ぼうさい訓練の日
訓練当日。
初等部の子どもたちは、朝からそわそわしていた。
「今日は“ぼうさい訓練”の日だよ!」
「ちゃんと役割、覚えてきた?」
「うん! わたし、けが人の手当て係!」
先生たちは見守るだけで、基本的には子どもたちが主導する形になっていた。
先生が魔力灯を軽く揺らし、“訓練開始”の合図を出す。
「避難開始ー!」
子どもたちは一斉に立ち上がり、
教室からグラウンドへ向かって走り出す……のではなく、落ち着いて歩く。
「走らないでー!」
「列を守ってー!」
(……本当に守ってる。すごい)
先生は驚きながらも、後ろからゆっくりついていく。
グラウンドに到着すると、子どもたちは自分たちで作った“役割表”を確認し始めた。
「けが人運ぶ班、こっちー!」
「炊き出し班は火の魔法の人、点呼してー!」
「テント班、テントを固定する杭は持ってきた?」
先生は思わず目を瞬かせる。
(……本当に全部覚えてるのね)
「けが人役、倒れまーす!」
アルトが芝生に寝転がる。
「よし、担架いくよ!」
木の棒と布を組み合わせた簡易担架を、二人の子が慎重に持ち上げる。
「頭の方、ゆっくりー!」
「足、ぶつけないように!」
(……動きが丁寧すぎる)
先生は思わず笑ってしまいそうになる。
炊き出し班は、火の魔法が使える子を中心に集まっていた。
「火、弱めでお願いね!」
「鍋、持ってきたよ!」
「今日は“お湯を沸かす練習”だけ!」
火の魔法を小さく灯し、鍋の下に置く。
「わぁ……ほんとに湯気出てる」
「これ、大変な時に役立つよね」
(……魔法の使い方が、妙に実用的だねぇ)
テント班は、布と棒を組み合わせて簡易テントを作っていた。
「ここ、結び目ゆるいよ!」
「風が来たら飛んじゃう!」
「杭をもっと深く刺して!」
(……誰が教えたの、これ)
先生は心の中でツッコミを入れる。
最後に、教室に戻って“バリケードの作り方”を実演する。
「机をこうやって……」
「イスはここに置くと、倒れにくいよ!」
「窓は閉めて、カーテンも!」
先生は腕を組んで見守りながら、思わず感心してしまう。
(……本当に、よく考えてるな。
教える必要がないくらい……
どこからこれを知ったんだろう?騎士の家か……?)
全ての工程が終わると、子どもたちはグラウンドに集まった。
「先生! どうでしたか!」
先生はしばらく言葉を探し、やがて柔らかく微笑んだ。
「……とても素晴らしかったよ。
みんなが自分で考えて、自分で動いて……本当に立派だった」
子どもたちは嬉しそうに笑い合う。
夕暮れの光が差し込むグラウンドで、その笑顔はどこまでも明るかった。
(……この子たち、ほんとうに強くなったなー)
先生たちは柔らかい笑顔を浮かべつつも内心、顔を引き攣らせながら胸の奥でそっとそう呟いた。
そう見えないのは、ひとえに先生を何年もやってきているからだった。




