津々に尋ねる。

「うん、でもほとんど失敗だったよ」

 ユナが笑いながら答える。

「でも、一回だけすごいのができたんだ」

 ハリスがアルトを見る。

「えっ、なんで知って……」

「マーティンから聞いた。見せてもらったけど、あれはすごいぞ」

 アルトは照れくさそうに視線をそらした。

 マーティンは昨日の回路を再び取り出し、光にかざす。

「よくよく見直してみると繊細だが……脆いな」

 彼は冷静に分析した。

「脆い?」

「線が細すぎる。魔力の流れは美しいが、強度が足りない。

 だが、この“繊細さ”は関節部分のヒントになるかもしれない」

 その言葉に、ハリスが目を細めた。

「……もしかして、関節部分の回路も“細く繊細に”刻む必要があるんじゃないか?」

 マーティンは少し驚いたようにハリスを見る。

「……その可能性はある。試してみる価値はあるな」

 五人は作業台を囲み、再び関節部分の試作に挑んだ。

 マーティンが魔力を流し、アルトが計測器を見守り、ユナが工具を渡し、ハリスが素材を固定し、カイが補助に回る。

 昨日よりも魔力の揺れは少ない。回路の線も、わずかに安定している。

しかし――

「……また欠けたか」

 マーティンが小さく息をつく。

「惜しいところまでは行ってるんだけどな」

 ハリスが素材を見ながら言う。

「昨日よりは……良くなってますよね?」

 アルトが恐る恐る尋ねる。

「ああ。確実に改善している」

 マーティンは静かに頷いた。

「そうだ。アルトに繊細な部分をやってもらうか」

「!?脆いのでは?」

「確かにそのままなら脆いが、材料に他の素材を混ぜた塗料を塗ることで補強される。

 材料を増やそう」

 マーティンの説明に、ハリスは頷きながらも眉を寄せた。

「材料を増やすって言っても、そこの部分だけだと歪まないか?」

 マーティンは目を瞬かせ、すぐに同意するように頷いた。

「確かにそうだな……また図書館かどこかで探してみよう」

 その会話を聞いていたアルトが、手を挙げて言った。

「それなら、今度ジャックさんとシルさんに会うので、その時に何か材料になりそうなものはないか聞いてみるよ」

「……ジャックって誰だったっけ?」

 カイが首をかしげる。

「もう、カイってば! この間会ったばかりの冒険者ギルドの人だよ。

 魔法使いさんと弓使いさんだったでしょ!」

「ああ、そういえば。魔法を教わる約束してたな」

「うん。三人ともワイバーンや周辺の活性化した魔物の討伐で忙しくしていて、まだ来られていないんだ」

「他人事になるかもしれないが、それは大変だな」

 ハリスが腕を組み、遠くを見るように言った。

「そうだな。ハリス叔父さんとアルトは冒険者のテストを受けて、中止になったばかりだったな。そのあとはどうするんだ?」

「ラピスの回復を待とうかと思っている」

「俺は就活が終わる前には冒険者の資格を取得しないとだな。

 あー、マーティンみたいに早めに取っておくべきだったな」

「マーティンはすでに冒険者登録していたの?」

「ああ。もともと鍛冶屋になるつもりだったから、素材くらい自分で取れるようにしようと思ってな。

 実際、材料のほとんどはアルトと俺で半分ずつくらいだぞ」

「そうだったんだ……」

 アルトは驚きと尊敬が入り混じった表情でマーティンを見つめた。

 海風が静かに吹き抜け、作業場の空気を優しく揺らした。

本作をお読みいただきありがとうございます。

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