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第3の壁

 朝の海風が静かに吹き込み、潮の匂いが拠点の空き家に満ちていた。

 アルトが扉を開けると、すでにマーティンが図面を広げて作業台に向かっていた。

「おはようございます」

「おはよう」

 ユナも明るい声で入ってくる。

「今日は関節部分ですね……」

 アルトは少し緊張した声で言った。

「誤差が許されない部分だ。慎重にいこう」

 マーティンは図面から目を離さずに答える。

 彼は代替素材を手に取り、硬度や魔力伝導率を確かめるように指先で触れた。

 アルトは横でメモを取りながら補助し、ユナは「何か運ぶものある?」と周囲を見回す。

「この素材は熱に弱い。火は使わず、魔力加工でいく」

 マーティンが判断を下す。

 彼は魔力を流し込みながら素材を削り始めた。

 魔力計測器の光が揺れ、アルトが不安そうに声を上げる。

「魔力が大きく揺れてます……」

「工具、これで合ってる?」

 ユナが差し出すと、マーティンは短く頷いた。

「もう少し角度を変える」

 しかし、関節の溝を削る瞬間――素材がわずかに欠けた。

「……ごめんなさい、私の渡し方が悪かったかも」

 アルトが肩を落とす。

「違う。素材の癖だ。次は対処できる」

 マーティンは落ち着いた声でフォローした。

「大丈夫だよ、まだ始まったばかりだし」

 ユナも優しく笑う。

 マーティンは回路の形を微調整し、再度加工に挑む。

 しかし――結果は同じだった。

 素材はまたも欠け、形にならない。

 マーティンの眉がわずかに動く。

 普段冷静な彼が、ほんの少しだけ焦りを見せた。

 材料を渡すだけだったアルトとユナは、息を呑んで見守るしかない。

 その空気を読み取ったマーティンは、工具を置いて言った。

「……ここまでにしよう。

 今度、ハリス叔父さんが来てからやろう」

 張り詰めていた空気が、ふっと緩む。

「時間が余ったし……せっかくだ。削って廃棄することになった材料で、何か作る練習でもするか」

 マーティンがぽつりと呟いた。

「私もやってみたい」

 アルトが手を挙げる。

「わたしも! ちょっと興味あるかも」

 ユナもワクワクした様子で便乗した。

「じゃあ、一緒にやってみるか」

 マーティンは珍しく柔らかい笑みを浮かべ、ゴミ箱から材料を拾い上げた。

「……あの、貴族的にゴミ箱から拾うのって大丈夫なんですか?」

 アルトが気になって尋ねる。

「家ではやらないし……普段は猫をかぶっているから大丈夫だ」

 マーティンは目を泳がせながら、なぜか仏頂面になってしまう。

 その様子に、アルトとユナは思わず苦笑した。

 失敗の一日だったが、三人の距離は少しだけ近づいたように感じられた。

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